おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
眠り姫
- 1回目、何も知らない朝 -

3月6日。とある通学路にて。
春は、いつからなのだろうか。
海沿いにずらりと並んだ桜は本日の卒業を祝うように、美しく咲き、儚く散っていく。
風が吹けば、桜が舞い、塩の匂いがふわりと香る。
「速水先輩おはようございますっ!あと、卒業おめでとうございます‼︎」
「卒業っていう実感は全然湧かねぇけどなー」
ビシッと、どこぞの訓練兵かのように頭を45度で下げるのは、同じサッカー部の後輩だった村田だった。
丸刈りにした頭は、まだこの季節では寒そうだ。
「速水先輩居なくなって、サッカー部弱体化しねぇかが心配っすよ本当……」
「そんな弱気になるなってー。今年はお前がキャプテンだろ?」
バシンと強めに背中を叩けば、村田は2、3歩前にふらついた。
「……ッ、俺!卒業式の椅子並べあるんで!先行っときます!」
「おう、よろしくな」
こちらを振り返らず、村田は走って行った。
卒業式の椅子並べは、前日にはすでに終わっているのだ。
目尻をこすりながら走って行った村田を見て、自分らしくもない多少は大人っぽいような笑みがこぼれた。
「卒業、かぁ……」
高校生活の3年間。
テストの結果は崖っぷちで留年手前だったりもした。だって頭悪いもん。
部活では活躍した。自分でいうのもなんだけど。
俺にサッカーがなければ、大学からの申請だって来なかったはずだ。
まぁ、さすがに勉強が危ないと大学側に言われたから後半は頑張ったけども……


「あ、悠人おはよ」
「はよーっす可憐」
卒業式だというのに、特別だというわけでもない挨拶。
こんな日々に終わりが来るのだろうかと、疑問が浮かぶ。
「卒業って、実感湧かなくない?」
「本当それ。全然そんな感じがしねぇ」
唯一現在でそんな感じが湧くのは、教室の黒板に昨日皆で書き荒らしたメッセージやら絵やらだった。
腰辺りまで伸びた黒髪ロング。ぱっちりとした丸めの瞳は、それのおかげで彼女はよく童顔だと言われるらしい。
清水可憐。高校では3年間同じクラスで、数少ない仲の良い女子だった。
「式の時寝ないかが心配だ」
「さすがにそこまで馬鹿ではないでしょうよ」
「いや、分からないんだなぁこれが」
真面目に答えた俺に、可憐は苦笑した。
「へぇ……あのさ、悠人」
「ん?」
「式が終わって、家に帰ってからでいいんだけどさ。浜辺に来てくれない?」
「ああ、覚えとく」
卒業記念に写真でも撮りたいのだろうか。
女子1人は危ないのだと言って連れて行くつもりなのだろう。
そんな風に俺は、軽くあしらった。

速水と清水。
2人共苗字に水が入っているという共通点が。
<2016/09/09 20:51 錯乱咲良>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.