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想い舞う頃
- 君からのサイン -

そこには、何もなかった。

ここがどこかも分からない。

唯一確かなのは、隣に瞬が居るという事だけ。

そして、風もないのに桜が舞っているという事。

それも、やたらとゆっくり。

ここには、光もなければ闇もない。

周りも、地面も。

全部が白に染まっていて、それを邪魔する影もない。


「綺麗だね」

そんな怖いはずの場所なのに、桜を見るとそれだけでいっぱいになる。

「……瞬?」

けど瞬に繋いでいた手を離されると、一気に怖く、不安になる。

瞬は意地悪だ。

私がそう感じる事を知っているように、私を置いてどこかへ進んで行くんだから。

「ちょっと、ちょ待ってよ!」

えっ……?

動かない。

瞬を追おうとする足が、彼の背中へ伸ばそうとする手が。

全てが、固定されたみたいに。

「瞬っ、嫌だ…… 待って……」

全ての力を使い切るイメージで瞬の名を叫べば、彼はやっと振り返ってくれた。

けど瞬は、初めて見るくらいに優しく微笑むと、再び足を動かし私から離れていく。

「嫌だ、瞬 待って!」

体が動かない恐怖と瞬が消えてしまいそうな恐怖で、顔は
涙でぐしゃぐしゃだった。

それでも瞬は、止まってくれない、振り返ってくれない。


どうしよう……

瞬が居なくなっちゃう。

瞬が遠くに行っちゃう……

瞬が、瞬が…………


そしてやっと、体が動きそうになった時。

私の体も浮きそうなくらいの強い風が吹いた。

何とか開けている目の前では、たくさんの桜の花びらが渦を巻いている。

それが風を作っているのか、風がそれを作っているのか
分からないけど、かなりの強風であることには違いない。

「瞬ーーッ!!」

飛ばされそうな暴風の中、動くようになった体すべてを使い、瞬の名を叫んだ…………

<2016/12/17 10:27 秋の空>消しゴム
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