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こひこひて逢へる時だに 【※腐向け※】


「浦安くん、純文学の本棚、えーっと、河東 英(かとう すぐる)先生の新刊。在庫足しておいてもらっていい?」

新しく入った新書籍のポップを書いていた僕に、先輩の平塚さんが言った。
熱中していたものだから、少々理解が遅れ、僕は短く考えてから頷く。
その態度に、よろしくね、私レジ行ってくるから、と平塚さんは表に続く白いドアの向こうに消えていった。

カラーペンのキャップを閉じると、すぐに立ち上がる。

僕は浦安 いつく(うらやす いつく)。今年で26歳になった、極々平凡な書店店員だ。
生まれつきと言っても過言ではない、性分は専らビビりで小心者。きっとそこら辺の女の子より、心は弱い。

だからこそ、こんな平凡な仕事にしか出来ない、...あー、またネガティブになっちゃった。

ダメダメ、仕事になんないじゃん。

頭の中で自分を叱りつけて、すぐに気持ちを切り替えるように踏み出す。

とりあえず棚に5冊とポップ周辺に20、ってところか。
本棚と一体化した深い引き出しから、一気に取り出して、少しずつ棚に収める。

河東先生の作品は、常に在庫が足りていない。
もちろん発行部数が足りないわけではなく、売れている、という意味だ。

文の表し方が美しく、ストーリーも繊細で引き込まれるようなものが多い。
僕も好奇心だけで読んでみたのだが、内容には軽い衝撃を受けた。

同性愛を扱う物語が、こんなに売れるなんてなぁ。

またもや僕はしみじみと思う。

この流れに乗って、同性が好きな人間も受け入れられれば良いのに。
そんなことを思うのは、我ながらどうかしていると思う。

だが、そういう星の下に生まれてしまったのだ。

話の流れからわかるだろうが、僕は、その、ゲイである。
物心ついたときから女性には魅力を感じていない。
小心者のこの性格から、未だ親にも知れていないその事実。隠し通して来たその事だけでも、誉めてほしいくらいだ。

まぁ、今まで恋人がいたことはないし、恋をした経験も特にない。

このまま平凡に死んでいこう、というのが僕の生涯の目標である。

「うわ、今回も凄いな。嬉しい。」

しゃがみこんでいた僕の頭上から、声が降ってきた。
思わず見上げると、黒髪の男性と目が合うので、失礼しました、と避ける。

「か、河東先生の作品ですか?」
「あー...河東先生っていうか、...まぁ、そうかな。」
「面白いですよね、あの、登場人物もかっこよくて。新刊、おすすめですよ。ついに、ついにって感じに発展が大きくて、」
「そうです、か。えーっと、じゃあ、読んでくださったんですね。」
「はい、もちろんです!!」
「ありがとうございます。」
「え、...?」

相手の言葉の違和感に気がつくのは、ここまで相手と話してからの事だった。
にこにこと、男性は笑っている。

「ありがとうございます、読んでくださって。」
「えっ.........と...」
「俺なんです、これ書いたの。」
「ひぇ......っ?!?!」

えっ、なんかヤバい、変な声出た。

書いた?これを?...じゃあ、目の前にいるこの人は...、

「俺、仮沢 東(かりさわ あずま)です。...俺の作品、進展すごかったって?嬉しいなぁ。」
「えっ、えっ、えっ、な、なんか成り済ましとか...」
「違います、本物っす。」

黒髪に黒い縁の眼鏡が、人の良さを表すように光った。

<2016/09/15 17:23 弥生目 ヒカリ>消しゴム
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