簡単な夕食を食べ終わり、僕は今仮沢さんの書斎に来ていた。
何種類もの、何ヵ国語もの辞書が数十と並び、その他数百の文庫本とハードカバーの分厚い文学小説。
そしてひとつの本棚にぎちぎちに入った...、これ、は...男同士の恋愛マンガかな...?
「BL本好きですか?」
「いや...そういうわけでは、ないですけど、」
まぁ、性質上どんなハッピーエンドが待っているんだろう、くらいは気になるわけで。
ちょっと没頭していた自分が恥ずかしい。
「ほら、こっち見て」と手を引かれてデスクに座らされた。
椅子は赤いニット張りで、腰や膝に負担がかからないように全体が柔らかい。
デスクの上にあるのは、パソコンひとつと、ペンたてに万年筆、ボールペンが二本、二種類のシャープペンシル、ドイツ製の鉛筆、それに修正液と消しゴムがひとつ並べてあった。
木製のデスクが、インクで所々黒い。
原稿用紙の束の臭いと、仮沢さんの臭いがした。
「今、新作書いてるとこですよ。シリーズの、であって完全新作ではないんだけど。」
「すごい、な。本当、......ごめんね、う、疑ったりして。」
ぎこちなく、でも的はずれなことを言ってしまった僕は、軽く小突かれた。
「元々怒ってた訳じゃありません。ちょーっと知られたい欲が出ちゃっただけ。謝らないで、浦安さん?」
デスク向きに座っていた僕の後ろから、原稿用紙の束に手を伸ばそうと羽織いじめにするかのように体制をとってくる。
うわ、香水かな。めちゃくちゃ良い臭いする!!
心拍数が急激に上昇して、つい立ち上がろうとしてしまう。
でも、今立ち上がったら確実にぶつかる。膝に力を入れて耐えた。
「ねぇ、浦安さん。」
「はい?!」
「気合いすごいですね。...歳いくつなのかなーって思いまして。」
「あっ、26です。」
「あ、やっぱり!!」
答えた僕に声を大きくする彼。
やっぱりって、なんだろう。
「年下だよね! いや、すごい童顔な可能性あるなって、敬語使ってた! 敬語下手くそだから、よかった。年下!!」
「えっ、と、」
「あ、ごめんね。ずっと歳わかんないなって思ってて。
あの、敬語聞き苦しかったよね。すごい敬語苦手で。世の中どうやってわたってくのって感じだけど!!」
急にテンションが高くて困る。
戸惑う僕を置き去りにして、彼はピカピカの笑顔で頷いているので、なんといったら良いかわからない。
「俺28。あ、だからって敬語とか礼儀とか良いから、東って呼んで。俺も、いつくって呼んで良い?連絡先交換しよ?」
「?!...は、はい、え、仮沢さ...」
人差し指をたてて、ノンノンと振ってくる仮沢さん。
難しい。何を言いたいんだろ。
「あ・ず・ま。 東だよ、いつく!!リピートアフターミー!! 東!!」
「はいっ、...え、っと、東...!...さん......?」
勢い余って東さん、と呼んでしまった僕に仮沢___じゃなくて東さんは、ぐっと悶絶してしゃがみこんだあとすぐにものすごい勢いで立ち上がった。
激しいな...、本当はこういう人なのかな。僕は戸惑ったままだ。
「ちょ、ちょっとトイレいってくる!! こ、ここは...!!引き出し開けなければ好きにしてて良いから!!!」
前屈みになりつつ説明もそこそこに出ていってしまった。
一人きりになって、静かになった書斎の中、僕はホッと息をつく。
と、同時に、違和感に気がついた。
「な、なん...で、」
高校生の時からそういう欲はない方だった。
叶わない未来を思うと、そういうことをしている自分に嫌気が差すからでもあった。
だから、ずっとこんなことなかったのに。
「たっ、たっ...て、る..............!」
僕は一人椅子の上で膝を抱えた。
何種類もの、何ヵ国語もの辞書が数十と並び、その他数百の文庫本とハードカバーの分厚い文学小説。
そしてひとつの本棚にぎちぎちに入った...、これ、は...男同士の恋愛マンガかな...?
