両親が居るという部屋へ入れば、かなりの緊張感が漂っていた。
二人に頭を下げる。
「婚約解消とはどういう事だ」
父親の低い声が、漂う緊張感をさらに高める。
「凜花さんとの結婚が、取り消されたという事です」
こうして自分で口にしてみて、やっと少しずつ実感が湧いてくる。
「何故だ。凜花さんから言い出したのか」
「いえ、俺から言い出しました」
そう言った俺の声に、いつもの大人しさなんてなかった。
「何をしてくれる」
こうなったら会社はどうなる…、などとブツブツ言い続ける父親。
「何が嫌だった。何が気に入らなかった」
「ただ、好きでもない人と結婚するのが嫌だっただけ」
「誰に向かって……」
「殴れよ」
父親の言葉を遮った俺の声に、部屋の空気は凍りつく。
父親の動きも、目の前で拳を振り上げた所で止まる。
「殴りたかったら殴れ」
俺は美桜を待たせている。
今すぐにでも美桜の元へ行きたい。
そのためなら、殴られようが家に帰って来れなくなろうが
構わない。
元々、ここに居場所なんて、身方なんて。
無いんだから。
何も状況は変わらない。
「早く」
「お前……」
怒りから震える父親の声。
そして再び、父親が動き出した。
ーパシッ
父親が動き出した後、鋭い音が聞こえたがどこにも痛みは感じられない。
目の前で父親が左頬をさすっている所から、母親が父親を叩いたらしい。
「いい加減にして下さい!」
そんな言葉が、突き刺さるような母親の怒声となって響いた。
「何故貴方は、そんなにも会社の事しか考えられないのですか!」
そう叫ぶ、普段とはまるで違う姿の母親の目には、涙が浮かんでいるのが確認出来た。
こんな母親を見たのは初めてで、驚きを隠せない。
そんな俺の前で、俺と同じような状態の父親に続ける母親。
「そんなに、会社は大切ですか」
普段に近付いた、先程と比べれば穏やかな母親の声がそう聞く。
けど、怒りからか、悲しみからか。
その声は震えていた。
「零は、高校生です。同時に。一人の人間であり、私達の息子です」
「分かっ……」
「分かってません!」
父親の言葉を遮り、そう叫んだ母親の目から、遂に涙が溢れた。
「零は、道具ではありません。会社の為に作ったものではありません」
涙を流し、震える声で発された母親のその言葉に、
何が言いたい、と父親の低い声が聞く。
「高校生。一番恋もしたい時期です。それくらいの自由、させてあげるのが当たり前ではないでしょうか」
本当に、目の前に居るこの女性は俺の母親なのだろうか。
普段は、父親に合わせて、父親に流されて。
こんなに話す母親の姿は、一度も見た事がなかった。
しかも、俺の為とも思えるような言葉を。
「息子、娘の結婚くらいで、そんなに大きく変わるような、そんなに小さな会社ではありません」
結局、会社から見たらそんなもんだよね。
けど、母親がそう言ってくれて、少し嬉しかった。
身方は瀬楽だけではなかったのかも、そう思えた。
「貴方も言っていたじゃないですか。零は優秀だと。
そんな零を好きになった人であり、そんな零が好きに
なった人です。私に、それを間違いだとは思えません」
「…勝手にしろ」
呟くようにそう言い、父親は部屋を出た。
母親と二人きりで残され、何を言おうかと迷っていると、母親は穏やかな笑みを見せた。
「ありがとうございます」
その言葉は、心から出たものだった。
「だから言ったわよね?写真の彼女とはどんな関係なの?って。あの時に素直に言っていればこんな厄介な事には
ならなかったわ」
どこか凜花に似たその声に、返答に困った訳ではなく、
謝った。
「早く行きなさい」
「はい?」
「彼女さん。待たせているのでしょう?」
この丁寧な言葉遣い。
彼女は、確かに俺の母親だった。
「お母さん…」
「零」
これが最も自然な、お互いを呼ぶ、お互いの声だろう。
