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想い舞う頃
- 現実 -

やっぱりあの日は瞬に会えず、始まってしまった新たな
1週間。

今私は、本屋さんで働いている。

あくびで涙目になりながらも、お客さんが来るのを待つ。

黄緑色の、明るいエプロンをして。

眠気を誤魔化すためにも、サボりがバレないためにも。

商品の並びを整えているフリをしていた。

「あの…」

静かに女性の声が聞こえ、振り返る。

「園芸雑誌…あります?」

「あっ、はい」

彼女の前を歩き、そういった本の並んでいる所へ向かう。

「こちらですね〜」

「…ありがとうございます」

笑顔で軽く頭を下げ、見つけてしまった仕事。

今度はレジ。

お釣り間違えそうで怖いんだよね、レジって。

「いらっしゃいませ〜」

お釣り間違えそう…、なんて考えているとは思えないような
感じで接客。

ふと前を見れば、カウンターを挟んで前に立つ細身の男性が、私のエプロンに付けられた名札をじっと見つめていた。

「……はい?」

恐る恐る聞いてみる。

「…あっ、いえ。すいません…」

すごい綺麗な声。

ちょっとドキドキしてしまった。

仕事に集中しろ、と自分を叱り、会計を済ませる。

「ありがとうございました〜」

軽く頭を下げ、彼の後ろ姿を見て思った。

あんな難しい本読む人なんて居るんだ、と。

そして

何か、会った事ねぇ?と。

「ハハッ、まさかね…」

いつ会うのよ。

「フッフッフッ……」

後ろから、嫌な わざとらしい笑い声が聞こえてきた。

怖い怖いお姉様のご登場だ。

「何よ」

「なーにが まさかなの?」

首を絞めるように肩を組んでくる、友達。

友達、だよね。

「別に何でもないよ」

「まさか!さっきのお客様に一目惚れ?」

「バカじゃないの?……声は綺麗だと思ったけど」

彼女の腕の中から逃げ出し、仕事をしているフリを始めた。

「声に惚れた?」

「仕事の邪魔」

振り返りもせず、低めの声で返す。

「フリじゃん」

「お静かに」

くくく、と楽しそうに笑い、自分の仕事へ戻った友達。

それを確認すると、自然と手が止まった。


……そう。

あの声。

どこかで聞いたことのあるような、綺麗な声。

<2016/10/25 19:22 秋の空>消しゴム
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