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想い舞う頃


動きやすい部屋着から、動きにくい普段着に着替えた。

動きにくいと言っても、TシャツにGパン。

それに上着を羽織っただけの、普通に動きやすい服装。

ただ、あの大きめのジャージには敵わない。

「ねえっ、どこ行くの?」

「どこだろーなー」

もう決まってる感じ、だね?瞬くん。

「決まってるんでしょ?」

「いや?走ってりゃ決まんだろ」

よし、と言って、慣れたようにバイクにまたがる瞬。

それに対して私は、何とか…という感じで瞬の後ろに。

「ちゃんとつかまっとけ?」

「はいっ」

何となく、少し強めに瞬に抱きついた。

「…転ばない?」

「それは要らぬ心配だな、多分」

「多分!?」

「さっき言ったようにしときゃ大丈夫。あ、あとこの世の中に完璧なんて求めちゃダーメよ?」

最後の、バカにした言い方で言われた言葉に舌打ちをした。

「Ready?」

「は?」

発音良すぎて何言ってるか分からない。

「大丈夫?」

「うん。ってか、普通に日本語喋んなさいよ」

「行くぞ」

瞬のその言葉で、一度緩んだ腕の力を、もう一度強めた。

そして、風を感じる旅が始まった。





どれくらい風を感じていただろう。

暫くして、広くて何もない場所に着いた。

唯一あるのは、大きな桜の木。

今年は冬が寒かったから、まだまだ咲いている、薄紅色の
小さな花。

「凄い……」

「やっぱ寒かったからな」

桜を見上げる私の隣で、優しい笑みを浮かべて瞬も見上げている。

こんなんじゃ、桜じゃなくて瞬に集中しちゃう。

「ねぇ」

「ん?」

瞬の視線が、桜から私に移る。

少し前なら、緊張していたかもしれない。

けどもう、慣れたからか少し嬉しいような気もする。

「ここ、毎年来ようよ」

私は、桜を見上げて自然に浮かんでいた笑顔で、そう
言った。

「毎年…そんな?」

その言葉の言い方から、俺は良いけど、みたいな何かを
感じた。

「うん。そんな」

「じゃあ、毎年」

「絶対だよ?」

「あぁ」

そんな会話の後、何の言葉も無く、私達の手は繋がった。

桜の舞う、青空の下で。

<2016/10/07 20:17 秋の空>消しゴム
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