普通の家の、仲の良い親子のようだった。
二人に頭を下げる。
「婚約解消とはどういう事だ」
父親の低い声が、漂う緊張感をさらに高める。
「凜花さんとの結婚が、取り消されたという事です」
こうして自分で口にしてみて、やっと少しずつ実感が湧いてくる。
「何故だ。凜花さんから言い出したのか」
「いえ、俺から言い出しました」
そう言った俺の声に、いつもの大人しさなんてなかった。
「何をしてくれる」
こうなったら会社はどうなる…、などとブツブツ言い続ける父親。
「何が嫌だった。何が気に入らなかった」
「ただ、好きでもない人と結婚するのが嫌だっただけ」
「誰に向かって……」
「殴れよ」
父親の言葉を遮った俺の声に、部屋の空気は凍りつく。
父親の動きも、目の前で拳を振り上げた所で止まる。
「殴りたかったら殴れ」
俺は美桜を待たせている。
今すぐにでも美桜の元へ行きたい。
そのためなら、殴られようが家に帰って来れなくなろうが
構わない。
元々、ここに居場所なんて、身方なんて。
無いんだから。
何も状況は変わらない。
「早く」
「お前……」
怒りから震える父親の声。
そして再び、父親が動き出した。
ーパシッ
父親が動き出した後、鋭い音が聞こえたがどこにも痛みは感じられない。
目の前で父親が左頬をさすっている所から、母親が父親を叩いたらしい。
「いい加減にして下さい!」
そんな言葉が、突き刺さるような母親の怒声となって響いた。
「何故貴方は、そんなにも会社の事しか考えられないのですか!」
そう叫ぶ、普段とはまるで違う姿の母親の目には、涙が浮かんでいるのが確認出来た。
こんな母親を見たのは初めてで、驚きを隠せない。
そんな俺の前で、俺と同じような状態の父親に続ける母親。
「そんなに、会社は大切ですか」
普段に近付いた、先程と比べれば穏やかな母親の声がそう聞く。
けど、怒りからか、悲しみからか。
その声は震えていた。
「零は、高校生です。同時に。一人の人間であり、私達の息子です」
「分かっ……」
「分かってません!」
父親の言葉を遮り、そう叫んだ母親の目から、遂に涙が溢れた。
「零は、道具ではありません。会社の為に作ったものではありません」
涙を流し、震える声で発された母親のその言葉に、
何が言いたい、と父親の低い声が聞く。
「高校生。一番恋もしたい時期です。それくらいの自由、させてあげるのが当たり前ではないでしょうか」
本当に、目の前に居るこの女性は俺の母親なのだろうか。
普段は、父親に合わせて、父親に流されて。
こんなに話す母親の姿は、一度も見た事がなかった。
しかも、俺の為とも思えるような言葉を。
「息子、娘の結婚くらいで、そんなに大きく変わるような、そんなに小さな会社ではありません」
結局、会社から見たらそんなもんだよね。
けど、母親がそう言ってくれて、少し嬉しかった。
身方は瀬楽だけではなかったのかも、そう思えた。
「貴方も言っていたじゃないですか。零は優秀だと。
そんな零を好きになった人であり、そんな零が好きに
なった人です。私に、それを間違いだとは思えません」
「…勝手にしろ」
呟くようにそう言い、父親は部屋を出た。
母親と二人きりで残され、何を言おうかと迷っていると、母親は穏やかな笑みを見せた。
「ありがとうございます」
その言葉は、心から出たものだった。
「だから言ったわよね?写真の彼女とはどんな関係なの?って。あの時に素直に言っていればこんな厄介な事には
ならなかったわ」
どこか凜花に似たその声に、返答に困った訳ではなく、
謝った。
「早く行きなさい」
「はい?」
「彼女さん。待たせているのでしょう?」
この丁寧な言葉遣い。
彼女は、確かに俺の母親だった。
「お母さん…」
「零」
これが最も自然な、お互いを呼ぶ、お互いの声だろう。
普通の家の、仲の良い親子のようだった。
