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JEJUNE
- 始まりの時 -


ねえねえ、源君。

君は本当に役立たずだ。

無能で、小心者で、ごみくずで。

どう?万引きして奪い取った席から見下ろす景色は。

良い気分?ハハッ、なるほど。意地でも君は自分に無理矢理そういった言葉を吹き込んで、安心したいわけだ。

全く、そんな全否定しなくたって…。君は信じたく無いから気づかないだけなんだ。

僕だったらそんな汚れた席から見下ろしたくたって、全然景色に集中できないよ。

失せるんだ、君は。君は、失せなきゃいけないんだよ。

お願いだから、失せて…失せてよぉ…。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜*〜〜〜〜〜〜〜〜〜
命を抱える誰もに居るはずなんだ
冗談なんかじゃない 受け止めてよ
自分に泪を流してくれる人が必ず居るんだってこと

曲のサビに入った瞬間、物凄くテンションが上がって、腹の底から炎のようなものがジワジワと上り詰めていくのが分かる。ただ、歌詞は、歌詞だけは聴かないようにしていた。他のファンの方々は口を揃えて、いつもの高クオリティなメロディーと相まって歌詞に感動すると言っている。しかし僕は、この歌詞にそんな事思わなかった。寧ろ嫌悪感すら抱いているのである。
“JEJUNE”とは、僕が中3の時からハマっている音楽ユニットだ。ボーカルはSayanEという女性アーティストで、その力強く、時に甘美な歌声は男性ボーカルをも超えていると噂されている。僕がこのユニットのファンになった理由の一つに、SayanEさんが僕と同い年だというのが大きい。だから歌詞に共感出来るものが多く、聴いていて心地の良い曲ばかりだ。但しこの曲に関しては歌詞に共感出来ない。まぁ、こういう時もあるさと、自分に対して驚きながらも言い聞かせる。
「速水君、いつもその曲口ずさんでるよね」
同じクラスの篝 紗也音と話すようになったのは、その一言がきっかけだった。正直言って地味な子でノリが悪そうだなと思っていたけど、SayanEさんと同じ名前という理由だけで好奇心が湧いてしまい今のような仲の良いのか悪いのかよく分からない関係へと発展している。
「僕の好きなバンドの曲のなんだよ」
普段はあまり人に自分のことを話さない僕なのに、この時初めて好きなモノを他人に打ち明けた。え?実はその子が好きだったからじゃないかって⁇まさかまさか、そんな感情これっぽっちも湧いてこない。愛してるかどうかは別として、僕はSayanEさん一筋って決めたんだ。きっと曲を口ずさんでテンションが上がってる勢いで言ってしまっただけ。誰かと共感して良さを分かち合うより、一人だけの空間でじっくり、したたかに味わう派だからね。
だから僕はこの日を境に仲良くするようになった訳じゃない。なのに篝は違かった。どう勘違いしたのか、次の日に
「ねえねえ速水君、私JEJUNEの曲色々調べたんだけど、すごく良いね!」
って話しかけてきて、一日一曲のペースで覚えてきたのだ。流石にいつかはコイツも飽きるだろうと思っていたけど、全くそんな素振りは見せない。一ヶ月もすれば、俺が鼻歌で歌っている曲名さえもワンフレーズ聞いただけで当ててきたのである。
さらに全曲覚えたかと思いきや、JEJUNEのあんな事やこんな事な裏話、新曲リリースにライブ情報、とうとうファンクラブにも入り、俺にも劣らないファン魂を見せつけてきた。あの地味で生真面目な篝があんなにどハマりするほどだったなんて。俺も抜かされてはなるまいと、JEJUNEについてどれだけ知っているか競っているうちに自然と会話の量も多くなって、気が付いたら雑談もするようになった。
そんなこんなで過ごしていたある日、篝からとある誘いがきた。
「ねえねえ源くん!実はね、私JEJUNEのライブのチケットが二枚も当たったの‼︎」
「へぇ…あっそ。それで何?源くんを越しましたよってお知らせをわざわざしに来たのね。」
「違う違う!全くもう、酷い言い様だな。折角一緒に行こうと誘いたかったのに…。」
「え、うそ、マジで⁈」
それはもう今でも死んでいいと思える程嬉し過ぎるお誘いだった。だって倍率があんなにも高いのに当たるだなんて、しかも二枚。俺にとって念願のライブが、まぁ屈辱ではあるが篝を渡って手に入るだなんて。もちろん俺は一緒に行く事を約束した。
チケットをもらいルンルンで帰った僕。はたから見たらすごくきもい光景だったと思う。少々スキップ気味で見慣れた上り坂を歩き、お馴染みのマンホールの近くまで来た。このマンホールにはあまりにも分かりづらい微妙な窪みがあって、いつもの僕なら簡単に避けながら歩けていた。ところが、今回ばかりは調子に乗っていたあまりすっかり忘れていて、踏み外してしまったではないか。
溝にすっぽり埋まる右足。
……あれ?何かおかしい。
一度埋まりかけて突っかかるはずなのに、足は構わず下へ下へと沈んでしまう。気付けば下半身、上半身、遂には頭まで、どぶどぶと底なし沼の如く飲み込まれてしまった。
「…ぅぐ、ぐほっ…!」
(なぜ、何故だ⁈身体が重くなって、動けないだなんて…‼︎)
夜とも闇とも似つかない靄に包まれ動揺している最中、何処からか幼い子の声が聞こえてくる。
『ねえねえ源くん』と、確かにそう言っている。しかしその後は全くと言っていいほどボヤけて聞こえない。同時に意識も遠くなって、自分の居る位置とか、存在とかがよく見えなくなってくる。
幼い子の声は空間中に響き渡った。まるで鐘の中に入ったような感覚で、子供特有の少しキンキンした鋭さが頭の中を突っついてきてさり気なく痛んでくる。
ずっと遠くで聞こえる声。未知の空間。ただそれだけを感じながら、あったはずの物凄い不安と恐怖が薄れて僕の瞼は自然と閉じていった。

初めまして、消しゴムくんです。
頑張ってファンタジー書いていきたいと思います。
よろしくお願いします‼︎
<2016/10/10 01:00 消しゴムくん>消しゴム
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