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想い舞う頃


「何も思ってない訳じゃないでしょ?」

奏の優しい声に、無意識に頷いてた。

「ねぇっ。なら言ってよ。瞬くんだって、まだ完全に決めた訳じゃないかも知れない。それを変えられるのは……
愛ちゃんでしょ?」

懇願こんがんするような、奏の声。

真っ直ぐに私を捉える彼の大きな瞳。

「でも……」

視界は滲み、声も少し震えてた。

「でも瞬は……」

私達に言ってたじゃん。

だから、だからもう……良いんだよ。

「奏は何で? 何でそんなに頑張れるの……?」

瞬の考えを変えようと、自分の想いを伝えようと。

「だって僕……」

そう言う奏の声も、涙を堪えているのか震えてた。

「僕……何も返してないから……瞬くんに」

「瞬に……? 何を返すの?」

「瞬くんにしてもらった事、もらったものならたくさんある。僕……それ返したいんだ」

瞬にもらったもの、してもらった事……

それなら、私も数え切れないほどある。

「返せないで……なんて、そんなの絶対嫌だから……」

だから……

だからそんなに頑張ってるんだ。

「大丈夫だよ」

そんなにも瞬の事を想ってるなら、それは瞬にも伝わってるはずだから。

「ははっ……ダメだ……」

弱々しく笑い、ゴシゴシと目元を拭う奏。

「か〜なくんっ」

そんな奏に声を掛ける、常連さんだと思われるおばさん。

「あ、はい。こんにちは〜」

たった今まで泣いてたのに、笑顔で接客する奏を見て思った。

彼は強い、と。

友達に対する想いも、こんな時にも笑顔で接客できる、心も。

全部全部、私なんかよりも、ずっとずっと強い。

瞬、
君は……私が素直になっても、受け入れてくれますか……?

「ありがとうございました〜」

「あっ、今日は帰るね」

接客を終えた奏にそう告げる。

「ああ、うん。気を付けてね」

いつもの笑顔で手を振ってくれる彼に、なんとか笑顔を
作って手を振り返した。

自分の家へ向かうため、奏に背を向ければ。

温かな涙が、頬をそっと伝った。

<2016/11/18 22:53 秋の空>消しゴム
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