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想い舞う頃


私が半分ほど食べ進めた頃。

静かな夜の土手に響く、携帯の着信音。

鳴っていたのは、奏の携帯の着信音。

ごめんね、と私達に一言断りを入れて電話に出る奏。

その声はいつも通りだったけど、纏う雰囲気が『嫌』と
言っていた。

もちろん、誰からの連絡かなんて知らない私。

ただ隣で見守るだけ。

「はい。……あぁ。はい。今戻りますって。……分かったから」

初めて聞く、奏の地声だと思われる声。

普段の可愛らしさはなく、意外と低い声。

「ごめん、先戻るね。では、素敵な時間を」

奏らしくない最後の言葉に、少し戸惑いながらも頷いた。

たぶん、さっきの電話からの変わり様にも驚いてるんだと
思う。

「怒ってた?」

「あ~、どうだろ。お仕置きが待ってるのは確かだよ?」

「ハハッ、マジか。じゃあ頑張れ。その冷やしパインでも
食って」

うるさい、と言ってこちらを向く奏。

それも、綺麗な笑顔で。

「じゃあね」

「あぁはい。頑張ってね」

「うぃっす」

ああいう言葉使うんだなあ、なんて思いながら、どこかへ
向かって走る奏の後ろ姿を見つめた。

「ねぇ、奏どこ行ったの?」

「お仕事」

当たり前のようにそう答え、初めての一口を頬張る瞬。

お仕事、って。

「バイト?こんな時間に?」

「まあ、こんな時間から?」

「夜のバイト!?」

普通に法律引っかかりそうなんだけど。

「たまにやってんのよ」

何冷静に答えながらパイン食ってんのよ。

「あの、内容、って…?」

「内容?無いよう。ハハッ」

ヤバいヤバい……

って、当たり前のようにパイン食べてないでよ。

「あ〜、さすが俺が毎年買ってるパインだよな」

ああ、毎年来てるんだっけね。

って、それはどうでも良い訳で。

「奏、行かせて良かったの?」

「今頃アイツ、お仕置きされてんだろうな」

「ねぇ、そのお仕置きって……」

「まぁ楽っちゃ楽だよな。ただ金貰って笑ってりゃ良いん
だから」

質問に答えてくださいよ……

って、お金貰ってんの!?

これ、本当にヤバいやつじゃないの?

「俺もやろっかな。一緒に」

「一緒に!?」

「そんな驚く事じゃねぇだろ」

普通に驚くでしょうよ。

ああ、志穂の言ってた事が分かったよ、私。

何をやってるか分からない奏は怖い。

そして、そのやってる事を知ってて止めなかった瞬は、
もっと怖い。

本当、奏は何をやってるの?

瞬も教えてくれないし……

<2016/10/20 16:59 秋の空>消しゴム
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