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夢が叶う その時に


美桜に話し掛けるか、そんな、どうでも良いような事だけで頭をいっぱいにして、今日という学校での一日が終わりを迎えた。

久々の一人での帰り道。

でもないか。

瀬楽さんに呼び出されたあの時も、一人だった。

俺は今日も、この公園に寄っていた。

冬の、切ない夕陽に照らされた公園。

誰も居なくて、凄く静かで。

枯れ葉たちが宙を舞う音だけが、微かに聞こえる。

そんな頃に鳴るのが、俺の携帯の着信音。

今日も盛大にため息を吐き、電話を取る。

「はい、零です」

そう言う俺の声は、いつも不自然に高かった。

少しでも、相手の感に障らないように。

それは今回もそう。

「…お父さん」

話があると言ったはずだろ、と言われ、謝る前に電話を
切られた。

こちらでも電話を切った後、再び出てくる ため息。

携帯を鞄にしまい、公園を出た。



そして遂に、この部屋の前へ。

瀬楽さんもそこに居る。

そう思うだけで、少し気が楽だった。

「失礼します」

そう言って部屋のドアを開ければ、明らかに不機嫌そうな父親が居た。

「彼女の名前は」

いきなりそう聞かれ、何を言っているのか分からずにいれば、テーブルに写真をばら撒かれた。

あの、凜花お嬢様が撮って下さった、写真を。

「その写真に、一緒に写ってる、彼女の名前だ」

これは間違いなく怒らせてしまった感じだ。

普段はここまで切らない。

「お伝えする必要は、ありますか」

分かってはいても、素直に教えない俺。

「親の言う事が聞けないのか」

この人はいつだってこう。

少しでも逆らおうとすれば、それだけは絶対にさせない、という感じで、脅しに近い口調でこう言う。

「…榊、さんです」

それには、俺も素直になってしまう。

彼の怒声は、何よりも嫌いなものだから。

「はぁ。その榊という女とは、いつからの付き合いだ」

「今は、何の関係もありません」

「当たり前だろ!ただ過去に何があったのかを知りたいだけだ」

当たり前、なんだ。

「中越さんとは、結婚はいたしません」

いきなり俺の口から出たその言葉に、父親は驚いたように目を丸くした。

素直すぎて、分かりやすすぎて、少し笑いそうになった。

「この、榊さんと。もう一度お付き合いをしたいと思っております」

テーブルにばら撒かれた写真を見ながらそう言った。

「お前は自分の言っている事が分かってるのか!」

「はい」

「この人と生きるべき人間ではないんだよ」

「そういった事に関しては、十分理解しているつもりです。ですが、凜花さんを愛する事は、難しいと感じております」

「なら、この女の事は愛せるのか。この女に、心から幸せだと言わせる事が出来るのか」

「はい」

その答えに、その言葉に。

迷いというものは、一切無かった。

その答えに、父親は呆れたようにため息を吐いた。

そして今回も、何に関する答えが出る訳でもなく、父親との話は終了した。


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