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父へ
- 元娘から -

    あなたから受けた躾だと思っていたのが、暴力だと知ったのは、皮肉にも前の旦那からの指摘だった。
そんなことって……初めは信じられなかった。自分が悪いから殴られたり、罵声を浴びせかけられたりするものだと思っていた。

   それから私はアダルトチルヂレンだったことを知り、何度もミーティングに参加したり、カウンセリングを受けた。自分の過去を語っているうちに涙が出てきたり、同じ境遇にあった人の話に涙した。

    自分は子供を産んではいけないと思った。同じことを繰り返すのではないかと怖かったから。虐待は連鎖するという。だから、生まれてくる子供にだけは迷惑をかけたくなかった。

    いろいろなことが重なり、心の病になった。その元凶は、自分の育った家庭だった。私はあなたを恨み、憎んだ。

    最後の暴力が行われた時は、警察沙汰になった。念書によって、あなたと絶縁した。私はもうあなたとは会うことはないだろう。それは警察の下した判断でもある。

    こんなにも父から暴力を受けた原因は母にもある。嫉妬深い母は、父親が私を愛さぬように、ありとあらゆる私の悪口を父に吹き込んだ。可愛く見せないように、ボロきぬを着せた。母は母である前に女だったのだ。

    母が死に、くすぶった憎しみや恨みは、二人の言葉で昇華されることになる。

    「いつまでも人のせいにしていたら前に進めないよ」

   「それでもあなたは選んでいる」

    私は憎しみや恨みを捨てて、二人の言葉に耳を傾けた。私がこんな家庭状況に生まれてきた意味を考えた。自分の耐性を鍛えるため、被虐待児の心がわかるようになるため、暴力、暴言がどんなに辛いものか身をもって知るため……考えれば考えるほどいろいろな答えが出てきた。

    結果、私は自分から人をいじめないし、人の幸せを素直に願えるようになれた。35歳を過ぎると、自分が何のために子宮をもって生まれてきたのか考えだすようになった。子供が欲しいという夫に押し切られるような形で、子供を産んだが、私は今、子がいてくれて本当に良かったと思う。スキンシップの足りなかった私は思い切り、息子とそれを充たし、十年間の蜜月はあっという間に過ぎた。そして今は、息子に、『ママ、かわいいね』『ママ、好きだよ』と心を支えてもらっている。

   心配した虐待の連鎖はなく、私は息子を抱きしめることはあっても、殴ることはない。

   こうなるまではかなりの時間が必要だったが、息子という生命を意地でも運んできてくれようとした今の夫には感謝している。

   親になって親の気持ちがわかるというが、私は一つだけあなたに感謝したいことがある。私を産んでくれてありがとう。大学まで出してくれてありがとう。

   あなたは確かにめちゃくちゃな父だったかもしれない。だけど、それはいろいろな軋轢があったからだと大人になった今ならわかる。あなたへの憎しみや恨みは時を経て、感謝に変わろうとしている。

   最後に……。私は祖母がいたから、生きてこれた。絶縁したことにより、会うこともないけど、祖母をどうか大切に、最後まで見てあげてほしい。長年の私の戦いは終わったようだ。あなたたちの幸せを心から祈っている。


    元娘より

<2016/12/12 08:59 父へ>消しゴム
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