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昨日の向日葵、今日も日廻り。
- エピソード3ー日記 -

15分も経たずに家に着いた。

「ただいま」
「お帰りなさい」

母さんが台所で夕食の用意をしながら「おやつは机の上にあるから。ちゃんと留音(るね)の分も考えなさいよと言った。

「分かってるよ、小さい方を食べればいいんでしょ」

机の上の皿には二等分にしてある蒸しパンが置いてあった。実際母さんの位置からだとこの机は見えないからどっちを食べてもバレないだろう。でも僕は小さくても何ら問題はない。
ソファに座ってテレビをつける。
何か録画していたかなと、録画欄を確認してもその類のものは見当たらない。見たいアニメがやっているのは土曜日の深夜帯だった。そういえば今期のアニメは面白いものが少ない気がする。1クールで終わらせるというジンクスの所為でどのアニメもストーリーを短くする必要がある。だから、設定も内容も薄っぺらくなってしまうものが多い。
これは来季に期待かなぁ。
しょうがなく、平日の報道番組「every・buddy」を見ることにした。
某野球選手が覚醒剤使用で逮捕されたというニュースが流れる。有名人とは言えど人なんだな。有名人だからことが大きく見えてしまうのは、その本人がそれだけの物を背負っていた証拠だ。
続いて地方知事が政治活動費を不正に私用していたというニュース。やはり配られる仕事用のお金にしたって額が額なら目が眩んでしまうものなのか。政治家は信用とお金を得る仕事だからなぁ。だから政治屋なんて呼ばれてしまうんだ。それにしても一番悲しいのは、この問題が事件として取り扱われるのは、お金を不正に私用したという事では無くて、それを決算書に記載しなかったかららしい。
一ヶ月前までは某アイドルグループが解散するか否かの報道が連日画面に映っていたというのに。記者って執念なんだな。

「……ふあぁ…」
「……想人、あんたって本当に男子高校生かい?」
「ふぇ……?」

あくびの途中で変な返事をしてしまった。
どういう意味だろう。数学教師が今日の事で電話……なんてありえない。高校はそんな過保護ではない。ある程度放任で適当なのがあそこだ。勉学に関しては厳しいけれど、私生活に関しては注意喚起程度。

「さぁ……。少なくとも合格発表の日に僕の番号はあったはずだけど」
「そういう事じゃなくって」

母さんは料理鍋に蓋をしてこっちを向いた。何の料理だろう。匂いと机の上にある調味料からして……麻婆豆腐かな?

「あのね、悪く言ってるわけじゃないのはわかってると思うんだけど、なんかあんたみたいにのほほんとした顔を見てると……。なんかこう、息子が高校生だって事を時々忘れちゃうのよね。普通だったら親とこんなに仲良さそうに会話なんてできないと思うのよ」
「……別に仲良くしてるわけじゃないけど」
「ん? なんか言った?」
「いや何も?」
「ほら、他のママ友の話とか聞いてると、うちみたいのは案外レアケースっぽくて。汗臭いし話聞かないし言動は汚いしってそんなのばっかり。愚痴じゃ無くて普通の世間話がしたいのに頭が痛くなってくるわ」
「ならその話題についていけるように明日から言動とか悪くする? 運動は出来るかな」
「しなくていい」

ニュースは明日の天気を発表している。もう番組も終了する。

「まぁ、だから意識しないってだけで結構楽ができてるのかもね、有難いよ」
「それなら昼食代もっと出してくれない? 二百円で購買だと一個買って終わりなんだけど」
「しょうがないでしょ、それなら、その日のお釣りを次の日に繰り越ししても良いから。ほら、キャリーオーバーってやつ」
「全然違うけど。……それで、もう流石に頃合いじゃないの? 麻婆豆腐」
「え? あっ‼︎ やっちゃったー。豆腐水切りしないで入れちゃった。今日の麻婆豆腐はシャバシャバかもしれないなー」

え?シャバシャバの麻婆豆腐なんで食べたくないよ⁉︎
テレビの電源を落とし、自室へ向かおうとリビングのドアに手をかける。
すると、麻婆豆腐の行く末の決定に迷う母さんから声をかけられた。

「……そういえば、今日何となく倉庫の片付けをしてたらあんたが小さい頃の日記が出てきたから、机の上に置いといたわよ」

日記。その言葉を聞いた時、脳内に映像が映し出された。



『おはよう! 想人!』
『私ね、メロンパンが大好きなんだ!』
『駄目だよ! 危ないよ‼︎』
『……今日で、お別れになっちゃうんだ。もちろん、ずっと友達だよ‼︎」
『……助けて……もう嫌だよ、行かないで……』



「……っ!」

刹那、目の前が真っ暗になり意識が遠のく。その場で膝をつく。
が、母さんが咄嗟に声をかけてくれたおかげで何とか持ちこたえた。

「…ちょっと想人! 大丈夫⁉︎」
「……あ……いや、大丈夫……少し目眩がしただけ」
「そう? なら良いけど」

一体何だったんだろう。何か忘れている気がする。
階段を上がり、自室へ。
机には日記が置いてあった。
……子供の頃に書いていた日記だ。
あの頃の事はよく覚えていない。一緒に遊んでいた子がいた事は覚えているが。
その子が行方不明になって、自分ではどうしようもなくて、とてつもなく悔しい思いをした。きっとその日の事も、この日記に書いてあるんだろう。
日記を手に取る。
黄緑色の、ボーダー柄の日記帳。
表には「夏の日記帳」と子供の書いたような蛇文字が並んでいた。名前は「日巡想人」。僕自身の名前だ。これを読めば何かしら思い出すかもしれない。
授業中に見た夢。幼い頃の記憶。確かあそこは引っ越す前の家だったはずだ。
日記が手の中にある今、あの子に会いたいと思う気持ちがふつふつと湧き上がってくる。懐かしさが、悔しさが今の原動力だ。
もういないとわかっているけれど、どうしていなくなったのかをちゃんと知っておかなければいけない気がした。
字はおぼつかなくて、読むのに苦労しそうだ。それもしょうがない。
何せ、8年前の自分の字だ。これで精一杯だったんだろう。
表紙をめくると、かぶっていた埃が舞い上がり、くしゃみをした。

次話、思い出の向日葵畑に赴きます。
挿絵を使いたいのですが、未対応の拡張子何やらで出来ませんでした。サイズは大丈夫なのですがただファイルから選択しただけではいけないのでしょうか。##img##も入れて試したのですが駄目でした。
<2016/10/02 18:20 ソト>消しゴム
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