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想い舞う頃


「っはあ、はっ……」

勢いよく目を開ければ、見慣れた自分の部屋の壁が目に入った。

顔は、涙ではなく汗で濡れていた。

朝の光に照らされたベッドの上でゆっくりと上体を起こし、バクバクと騒ぐ胸を押さえ息を整える。

辺りを見渡せば、いつもと、今までと変わらない自分の部屋。

夢だ……

机には、瞬が獲ってくれた うさぎのぬいぐるみがあって。

その子の首には瞬から預かったネックレスのチェーンが通されていて、大事そうに両手で抱えてる小さな木箱には、
チェーンに通されたお揃いの瞬の指輪が入っている。

私のは、ちゃんと私の右手中指に。


「瞬……」

気づけば、指でぬいぐるみの小さな頭を撫で、大好きな人の名前を呼んでいた。

また……愛、って、呼んでくれたら良いのに。

バカ呼ばわりしてくれたら良いのに。

「瞬……」

カレンダーは4月。

「また、桜が咲くよ」

私達の好きな花が、私達の想い出の場所で。

瞬、

「私は行くよ」

毎年行くって、約束したから。


「……瞬のばか」

ぬいぐるみの頭を撫でていた指で涙を拭い、時計を確認する。

もう出る時間だってさ。

心で瞬にそう笑い、適当に髪を縛る。

いつか瞬が褒めてくれた、ポニーテールに。

似合ってる? なんてぬいぐるみに問い掛けても、何も返ってこない。


分かってるよ。

瞬にもう会えないなんて事くらい。

でも私は、瞬が好きだから。

瞬なしで生きていくなんて出来ないから。

「行ってくるね」なんてぬいぐるみに話し掛けて。

それに、行ってらっしゃい、なんて言葉を瞬の声で作って。

瞬と一緒に、今を生きていくんだよ。


瞬が、大好きだから。

<2016/12/17 13:03 秋の空>消しゴム
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