仕事は嫌いじゃない。
(ムシロ)
寧ろ好きだ。
でも、面倒なものは面倒でして。
「隊長……………、何処だよ……」
隊長が何処か判らない。
…け、決して、断じて!!
あたしは方向音痴では無い!…、と思う。
腰に着けたバッグから通信機を取り出してみた。
多分、彼の携帯に繋がるだろう。
この侭ぐだぐたと頭を抱え、街をさ迷って居ても駄目だ。
掛けてみるか。
鈕を操作し、電話を掛ける。
すると、直ぐに電子音が鳴り、繋がった。
成功だ。
「あ……隊長、今何処ですか。」
[「……屶神こそ何処なのだ。」]
(ノロシ) (ビルチング)
「ええと、目の前に消えかけの狼煙を纏う建築物が見えますが。」
[「了解した。ルートを教える、それに従え。」]
「かたじけない。」
ルートを説明されれば着ける。
………意外と説明丁寧なのですね。
着いたのは高い建築物の屋上。
中央には漆黒の外套を風になびかせた芥川が佇む。
「____無事に着いた様だな。」
「はい、お陰様で。」
…芥川の携帯端末が小さく電子音を出す。
通話相手の声は聞こえない。
「重畳、五分で向かう。」
「…行きますか。」
「…あぁ。」
通話が終わったのを見計らい呟くと、返事を返して呉れた。
意外に愛想はあるようだ。
*
…本当に五分で着くとは。
裏路地に銃声が轟く。
鉄の匂いが微かににおう。
突如、銃声は止み、苦しそうな女性の声の呻き声が聞こえた。
刹那。
芥川が咳をし、
黒衣を操り樋口であろう女性の頚を絞める、少年の背に黒刃を突き刺す。
途端に増す鉄の匂いと溢れる血液。
「死を惧れよ」
「殺しを惧れよ」
黒刃が地に伏せた少年の紅い背から抜かれる。
「死を望む者」
「等しく死に」
「望まるるが故に__ゴホッ」
台詞の途中で咳をしたせいで締まりが悪いな。
「な__」
白い青年が驚愕し、恐怖に圧倒された表情を浮かべた。
…あれが人虎?
「お初にお目にかかる、僕は芥川。
そこな小娘と同じく、卑しきポートマフィアの狗___」
自己紹介は咳で切れた。
あたしもした方が良いのか、と目で訴える。
勝手にしろ、と云われた様だ。
「…同じく、ポートマフィアの狗の屶神。」
してみた。
まぁ、覚えられる事は無いだろう。
「芥川先輩、ご自愛を__此処は私ひとりでも」
樋口が大声で訴えるが、無惨にも渇いた音が樋口を襲う。
黒眼鏡が地に落ちる。
……容赦の無い方だ、後輩__しかも女性に__手を上げるとは。
やはりあの人の弟子は弟子という事か。
「人虎は、生け捕りとの命の筈。
片端から撃ち殺してどうする。」
「役立たずめ」
同じ様な光景を幼き頃に見た気がするのは気のせいか。
「___済みません。」
弱々しく謝る樋口を横目に見る。
あぁ、可哀想に、辛かろうな。
「人虎……?生け捕り……?あんたたち一体」
人虎の少年は話に着いていけていない様だった。
当然か。
「元より僕らの目的は」
「貴様一人なのだ人虎。
そこに転がるお仲間は___いわば貴様の巻き添え。」
「僕のせいで皆が__?」
「然り。 それが貴様の業だ人虎。
貴様は、
生 き て い る だ け で 周 囲 の 人 間 を 損 な う の だ。」
それは少年に対して酷な発言だったようだ。
汗が頬を流れている。
「自分でも薄々気がついているのだろう?」
その言葉はあたしに対してだって酷である。
「『羅生門』」
何れだけの人間を地に埋めたのだろう。
数えるのは飽きてしまった。
芥川はそんな事を考えた事も無かろうに。
「樋口、下がって居て。」
羅生門の攻撃は強力だ。
地面共々斬り崩されては困る。
「__屶神先輩…。」
「弱音を吐いたら頚を掻き切られるぞ。
物理的にも、社会的にもな。」
「………はい。」
樋口は、そんな事はとうに解っている、と云う様に唇を噛み絞めていた。
「な、何故?どうして僕が__」
相変わらず人虎の少年は怯えていた。
恐怖故に床にへたりこんで仕舞ったくらいだ。
……重傷を負った少年少女は息がある。
虫の息だが、少年の方は顔を上げ、逃げろと伝える体力はある様だ。
敦、と云うのか、この人虎の少年は。
名前を知っても、少年は生きて帰れるとは限らないけど。
突如、意を決したのか、敦…は眼を開いた。
玉砕を行う積りなのか。
阿呆だ。
敦は羅生門を避け、地を滑り銃を手に取った。
何も訓練等受けて居ないだろうに、動きが良い。
……優秀だ。
芥川の背に鉄の鉛を撃ち込む。
「……少年、甘いねェ。」
独り言の積もりが意外に響く。
「そ んな…何故…」
