___本編2年前くらい。
その日は雨でした。確か、冷たい霧雨。
あたしは、3年前程に消えた彼の背中をずっと追っていた。
何処に行ってしまった?
何処に消えてしまった?
あたしを置いて?
…行方の知れなかった、あの人の居場所が判った。
あたしが今立って居るのは、『武装探偵社』の質素な扉の前。
ソレを自らの手で開けるのは容易かった。
「ぁ、の」
小さい声で呼び掛ける。
誰も振り向かない。あたしの方を見ない。
当たり前か、と内心自分にがっかりする。
だが、気づいた人が一人。居たのだ。
あたしが探していたあの人だ。
「……………やァ。依頼かな、お嬢さん。」
にこやかに冷たく云い放たないで呉れ。
思い出したくないからさぁ。
「先生は。」
ウワゴト
譫言の様に呟く。
「何故、…皆、さ、…先生は、先生、の。」
段々、その言葉は震えて来た。
言葉を溢す口唇が熱くなる。
「先生は何処へ眩んだのですか」
重たく透けるあたしの台詞は、薄情にも狭い空間に響いてしまった。
あの人は目を見開いた。
忙しそうな人々は此方を見た。
「…君、それは此処では話せない。」
声を潜めてあの人は云う。
あたしだけに聞こえるようにして。
そうですか、と全く聞こえないうずくまった声で譫言を発する。
扉から外へ向かうあの人の視線に促される侭、雛鳥の様に着いて行った。
生憎、深く曇る空は、あたし達の空気を反映している様だった。
「君、何故私の元に来たんだい?」
凍てつく鋭利な刃物の声があたしに刺さる。
それに反応して、あたしの声もその傷口から漏れる血液の如く、
ぬるぬるとした生温い空返事になる。
「貴方なら知っている、彼が、先生が、居なくなった事。
皆、あたしに教えて呉れ無い。
……………だから。」
やっと紡いだ言葉がこれか。
何年人間をしてきたのだろうか。
「やっぱり、か。
まァ、君が今迄知らなかったのも仕方ないけどさ。」
貴方の溜め息は中を舞う。
あたしの脳内は疑問府で満たされた。
「………如何して?」
「____だって、君に知らせるなって云ったのは、
君の“先生”と首領だからね。」
「 織田作が、死んでる事 」
冷徹な言葉はあたしを殺した。
事実と、その声色だけで十分だった。
しんじたくなんてない。
途端、雨が降った。冷たい、霧雨が。
全く知らなかった恩師の落命が判明したら、誰だって混乱する。
あたしにだけ、3年間も知らせられなかった。
「…」
「云って置くけど、もう私の所を訪ねないで呉れ。
私は君が嫌いだ。」
絶句するあたしに向けて、更に何かが突き刺される。
「_____へぇ、そう。」
あたしは意図的に、口角を三日月型に上げた。
あたしも嫌いだって、云い損ねたな。
そうだね、訪ねたのは間違いだったさ。
無駄に覚醒した思考を雨が湿気らす。
ぐちゃぐちゃな脳内を放置して、細い雨の中、拠地へ向かう。
あの人もさっさと踵を返して職場へ戻る。
_____な、云ったでしょ。
この話の始まりを綴ろうにも、てんで伝わりはしない。
救われもしない。
でも、あたしを語るには最適だったから。
