「…………人‼︎ ……想人(そと)‼︎ おい、想人‼︎ もう授業終わるぞ、流石に起きろって‼︎」
「……えぁ?」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
今が数学Aの授業中だった事を思い出して慌てて起き上がるが、眼下には白紙のノートが広がっている。シャーペンを持ち、ホワイトボードに書かれている内容に目を通して板書を写そうとする。……しかしいまいち理解できずに、いつもの様に机に頬杖をついてしまう。
手の中でシャーペンがくるくると踊る。
ホワイトボードの前で、何やら意味のわからない文字や記号、数式を書きながら、数学教師の山口がそれを大声で説明していた。
「……よつてよつて! ここまでの式と公式から導かれる答えはこうであると! ……えー今回の授業は寝ている人が多かったですけれども、これだけは言っておきます。後で友達のノートを写さしてもらおうったって、大した意味はないからね? なんか勘違いしてる人も多そうだから、注告として言います。ノート写して見るだけじゃテストの点なんて取れやしないよ。第一私の話を聞いていないと、理解する前段階にすら立ててないよ。分かってる人は良いんだよ。ただ私の説明を聞いて分かってるつもりでいても、いざやろうとするとそう上手くいかないからね? 私教師歴8年位やっておりますけれども、私の説明が上手だから分かった気になっているだけだからね? 復讐はちゃんとしてください。ちゃんと数学の本質を理解した上でやっと公式が使えるようになるから。でも公式の暗記なんて全くもって駄目‼︎ ちゃんと理解して何のヒントも無しに解けるようになれば、公式なんて誰でも作り出せるからね。……はい、それでは今日の授業はここまでです」
起立ー。気をつけー。礼ー。ありがとうございましたー。
気のない号令で授業が終了した。大方午後の授業は眠気やら早く帰りたいと思って気が立っている人が多いのだろう。
生徒は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの教室に一時帰還する。
くっと座ったまま背伸びをして、机上に広がる白紙のノートと筆箱を片付ける。……と、前回の宿題のプリントが目に止まった。昨日の夜に答えを記入した紙。
「一応、出しておいたほうが良いよね」
教科書、ノート、筆箱を抱えて、ホワイトボードを消している数学教師の元へ。消し終わるのを待っていても時間の無駄なので構わず声をかける。
「先生……。前回の宿題のプリントです」
「ん? ああ。わかりましたよーっと。……君、この5・6時間目ずっと寝ていたけど大丈夫かい? まだ高校入りたてだから良いって考えちゃ駄目だけど、今ならまだ取り返しがつくから。先延ばしにする程出来なくなっていくからね」
「……はい」
先生を一人教室に残して廊下に出る。帰りのHRがあるが急がないで歩く。何せ教室からHR教室が遠いのだ。今いるのが校舎のD棟だとしたらHR教室がA棟。一年生は4階だから、A棟に着いても2階分上がらなくちゃいけない。どんなに急いでも3分はかかる。
当然の如くHRは終わっていた。教室に残っているのは掃除組、新しくできた友達と仲を深めたい組と部活組。案外残っている。
教室を見渡しても、さっき授業で起こしてくれた景(けい)はいないようだ。陸上部に入っているから放課後に駄弁る時間などありはしないのだろう。
僕もさっさと必要なものをリュックサックに詰めて帰宅の準備をする。
「やっと今週も終わりかぁ……。休みの日の前日の放課後って、やっぱり気分良いな」
学校が今日で終わり明日から三連休に入る。
従兄弟の母親は、下手に休みがあると休みが明けた時に鬱になりそうになるから、休みがちょこちょこあるくらいだったらずっと休日なしのほうが良いって言ってたけど、あれってよく分からない。日曜日の夜に暗い気持ちになるらしいけど、ブルーマンデーは全員が通る道じゃないかな。
日曜日の夜に暗い気持ちになるっていうのは共感できるんだけど……やっぱり休日はあったほうが良いって思う。
「ついでに晴れてる休日なんて久しぶりだよ……」
一昨日梅雨明けが発表されて、ここから暑くなってくる。
この三連休はどうしよう。一人で家でゲームは寂しいよね。
中学の友達も予定入ってるらしいから、景でも誘ってどこか遊びにでも行こう。最初だし、カラオケなんか良いかもしれない。……僕は歌下手だけど、下手の横好きって言うし、カラオケは楽しめれば十分だよね。
早速スマホを取り出して景にメッセージを送る。
日巡ー『今どこにいるの?』
すると、部活にいると思われる景から数秒で答えが返ってきた。
柿崎ー『悪い、今日は部活なんだ。先に帰っててくれ』
日巡ー『了解です。じゃあ休日どこか空いてる? カラオケとか行かない? せっかくの三連休なんだし』
柿崎ー『せっかくの三連休だから、大会入ってる。顧問がそう易々と逃げさせてくれないんだよ』
日巡ー『期待の新人は大変だね」
柿崎ー『とは言っても、ただの先輩の補助だけどな』
残念。
一人でどこかにでも出かけてくるかな。またバイクで川沿い走ろうか。
後ろの荷台にリュックサックを括り付けて、固定する。
ペダルに体重をかけて一気にスピードを上げる。電車勢の生徒の間をかいくぐり抜けて、校門から出た。大通りから脇道へと入り、直進して家を目指す。
途中妹がいたら拾って帰るかな。
※人物紹介
日巡想人(ひめぐりそと)
・主人公。幼少期の事件が原因で向日葵恐怖症である。帰宅部所属の平和主義者。警戒心を抱かせない見た目のせいか、周囲から甘く見られている。
柿崎景(かきざきけい)
・想人の高校の友人。陸上部所属の期待の一年。一目惚れしやすい性格で、告白した回数=振られた回数の残念な人。
