「可憐さん!!!!」
無意識に、手を伸ばしていた。
今まで俺と彼女が、どれほどの年月を重ねてきたのかは、今の俺には分からない。
彼女が犯した罪も知らない俺が、勝手に被害者にされた俺は、何故彼女に手を伸ばすのだろう。
1つ予想出来るのは、毎日見舞いに来てくれた彼女に、俺は恋をした、ということか。
可憐さんの、長く伸びた黒髪が、整った顔を隠していた。せめて、顔くらい見せてくれ。
その僅かな願いが行き届いたのかは不明だが、彼女の顔が見え、目が合った。
「ーーー好きだよ、悠人」
可憐さんの表情は、俺が見てきた中では一番美しい笑顔だった。
瞬間、顔面にペチ、と情けない音を立ててなにかが張り付いた。
右手でそれを拭えば、真っ赤な液体が手を染めていた。
「うあ、ああ……」
これは、血だ。
誰の物かといえば、目の前に倒れ込んだ可憐さんの物と見て間違いないだろう。いや、彼女のでない可能性の方が低い。
「……可憐、さん?」
嗚咽しか出てこなかった喉が、初めてまともに発したのは、彼女の名前だった。
だが、返事は返って来ないままだ。
冷たいアスファルトに横たわる可憐さんは、人形のようだった。
しかも、糸がほつれ、中に詰めていた綿が出てしまったような。
抜け殻のようになってしまった人間を、俺は見たことがなかった。
それでも、何故だろうか。
俺の中にある感情の片隅に、「またか」と思い込んでいるものが潜んでいるのは。
またか、なんて。このような惨劇を俺は見たことがあるとでも言いたいのだろうか?
そんな訳がない。失われた命がまた戻るなんて、一体どこのおとぎ話だ。
死んだお姫様が王子のキスで生き返る。白雪姫や眠り姫のような展開なんて、あり得ない。
だったら、この感情はなんなのだろう。
「ーーーーーーそうか」
記憶の断片。バラバラになっていたそれらが、結びついた。
「また、やり直せばいいじゃないか。可憐は、また生き返ることができる」
記憶が戻ったことにより得られる、微かな希望と恐怖。また戻しても、無駄なのではないか。
いいや、そんな筈がない。また失敗したら、何度でも繰り返せばいいじゃないか。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」
呪文のように、症状のように。その言葉を唱え続けた。安心しろ、俺。可憐はきっと、生き返る。
ブツブツとその言葉を唱え続ける。でも、何も起こらない。
「大丈、夫……」
気づかぬうちに、涙が瞳からぼろぼろと溢れ落ちていた。
抱きかかえていた可憐の頬をそれは伝い、やがて乾いていった。
「なんでっ、戻ってくれねぇんだよ……」
俺は、どこかで自分のことを正当化させていたのかもしれない。
理不尽な死を迎えてしまう姫を、助ける王子様。
どんな方法であれど、姫を助けるのは美しいことであると。
でも、俺はどこまでも情けなかった。
美しい姫を、守るどころか、殺してしまった。
何度も何度も繰り返して、何度も何度も殺した。
彼女の代わりなら、俺が死んでも構わない。
そんな感情でこの繰り返しをしてきたが、それすらも痛々しく、なんて見苦しいことだろうか。
逃げてしまいたかった。自分の負った全ての罪を置き去りにして。
「……ごめんな、可憐」
言い訳にもなっていない最低な言葉を、もう動かない君に捧げた。
無意識に、手を伸ばしていた。
今まで俺と彼女が、どれほどの年月を重ねてきたのかは、今の俺には分からない。
彼女が犯した罪も知らない俺が、勝手に被害者にされた俺は、何故彼女に手を伸ばすのだろう。
1つ予想出来るのは、毎日見舞いに来てくれた彼女に、俺は恋をした、ということか。
可憐さんの、長く伸びた黒髪が、整った顔を隠していた。せめて、顔くらい見せてくれ。
その僅かな願いが行き届いたのかは不明だが、彼女の顔が見え、目が合った。
「ーーー好きだよ、悠人」
可憐さんの表情は、俺が見てきた中では一番美しい笑顔だった。
瞬間、顔面にペチ、と情けない音を立ててなにかが張り付いた。
右手でそれを拭えば、真っ赤な液体が手を染めていた。
「うあ、ああ……」
これは、血だ。
誰の物かといえば、目の前に倒れ込んだ可憐さんの物と見て間違いないだろう。いや、彼女のでない可能性の方が低い。
「……可憐、さん?」
嗚咽しか出てこなかった喉が、初めてまともに発したのは、彼女の名前だった。
だが、返事は返って来ないままだ。
冷たいアスファルトに横たわる可憐さんは、人形のようだった。
しかも、糸がほつれ、中に詰めていた綿が出てしまったような。
抜け殻のようになってしまった人間を、俺は見たことがなかった。
それでも、何故だろうか。
俺の中にある感情の片隅に、「またか」と思い込んでいるものが潜んでいるのは。
またか、なんて。このような惨劇を俺は見たことがあるとでも言いたいのだろうか?
そんな訳がない。失われた命がまた戻るなんて、一体どこのおとぎ話だ。
死んだお姫様が王子のキスで生き返る。白雪姫や眠り姫のような展開なんて、あり得ない。
だったら、この感情はなんなのだろう。
「ーーーーーーそうか」
記憶の断片。バラバラになっていたそれらが、結びついた。
「また、やり直せばいいじゃないか。可憐は、また生き返ることができる」
記憶が戻ったことにより得られる、微かな希望と恐怖。また戻しても、無駄なのではないか。
いいや、そんな筈がない。また失敗したら、何度でも繰り返せばいいじゃないか。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」
呪文のように、症状のように。その言葉を唱え続けた。安心しろ、俺。可憐はきっと、生き返る。
ブツブツとその言葉を唱え続ける。でも、何も起こらない。
「大丈、夫……」
気づかぬうちに、涙が瞳からぼろぼろと溢れ落ちていた。
抱きかかえていた可憐の頬をそれは伝い、やがて乾いていった。
「なんでっ、戻ってくれねぇんだよ……」
俺は、どこかで自分のことを正当化させていたのかもしれない。
理不尽な死を迎えてしまう姫を、助ける王子様。
どんな方法であれど、姫を助けるのは美しいことであると。
でも、俺はどこまでも情けなかった。
美しい姫を、守るどころか、殺してしまった。
何度も何度も繰り返して、何度も何度も殺した。
彼女の代わりなら、俺が死んでも構わない。
そんな感情でこの繰り返しをしてきたが、それすらも痛々しく、なんて見苦しいことだろうか。
逃げてしまいたかった。自分の負った全ての罪を置き去りにして。
「……ごめんな、可憐」
言い訳にもなっていない最低な言葉を、もう動かない君に捧げた。
