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想い舞う頃


主役の奏が帰り、全体的に静かになった家。

「何かごめんね。片付けまで手伝わせちゃって」

洗い物で冷えた手を、ココアの入ったカップで暖めながら
言う。

「俺は全然。どうせ暇だし」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しい」

温かさとココアの優しい味が口いっぱいに広がる。

「今日、昼間も楽しかったしな」

「珍しくすごい楽しそうだったよね」

「愛が居たからな」

「えっ……」

嬉しさと驚きが混じったような気持ちで、瞬を見つめる。

「いや、男2人であんな事しねぇだろ」

「あぁ…あっ、うん。だよね」

そうだよね。

いつか瞬にとって、この人と居ると楽しい、って思える人になりたいな。

私にとって、瞬がそんな人だから。

ふと窓の外を見たら、真っ暗になっていた。

「あっ、暗くなっちゃったね。大丈夫?」

「俺?なら大丈夫。愛こそ大丈夫かよ」

「何で?」

「まだ暫く1人なんだろ?」

あ、今日も2人とも居ないんだっけね。

「大丈夫。どうせもうすぐ帰って来るし」

嫌でも。

「そうか……昨日も言ったけど、鍵閉めとけよ?で、何か
あったら…まあとりあえず連絡すること」

何も無いって。

あえて言うなら、寂しくなるくらいかな。

瞬に連絡するほどの何かって言ったら。

「瞬、意外と心配性?」

ニヤニヤと笑いながら瞬の顔を覗き込む。

「心配性ってか、心配にもなんだろ。お前みたいな奴が
こんなとこに1人だろ?」

特に表情も無く、冷静に言われたその言葉の後、笑みが
消えたのは自分でも分かった。

「やだな、自分の家だし。この後料理する訳でもないし?」

「そういう……まぁ、あんま うろちょろすんなよ?」

うろちょろって。

どれだけ方向音痴な設定な訳?

うるさい、と頬を膨らませたら、瞬は笑顔で、じゃあな、と言った。

そして私の髪をわしゃわしゃと乱した。

髪をおろしておくとこういう良い事があるんだ、なんて
思ってしまうほど、嬉しかった。

ソファに置いてあったバッグを手に玄関へ向かう瞬に
付いて行き、お見送り。

「じゃ」

「じゃあね。気を付けてよ?」

「愛に心配されるとは。俺もそろそろかな」

「るっさい!」

ハハッ、と楽しそうに笑い手を振る瞬にとびきりの笑顔で
手を振り返す。

冬の夜に消えていく瞬の背中を見送り、少し寂しいような
気持ちで玄関を閉め、静かなリビングへと戻った。


<2016/10/24 17:07 秋の空>消しゴム
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