「……えぁ?」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
今が数学Aの授業中だった事を思い出して慌てて起き上がるが、眼下には白紙のノートが広がっている。シャーペンを持ち、ホワイトボードに書かれている内容に目を通して板書を写そうとする。……しかしいまいち理解できずに、いつもの様に机に頬杖をついてしまう。
手の中でシャーペンがくるくると踊る。
ホワイトボードの前で、何やら意味のわからない文字や記号、数式を書きながら、数学教師の山口がそれを大声で説明していた。
「……よつてよつて! ここまでの式と公式から導かれる答えはこうであると! ……えー今回の授業は寝ている人が多かったですけれども、これだけは言っておきます。後で友達のノートを写さしてもらおうったって、大した意味はないからね? なんか勘違いしてる人も多そうだから、注告として言います。ノート写して見るだけじゃテストの点なんて取れやしないよ。第一私の話を聞いていないと、理解する前段階にすら立ててないよ。分かってる人は良いんだよ。ただ私の説明を聞いて分かってるつもりでいても、いざやろうとするとそう上手くいかないからね? 私教師歴8年位やっておりますけれども、私の説明が上手だから分かった気になっているだけだからね? 復讐はちゃんとしてください。ちゃんと数学の本質を理解した上でやっと公式が使えるようになるから。でも公式の暗記なんて全くもって駄目‼︎ ちゃんと理解して何のヒントも無しに解けるようになれば、公式なんて誰でも作り出せるからね。……はい、それでは今日の授業はここまでです」
起立ー。気をつけー。礼ー。ありがとうございましたー。
気のない号令で授業が終了した。大方午後の授業は眠気やら早く帰りたいと思って気が立っている人が多いのだろう。
生徒は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの教室に一時帰還する。
くっと座ったまま背伸びをして、机上に広がる白紙のノートと筆箱を片付ける。……と、前回の宿題のプリントが目に止まった。昨日の夜に答えを記入した紙。
「一応、出しておいたほうが良いよね」
教科書、ノート、筆箱を抱えて、ホワイトボードを消している数学教師の元へ。消し終わるのを待っていても時間の無駄なので構わず声をかける。
「先生……。前回の宿題のプリントです」
「ん? ああ。わかりましたよーっと。……君、この5・6時間目ずっと寝ていたけど大丈夫かい? まだ高校入りたてだから良いって考えちゃ駄目だけど、今ならまだ取り返しがつくから。先延ばしにする程出来なくなっていくからね」
「……はい」
先生を一人教室に残して廊下に出る。帰りのHRがあるが急がないで歩く。何せ教室からHR教室が遠いのだ。今いるのが校舎のD棟だとしたらHR教室がA棟。一年生は4階だから、A棟に着いても2階分上がらなくちゃいけない。どんなに急いでも3分はかかる。
当然の如くHRは終わっていた。教室に残っているのは掃除組、新しくできた友達と仲を深めたい組と部活組。案外残っている。
教室を見渡しても、さっき授業で起こしてくれた景(けい)はいないようだ。陸上部に入っているから放課後に駄弁る時間などありはしないのだろう。
僕もさっさと必要なものをリュックサックに詰めて帰宅の準備をする。
「やっと今週も終わりかぁ……。休みの日の前日の放課後って、やっぱり気分良いな」
学校が今日で終わり明日から三連休に入る。
従兄弟の母親は、下手に休みがあると休みが明けた時に鬱になりそうになるから、休みがちょこちょこあるくらいだったらずっと休日なしのほうが良いって言ってたけど、あれってよく分からない。日曜日の夜に暗い気持ちになるらしいけど、ブルーマンデーは全員が通る道じゃないかな。
日曜日の夜に暗い気持ちになるっていうのは共感できるんだけど……やっぱり休日はあったほうが良いって思う。
「ついでに晴れてる休日なんて久しぶりだよ……」
一昨日梅雨明けが発表されて、ここから暑くなってくる。
この三連休はどうしよう。一人で家でゲームは寂しいよね。
中学の友達も予定入ってるらしいから、景でも誘ってどこか遊びにでも行こう。最初だし、カラオケなんか良いかもしれない。……僕は歌下手だけど、下手の横好きって言うし、カラオケは楽しめれば十分だよね。
早速スマホを取り出して景にメッセージを送る。
日巡ー『今どこにいるの?』
すると、部活にいると思われる景から数秒で答えが返ってきた。
柿崎ー『悪い、今日は部活なんだ。先に帰っててくれ』
日巡ー『了解です。じゃあ休日どこか空いてる? カラオケとか行かない? せっかくの三連休なんだし』
柿崎ー『せっかくの三連休だから、大会入ってる。顧問がそう易々と逃げさせてくれないんだよ』
日巡ー『期待の新人は大変だね」
柿崎ー『とは言っても、ただの先輩の補助だけどな』
残念。
一人でどこかにでも出かけてくるかな。またバイクで川沿い走ろうか。
後ろの荷台にリュックサックを括り付けて、固定する。
ペダルに体重をかけて一気にスピードを上げる。電車勢の生徒の間をかいくぐり抜けて、校門から出た。大通りから脇道へと入り、直進して家を目指す。
途中妹がいたら拾って帰るかな。
※人物紹介
日巡想人(ひめぐりそと)
・主人公。幼少期の事件が原因で向日葵恐怖症である。帰宅部所属の平和主義者。警戒心を抱かせない見た目のせいか、周囲から甘く見られている。
柿崎景(かきざきけい)
・想人の高校の友人。陸上部所属の期待の一年。一目惚れしやすい性格で、告白した回数=振られた回数の残念な人。
