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夢が叶う その時に


秋の夕焼けに染まる静かな公園で、ブランコに腰掛け、
風に吹かれていた。

あの日の事を、後悔しながら。

今なら、間違いなく。

素直に伝えられるはずなのに。

あの時の、あの日の俺は。

美桜と自分を繋いでおく、繋ぎ留めておける。

そんな言葉や行動を、見つけられずにいた。

今なら、迷わずに、間違えずに。

ちゃんと美桜に言えるのに。

大好きだと。

隣に居てくれと。

けど、あの日の、あの瞬間から。

隣にも、近くにも。

どこにも美桜の姿は見当たらない。

「はぁ…」

何度目かのため息を吐いた時。

鞄で携帯が鳴った。

今度はそれに対してため息を吐き、電話に出る。

「はい、零です」

『瀬楽です。おぼっちゃま、お時間の方はございますか』

「え、あるけど…」

でしたら、と、少し慌てた声で言う瀬楽さん。

『でしたら、すぐにお戻り下さい』

「今度は何?」

『今、どちらに』

「近くの公園だけど」

そう答えれば、公園の名前を確認する瀬楽さん。

そうだけど、と答えれば、あの日のように何があったかを
話し始める瀬楽さん。

今回も嫌な予感は当たった。

俺は携帯を耳に当てたまま、家に向かった。


家の前に着けば、瀬楽さんが待っていた。

「もう待ってるの?」

「はい。ですので、お急ぎ下さい」


そして俺は今日も、この部屋に。

その部屋には、母親の姿はなく。

父親がソファーに腰掛けていた。

「すみません、お待たせい……」

言い切る前に、お前は何を考えてるんだ、と怒鳴られた。

「あの写真の女とはやっぱり付き合ってたんだろ?
こんなんで良いと思ってるのか」

「すみません…」

今回は、凜花と部屋で話していた事を、聞かれてしまったらしい。

凜花の、感謝して生きるべき、の言葉に返した、絶対嫌
です、の言葉も。

これは、俺にとってかなり大変な事だった。

あんな話を聞かれてしまったら。

「何故あんな何ともない人間と接触するんだ」

やはり。

父親は、俺と美桜の関係はまだ続いていると思っている。

それから少しの沈黙の後、答えろ、と鋭い声が飛んできた。

「好き、だからです」

「お前は自分の立場を分かってるのか」

「重々承知しております」

その言葉と共に、とりあえず頭を下げておく。

これ以上、彼の怒声を浴びないために。

「少しは会社の事も考えてくれ…」

本気で悩んでいるようにそう呟き、脚の間から、床に
敷かれた派手な絨毯を眺める父親。

「お前は、中越さんのお嬢さんの何が気に入らないんだ」

「決してそのような所はございません」

「なら良いだろ。頼むから、凜花さんと居てくれ…」

彼はいつだってそうだった。

会社の事しか考えていない。

だからこうして、今も俺と凜花を近付かせようと、必死
なんだ。

けど俺は、もう凜花とだけは居ない。

居られない。

そんな俺に、父親は更に続ける。

「中越さんの会社だけなんだよ。うちと、取引を続けて
くれてるのは」

「写真に写っていた彼女とは、もう関わっておりません」

「なら、なかご…」
「いえ」

こんな生意気な態度をとったのは、初めてだった。

けど俺は、やっぱり凜花と居続ける事は出来ない。

「凜花さんとの婚約を、取り消して下さい」

「お前はこの会社がどうなっても良いのか!」

「いえ。ただ、好きな人と居たいだけです」

俺がそう言えば、父親は深いため息を吐いた。

そこで、今回の父親との話は終わりとなった。

<2016/09/07 18:49 秋の空>消しゴム
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