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想い舞う頃


私達のため……?

瞬は私達のために、あの決断を下したの?

なら、何でそれが私達のためだと思ったの?

いろいろな疑問が頭を占領する中、ゆっくりと大きな目を
開ける奏。

「さっき部屋でも大人しかったし、返答も曖昧だった」

私の疑問を消すような、奏の言葉。

「それで……何で私達のためだって分かるの?」

「瞬くんの事だ。どうせ、僕達に迷惑掛けなくないだの
弱いとこ見られたくないだの、余計な事考えて間違った方に進もうとしてんだよ。また……」

「……また?」

「何でもない」

もう いちいち説明するのも面倒くさいのか、そう言い残してスタスタと歩き出す奏。

普段なら、待って〜、とでも言って追うんだろうけど、
今日はそれもせず、静かに彼の右側についた。

それをチラリと確認すると、再び視線を下へ落とす奏。

そこからまた流れようとする、重苦しく、気まずい沈黙。

「奏は……信じてたんだね」

あの沈黙が嫌で、そんな事を言ってみた。

「自分を……ね。瞬くんがああ言う事は、想像出来なくも
なかった。なのに……」

奏は悔しそうな表情を浮かべると、強く手を握って俯いた。

一歩一歩、ゆっくりと家へ向かいながら。

「もしああ言ったら、ちゃんと話をして、考え方を改めて
もらおうとしてた。けど、実際に言われると……」

なんにも言えなかった……、と、自嘲するように、悔しそうに呟く奏。

奏は、私や瞬に苛立ってたんじゃない。

さっきの、瞬の部屋での自分自身に苛立ってたんだ。

「大丈夫だよ」

優しく言えば、今までの可愛らしい奏の瞳がこちらを向いた。

その目を見ると安心するよ、本当。

「まだ器械が必要になった訳じゃない。その頃には、瞬の考え方も変わるかも知れないよ?」

奏の顔を覗き込み、目線を合わせ、ね?と彼を安心させる
ように笑い掛ければ、奏の口角がほんの少し上がった気がした。

「それに、奏はちゃんと分かってもらおうとしてたじゃん。ちゃんと、自分の思ってる事を言った」

私の出来なかった事を、彼は全てしたんだ。

「だから奏は、自分を責める必要はない」

奏がもしも悪いなら、私は一生の時間を掛けても償えない
ほどの過ちを犯した。

自分の意見とは反した事を言い、瞬に共感したんだ。

そんな私に、「愛ちゃんは強いね」なんて言う奏。

「……え?」

きっと今、相当間抜けな顔をしているだろう。

そんな私を見て、奏はいつものように笑った。

やっとだ。

やっと、奏が笑ってくれた。


<2016/11/12 21:24 秋の空>消しゴム
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