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昨日の向日葵、今日も日廻り。
- エピソード4ー紐解けない記憶に誘われて -

…………………………パサッ。

日記を読んでいる途中に、日記の間から何かが落っこちた。
どうやらまた日記らしい。しかし、ピンク色で少し小さめだ。
表紙を見てみる。

「……‼︎ 嘘……でしょ、何で、僕のに……」

それは僕が長らく忘れていたあの子の日記帳だった。あの日いなくなったこの日記を僕が持っている。これは別れとともにあの子が持って行ったはずだ。

表紙には、女の子らしい可愛らしい文字で『Daily Dialy』と、のみ。
書き込まれている名前は『霧霜詩遥(きりしもしはる)』。

今や顔さえも忘れてしまった詩遥の日記の表紙に指を引っ掛ける。
そういえば、お互い書いているのは知っていたが見せ合いっこはしなかったはず。どんな内容が載っているのか。複雑な思いの中、表紙をめくる。その表紙は、やけに重たく感じられた。

……しかし、そんな覚悟も、一瞬の躊躇いの内に掻き消えてしまう。

「想人兄‼︎ 早く降りてきてよ‼︎ ご飯が冷めちゃう!」

いつの間にか帰ってきていたのか、妹の呼びかけに気がそれた。

「……ああ! うん! 今すぐ行くよ!」

時計を見ると、いつの間にやら一時間も経過していた。
汚い……いや、拙い子供の書く文字を解読し、どこで単語が分かれているのか考えながら読み進めるのは、なかなかに難儀な仕事だった。
ダイニングでは、もう既に机の上に夕食が並べられ、妹は腹が空いているらしく、椅子に座り足を遊ばせていた。

「あら、想人。まだ着替えてなかったの?」
「えっ、あっ…………」

言われるまで気づかなかった。制服のままだ。しかし、妹の留音も部活のジャージ姿のままなので気にせず食卓につく。ワイシャツに気を付ければ平気だ。
母親も定位置に腰をかければ、日巡家の日常的な食卓風景が完成する。

「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
「いただきます!」

手を合わせてお命頂戴を綺麗にした言葉を口に出して箸を持つ。
妹はさぞ部活で疲れたのだろう、おかずと白飯を口に運んでは「ん〜おいし〜!」と堪能していた。
そこで僕は思い出して、箸を進めるのを中断する。

「……そうだ、母さん。僕、明日は朝のご飯要らないから」
「そうなの、でもどうして」
「ん」

制服のポケットから僕の日記を取り出し、見せる。

「ちょっと、出かけてくる」
「前の家に行ってくるの? あの辺りは今どうなってるかわからないから気を付けてね」
「分かってるよ。流石に人の血の味を覚えたクマなんかいたら逃げても意味ないけどね」
「親がOK出せないような不安要素を自分から掲示して、何になるのかしら」

僕と親のやりとりを見て留音が会話に割り込む。

「ねえ想人兄。行くなら私も行くー。私もあの辺りどうなったか知りたいし」
「いや何でついてくるの」
「えー? 何となくだけど」
「……勉強サボりたいだけでしょ? 考えが見え見えだよ」
「あ、想人兄酷い。私がいつもサボることばかり考えてると思ってる。うー」

留音は頬を膨らませる。
その膨らみを突くと留音はふうっと息を吐き出す。
そのやりとりを見て、母親が笑う。

「本当に、仲がいいわねえ。親としてはずっとそのままでいてくれると助かるんだけど」
「無理言わないほうがいいよ。僕の方は良くても、留音が三年後にはどうなってるか分からないから。『近寄んな』とか言いそうだよ」
「……私そんなんならないもーん」
「怖いなぁ、そう言った人って決まって予想通りになるもんなぁ」

日記をしまい、再び箸を持つ。
いつもの、食事風景だ。
部屋に戻り、日記の解読を進める。……とは言ったものの、元から日本語なのでやっていることといえば原型を留めていない蛇文字が五十音のどれに当てはまるか推測するだけなのだ。
ピンク色の日記はまだ見ていない。順序が違う気がするのだ。
何かあの頃に手掛かりになることでも書いてないかと期待していたが、所詮は日記張。子供のたわいない日々の記録だ。
子供が未来に向けて書くメッセージの単語帳ではないのだ。そもそも子供がそんな思わせぶりな記録をつけるはずもない。

……コンコン。

ノックの音がする。

「どうぞ」

と言えば、ドアが開く。
そこから顔を出したのは留音。今はちゃんとした私服だ。

「……何……やってるの?」
「……いや、僕が子供の頃の日記帳があったから、読んでただけ」
「へえ、そんなものあったんだ。私知らなかったなぁ」
「そりゃ、留音が小学校にもいない時期だからね、当然だよ」
「……ふーん」

あくまで興味本位だったのだと思うが、留音がピンク色の日記に触れようとした途端に、僕はその手を払った。

「それは駄目だ‼︎」
「わっ!」

バランスを崩した留音は、後ろにあったベッドに座り込んでしまった。
しかも、振り払う力が強かったのか、手をさすっている。

「……てて」
「あ……ご、ごめん! 留音、大丈夫⁉︎」
「ん、いいよ。私が勝手に触ろうとしちゃったのが悪いんだし」
「いや……でも……」
「私の考えが浅かったよ、その日記、あの頃の物でしょ? 誰だってそうなるからさ、気にしないで」
「うん……ごめん」

何と情けないことだろう。何の考えもなしにただただ勢いだけで動いてしまった。
妹は気遣ってくれているのか、そそくさとドアを開けて部屋を出て行く。

「……それじゃあ、おやすみ。邪魔してごめんね? 想人兄」

ドアが閉まる。
悪いことをしたなぁ。
本当に、何で手が咄嗟に動いたのだろう。
何も考える時間もなく動くなんて。
まさか、この日記が、自分にとってそれほどの物なのか?
記憶も視力も曖昧な僕には、分かりようのない事だった。

非日常的な感覚に触れたせいか、それとも普通に疲れていたのか、睡魔の降臨は、そう遅くはなかった。
机の上には、二冊の日記が置いてある。

更新が遅れてすみません。執筆優先順位度的に「カイリの可能世界理論」の方が上なのでそちらに没頭していました。「昨日の向日葵、今日も日廻り。」は温い雰囲気で進んでいきます。
……あなたが当時の記憶を思い出して、頭に浮かぶ最高の思い出は何ですか?
僕は幼稚園の頃に妹分の女の子の家で、角砂糖を1キューブ食べた事を思い出します。
<2016/10/24 22:57 ソト>消しゴム
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