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夢が叶う その時に


気付けば、凜花に抱きつかれていた。

「な、中越、さん?」

なるべく優しく声を掛ければ、鼻をすすりながら小さく
謝る凜花。

「中越さんは、何故そんなにも素直に、受け入れられるんですか」

「零…」

「はい」

零の為だから、という呟きが聞こえた。

俺の為。

何で凜花が俺と一緒に居る事が、俺の為になるのか。

正直、関わりは少しでも少ない方が俺の為なんだけど……

「零が凜花との関わりを絶ったら、どうなるか分かる?」

分からずに小さく謝れば、別に良いわよ、と、意外すぎる言葉が返って来た。

黙って続きを待てば、凜花はそれからあまり間を置かずに話し出した。

「零が凜花と関わりを絶ったら、家同士、会社同士ね。
も、関わりを絶つ事になる」

それは分かっていたつもりだった。

「そうしたら貴方は、どうなる?」

ここは本当に分からなかった。

少しの間、そんなに重くない沈黙が流れ、凜花は再び話し出した。

「あっ、とりあえず言っておくけど、零と榊美桜は付き 合ってるっていう設定で話を進めるけど、良いわよね」

ほら、断れる雰囲気など全く無い。

今回も素直に頷く事となった。

「貴方に好きな人が居て、私や、我社と関わりを断つの。あなたのご家族、ご両親がそれを許すとでもと思う?」

凜花の会社では、ないけど。

そこは置いておいて。

それはそうだ。

凜花は俺の父親の会社、南城グループの大手取引先の、
社長のお嬢さん。

社長令嬢、っていうのかな。

そんな凜花と俺の仲が悪くなれば、会社同士も関わりを
控えるようになる。

そうなればうちの会社は。

昼休み、凜花も言っていたけど、本当。

終わり。

そしてうちの会社が潰れれば、俺はこの南城家を追い出される。

それはもちろん、大事な会社の、第一の倒産の原因だから。

両親からしたら、そんな息子を家に置いておく必要も
無くなる訳で。

両親からしたら俺は。

会社の為に生んだ、いや。

作った道具、だから。

必要が無くなれば、もっと質の良い物が見つかれば。

俺は簡単に捨てられる。

俺と凜花の関係はそんな感じで、凜花の言いたかった事の
半分近くは分かったのだけど、何故。

凜花はここまで必死になるのか。

うちの会社が潰れようと、凜花の会社には全く影響は及ばない。

凜花の父親の会社の方が、よっぽど大きな会社だから。

だから必死になるのは俺で良いはずなのに、何か変。

「中越さんは、何故、そんなに……」

「だから、零の為。収入は無くなり、家は追い出され。
そうなれば、貴方は生きていけるの?その最悪な事態から零が逃れる為に、そのお手伝いをしてるの」

そう言ってまた抱きついてくる凜花。

その後凜花は、だから、これ以上嫌われないように、と
呟いた。

「嫌われる。誰に、ですか?」

「零くんに。零くんも、そんな嫌いな人と一緒に過ごすのは嫌でしょ?だから、これ以上は嫌われないようにしてるの」

俺の負担を減らそうとしてくれていたんだ。

美桜の事が好きなのに、一緒に居られない。

それだけでも、俺にとっては結構な負担で。

その上に嫌いな人とこれからを過ごすという事は、気や
心の小さな俺には耐えられず。

だからなるべく好きな人と居られるように、と。

それで、帰ってくる前と後で、ここまで違う人になって
いたんだ。

正直それが、逆効果だったりするんだけどね。

そんな事、言えるはずもなく。

感謝の気持ちを込めて、凜花を抱きしめた。


さっきの、凜花の言葉を信じて……

<2016/09/05 17:49 秋の空>消しゴム
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