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想い舞う頃


『今日は特に冷え込んでますよね』

『……はいっ、そうですね。今日は日中も雲が広がり、気温はあまり上がらなそうなんですね』

寒い寒い、と両腕をさする母とリビングへ戻れば、寒そうな風に吹かれた天気予報士と、スタジオに居るアナウンサーがそんな話をしていた。

こんな寒い中外に居るなんてすごいな、と素直に思った時。

「こんな寒い中外に居るなんて、私には出来ないわ」

母の声で、全く同じ事が聞こえてきた。

それに、出来そうには見えねぇもん、と言ってしまった。

それに気づいた頃にはもう遅く。

母親の強烈な視線が、斜め上から向けられていた。


……斜め上。

母の顔を見上げて思う。

俺、歩くどころか立つ事すら出来ないんだもんな、と。

周りの接し方が今までと変わらなすぎて忘れそうになってしまう。


「……さっ。何か温かいものでも飲もうかしらぁ?」

不自然なほどに上機嫌な言い方で言い、キッチンへ行く母。

そこで何かを作るその姿が、何故かすごく懐かしく、今の
俺の目には映った。

ここから母に向かい、カレーが良い! なんて叫んでいた頃を思い出す。

目線も、その頃と同じくらいだからだろうか。

「ふぅ。……ん?」

「あ、いや……」 

ヤカンを火にかけた母と目が合い、咄嗟にその目を逸らす。

その後、ふふっ、と母の控えめな笑いが聞こえ、再び俺達の目は合った。

「何か。そこに瞬が居ると、美味しいもの作らなくちゃ、
って思えるわね」

「何で?」

「瞬、小さい頃ずっとそこで見てたから。私がご飯作るのを」

何で? って自分から聞いたのに恥ずかしくなって、何も言えなくなった。

そして母は、続けるように言った。

「その頃と全く変わってない」と。

「……変わっちまったから今こうなんだけど」

「やだっ、ちっが〜うわよ。ほら、よく言うじゃない?
親にとって、子どもはいつまでも 子どもだ、って」

「……まぁ」

だからきっと、今もこうして手伝ってくれてるんだろうな。

生活に必要な事、ほとんどを。

「……あり、……いつ……」

いつもありがとう

そう言い掛けた小さな俺の声は、ヤカンに入れられた水が
沸騰した騒がしい音に掻き消された。

その音が止み、ふわっと立つ湯気の下で、熱湯がカップへ
注がれる。

その少し後、甘いココアの香りが漂ってきた。

そんな中、小さくため息を吐きテレビの方へ車椅子を向ける。


いつもありがとう

そう言い掛けた頃に朝の番組が終わってるんだから、1日は短い。

その言葉を言える頃には、どれだけの日が過ぎているのだろうか。

<2016/12/12 01:02 秋の空>消しゴム
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