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昨日の向日葵、今日も日廻り。
- エピソード1ー向日葵畑の記憶 -

首筋を流れる汗が焦燥感を煽り、脳から意味不明な信号が次々と押し出され頭がパニックに陥っていく。
無我夢中になって走れば走るほどに息は上がり、蝉の鳴き声がだんだんと遠ざかる。
途中で辺りを見渡してみるけれど、どの方向を向いてもあるのはひまわりの花。

「あぁもう。どうしてここで迷っちゃうかなぁ……。毎日ここで遊んでるはずなのに暗くなると何も見えなくなっちゃうし。……帰ったら、怒られるよね。門限もとっくに過ぎてるし」

夕焼けの光が、僕のいるひまわり畑を照らしている。もう少ししたら、日は完全に落ちて真っ暗になってしまう。日が暮れて帰る時刻がどんどん遅れれば、大変なことになる。それはもう、大変なことに。
周りにあるのは僕よりもはるかに背の高いひまわりの花。昼の間は僕たちを見守っていたそれが、今度は僕を暗黒に隠そうとしている。
帰る目印を探すために、急いで走り始めた。
とりあえず何か見つけるまで、迷走してみる。すると、見覚えは無いし、ひまわり畑に必要無いはずのものが見つかった。その巨体は赤い色をしていたから、案外見つけやすかったのだ。

「…ん? あれは……トラクターだ‼︎」

長い間使用されていなかったせいかところどころ錆び付いているトラクターの運転席の上にある雨避けに乗っかった。
さっきまであの子と遊んでいた場所が見えた。ひまわり畑の真ん中に一本だけ孤独にそり立っている桜の木の下が、僕たちの遊び場だ。
今は当然誰もいない。さっきまでいた僕たちが最後の来客だったからだ。
家までの道を見失い途方に暮れている僕とは違って、あの子はもう家に着いていることだろう。
トラクターを支点に、桜の木と反対側に、窓から明かりが漏れる一軒家があった。僕の家だ。

「あった‼︎ ……でも、帰りが遅くなった言い訳を考えておかないと。…例えば、木に登ったら怖くなって降りられなくなったとか………駄目だ、全然思い浮かばないよ……」

もし帰ったとしても降りられなくなったって言い訳だけは無いな。恥ずかしい思いをするだけだ。怒られた後に自ら赤っ恥を晒すなんて芸当は僕にはできやしない。
とりあえずは家まで行くか。
トラクターから降りて、家の方向を目指して進み始める。

「………………っ」

なんとなく桜の方向を見てみる。
……本当に誰もいないよな?
注視してみてももう木の根っこ辺りはひまわりで隠れ、天辺部分しか見えない。

「急いで帰らないと」

全力ダッシュ。
さほど早くも無い足でひまわりとひまわりの間をするすると駆け抜ける。
畑を抜けると、家はもう道路を挟んだ反対側にあった。
庭と道路とを隔てる柵に手をかける。
ガチャガチャと音がするだけで、開く気配は無い。
柵に付けられている古風で重々しい雰囲気を放つ南京錠を睨みつける。
ここの鍵は確か裏口の使われていない郵便受けにあったはずだ。家の周りを半周して、帰ってくるのにまた半周。実質家の周りを一周する事になる。
そうなればもっと帰る時間は遅くなる。
…こうなったら奥の手だ。

「面倒くさいなぁ。……しかたが無い」

少し柵から距離をとって全力で走り出し、道路脇にある石を踏み台にして思いっきりジャンプした。最後に柵に手をついて体を横に反らせて柵を飛び越えた。
……これで、かなり時間短縮になったはずだ。…すでに遅れている状況では全く意味も無いが。
家の鍵は持っている。ポケットから鍵を取り出して鍵を開ける。
瞬間、親からの実績を覚悟した。
しかし、僕は玄関から溢れるあり得ないくらい、一種神々しいとすら感じる明るさの光に包まれる。
謎の引力に家の中に引き込まれる。
意識とは無関係に室内へと一歩を踏み出した。
途端、意識が一気に遠のいていく。その薄れた意識の中、背後から声が聞こえた。

「…待って! 行かないで‼︎ …………助けて‼︎」
「…………!」

聞き覚えのある声にとっさに振り返ろうとする。しかし、金縛りにあったように体の自由が利かない。
……でも、どうしてだろう。さっきまで一緒に遊んでいた大好きなあの子の顔が、よく、思い出せないや…………。


あれから何年だったんだろう。顔も声も、不鮮明な印象しか残ってない。そうだ、生きているかどうかすら知らないんだった。
僕が唯一覚えている事といえば、あの子がいつも髪留めに使っていた向日葵のバレッタと、ワンピースだけなんだ。

いずれこの物語がフリーホラーゲームになることを夢見て。……夢を見るだけです、本当に。他の小説と比べて各エピソードが短くなっております。投稿頻度もさほど高くはありません。こんな短い小説でも、読んで頂きありがとうございます。
<2016/09/18 19:55 ソト>消しゴム
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