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夢が叶う その時に


美桜との日々が思い出になったあの日から、一週間程
経っただろうか。

この日も俺は、凜花から逃げる事は出来ずにいた。

この、俺達の間に漂う緊張感。

それを一切感じ取らない、漂う緊張感を発している張本人。

深くなってきた、秋という季節。

乾燥した空気。

そこをカラカラと音を立てて舞う枯れ葉たち。

俺はそんな外を、凜花と歩いていた。

パリッ、と枯れ葉を踏む音がして、そこから、凜花の女性らしい、カツカツとした足音が聞こえなくなった。

「どうした?」

凜花の少し前で振り返る。

その視線の先の凜花は、暗めの表情を浮かべ、俯いていた。

「ずっと、一緒に居てよ?」

いつか、美桜にも言われたような、その言葉。

あの、思い出になった日々の始まりだったと、記憶している。

「それは……」

言ってはいけない、分かってはいるけど。

身体はもう、そう、言う事を決めている。

「零?」

「それは、分かりません」

「何で?」

前の彼女を忘れられないから、そんな事を正直に言えば
色々な意味で危険が及ぶ。

「すみません…」

「零?凜花は謝って欲しいんじゃないの。何で、凜花と
一緒に居られないの?」

返す言葉に困れば、謝る。

それを知っている凜花ならではの、この言葉。

それでも俺は、素直に言う事も出来ず、正当な理由も
見つからず。

今回も遂に黙った。

「零っ」

泣きそうな、弱々しい凜花の声の後、冬を目前にした秋の寒さから救うように、凜花の温もりが身体を包んだ。

凜花は何度もこうして、俺を抱きしめてくれた。

何も返せない、こんな俺を。

抱きしめてもらって、それを同じように返す事すら出来ない、この俺を。

「お願い、ちゃんと考えてよ……」

凜花が顔をうずめる辺りの服が、温かな彼女の涙で色を
濃くする。

「りんか」

ゆっくりと名前を呼び、慣れない手つきで彼女の小さな
頭をそっと撫でてみる。

寒さからではなく、小刻みに震える手で。

緊張ほど、大きなものでもない。

そんな、不思議な何かで震える、この手で。

「ねぇ。ちゃんと、一回。冷静になって?」

涙を堪えたような凜花の声が、弱々しくそう言う。

彼女には何も隠せない、という事への驚き。

それから俺は、またも黙った。

そこから、まるで時が止まったかのように。

凜花は俺の胸に顔をうずめ、俺は凜花の頭に手を乗せて。

そのままで居た。

けど実際、時が止まるなんて事がある訳もなく、枯れ葉
たちが風に乗り、カラカラと音を立てる。

それが、より一層。

俺に寂しさを感じさせた。

<2016/09/06 17:38 秋の空>消しゴム
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