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眠り姫


「……可憐」
「悠人……‼︎良かった、怪我ももうすっかり治ってるじゃない!」
「おかげさまでな……あと、もう1つ」
「?」
「ーーーーーーーーー記憶も、戻ったよ」
彩度の低い瞳で笑う悠人。
「そ、そう。良かったじゃない……」
引きつった口元で、軽い言葉が出てくる。
その言葉を聞いた彼は、私を軽蔑するような、冷たい視線を向けた。
「何が良いんだよ。お前の所為だったんだろ?なぁ、可憐」
「ーーーーッ!!」
窓の外から聞こえるのは、のどかな春を感じさせる小鳥のさえずり。
そんなモーニングコールでさえ、今の私の状況は穏やかにしてくれない。
「……また見ちゃったな、この夢」
もう、何回目だろう。
パターンこそは違えど、夢の中の悠人が、記憶が戻った悠人が、私の罪を再確認させるのは。
苦しいけれど、これが私へ制裁だ、と言われたら黙って頷くしかないのだ。
だって、夢の悠人の言う通り、悠人がああなったのは全部、私の所為だから。
まだどちらかというと寒いのに、先ほどかいた冷や汗が、更に冷えて気持ちが悪く、寒気がした。
「……行かなきゃ」
償いには、ならないのかもしれない。
彼の時間を奪った私には、軽すぎる罰なのかもしれない。それでも、やらないよりかは。


「今日も来てくれたんだ、可憐さん」
「そりゃあ、毎日来るわよ……」
事故後の悠人は、私のことを可憐『さん』と呼ぶ。記憶がないのだからしょうがない気もするが、なんだか他人行儀な気がして落ち着かない。
「怪我、大分治ってきたんだぜ?もう3日後には退院出来そうだって、先生も言ってたし」
「治癒能力が昔から高くて助かるわ」
それでも、同い年だから、ということでタメ口なのがせめてもの救いであった。
敬語だなんて、悠人に似合いっこないのだ。
「……ねぇ、悠人」
「ん?どうしたんだよ、可憐さん」
少なくなった包帯をご満悦そうに眺める悠人。
ああ、本当に良くなっている。
「海って、好きかな?」
「海?まぁ、好きだけど……季節外れじゃね?」
現在は3月。夏はまだ遠く、ぬるま湯のような暖かさと、それが冷えた冷たさと。
「悠人の家の近くに、海があるの。そこは、私達の思い出の場所でもあってね……」
「なら行こう!!!!」
右手をガッツポーズにしながら、悠人が病院にはふさわしくない大声を出す。
「俺の記憶の手がかりになるかもしれねぇし!ナイス可憐さん!退院したら早速行こう!」
「う、うん……」
記憶が戻ること、望んでいるのやら望んでいないのやら。
自分ですら良く分からないまま、この三日間をどう過ごそうか。
楽しみだなんて言って、外を眺める悠人を、一度殺した私は、ただただ考えることしか出来なくなっていたのだ。




<2016/11/18 17:59 錯乱咲良>消しゴム
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