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想い舞う頃


愛か奏のどちらかだろう、と思いながら玄関のドアの前へ。

「はい」

「ふふっ。わ・た・しっ」

愛の不気味な声が返ってきて、やっぱりな、と思いながら鍵を開ける。

「っ……」

そして何となく、今鍵を開けた右手を見る。

何か、ギリギリというか、大変な気がしたから。

この手で鍵を開けるのが、何となく。

もしこの手まで動かなくなったら、これからどうなる……?


「ごめんね、暇だから来ちゃった」

寝たきり、という考えとそれに対する恐怖を、愛の明るい声が払ってくれた。

「ん、どうした?」

優しい声に顔を上げれば、愛の心配そうな顔が視界に現れた。

「あ、いや。……何でもないよ」

愛に心配させないためにも、自分でそう信じるためにも、
笑ってそう返した。


まさかな。

気のせいだ。

今までずっと出来てたんだから。

……でも、それが出来なくなっていくのが今の俺、なんだよな。

「瞬っ。大丈夫?」

無意識に下を向いていた顔を上げれば、再び心配そうな愛の顔が視界に入る。

その顔に、ゆっくりと右手を伸ばす。

彼女の心配そうな、大きな目を見ながら。

「えっ……や、何……?」

愛の小さな顔に触れたら、一気に安心出来た。

自分で表情が柔らかくなったのも分かるくらいに。

「ううん。何でもない」

ただ、確認したかったんだ。

この右手が、動くことを。

ふぅ、と安堵の息を吐き、すぐに愛の顔から手を離した。

「中、行こうか」

「あーそうだよ。ここめっちゃ寒い」

そう言い、今朝の母のように両腕をさする愛。

大丈夫だと自分に言い聞かせ、愛とリビングへ向かう。

<2016/12/14 00:43 秋の空>消しゴム
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