「BL本好きですか?」
「いや...そういうわけでは、ないですけど、」
まぁ、性質上どんなハッピーエンドが待っているんだろう、くらいは気になるわけで。
ちょっと没頭していた自分が恥ずかしい。
「ほら、こっち見て」と手を引かれてデスクに座らされた。
椅子は赤いニット張りで、腰や膝に負担がかからないように全体が柔らかい。
デスクの上にあるのは、パソコンひとつと、ペンたてに万年筆、ボールペンが二本、二種類のシャープペンシル、ドイツ製の鉛筆、それに修正液と消しゴムがひとつ並べてあった。
木製のデスクが、インクで所々黒い。
原稿用紙の束の臭いと、仮沢さんの臭いがした。
「今、新作書いてるとこですよ。シリーズの、であって完全新作ではないんだけど。」
「すごい、な。本当、......ごめんね、う、疑ったりして。」
ぎこちなく、でも的はずれなことを言ってしまった僕は、軽く小突かれた。
「元々怒ってた訳じゃありません。ちょーっと知られたい欲が出ちゃっただけ。謝らないで、浦安さん?」
デスク向きに座っていた僕の後ろから、原稿用紙の束に手を伸ばそうと羽織いじめにするかのように体制をとってくる。
うわ、香水かな。めちゃくちゃ良い臭いする!!
心拍数が急激に上昇して、つい立ち上がろうとしてしまう。
でも、今立ち上がったら確実にぶつかる。膝に力を入れて耐えた。
「ねぇ、浦安さん。」
「はい?!」
「気合いすごいですね。...歳いくつなのかなーって思いまして。」
「あっ、26です。」
「あ、やっぱり!!」
答えた僕に声を大きくする彼。
やっぱりって、なんだろう。
「年下だよね! いや、すごい童顔な可能性あるなって、敬語使ってた! 敬語下手くそだから、よかった。年下!!」
「えっ、と、」
「あ、ごめんね。ずっと歳わかんないなって思ってて。
あの、敬語聞き苦しかったよね。すごい敬語苦手で。世の中どうやってわたってくのって感じだけど!!」
急にテンションが高くて困る。
戸惑う僕を置き去りにして、彼はピカピカの笑顔で頷いているので、なんといったら良いかわからない。
「俺28。あ、だからって敬語とか礼儀とか良いから、東って呼んで。俺も、いつくって呼んで良い?連絡先交換しよ?」
「?!...は、はい、え、仮沢さ...」
人差し指をたてて、ノンノンと振ってくる仮沢さん。
難しい。何を言いたいんだろ。
「あ・ず・ま。 東だよ、いつく!!リピートアフターミー!! 東!!」
「はいっ、...え、っと、東...!...さん......?」
勢い余って東さん、と呼んでしまった僕に仮沢___じゃなくて東さんは、ぐっと悶絶してしゃがみこんだあとすぐにものすごい勢いで立ち上がった。
激しいな...、本当はこういう人なのかな。僕は戸惑ったままだ。
「ちょ、ちょっとトイレいってくる!! こ、ここは...!!引き出し開けなければ好きにしてて良いから!!!」
前屈みになりつつ説明もそこそこに出ていってしまった。
一人きりになって、静かになった書斎の中、僕はホッと息をつく。
と、同時に、違和感に気がついた。
「な、なん...で、」
高校生の時からそういう欲はない方だった。
叶わない未来を思うと、そういうことをしている自分に嫌気が差すからでもあった。
だから、ずっとこんなことなかったのに。
「たっ、たっ...て、る..............!」
僕は一人椅子の上で膝を抱えた。
