第九話 月に祈りを
アクが国へ帰って数ヶ月。雷国の国王に双子が死んだと報告したのだろう、あれから命を狙われることもなく、アオリとエリルは王宮で平和に過ごしていた。月鏡国の国民は、二人が生きていることを知っていたが、巫女様のためだ、と他国の者には隠し通してくれた。
「あー、難しい。」
巫女として王宮に仕えることになったアオリは、難しい本を片手に悪戦苦闘していた。本来エリルがやってくれる仕事なのだが、エリルは最近体調を崩していて、アオリが代わりに研究をしているのだ。
「そうだ!私なら巫女の力が使えるかも。」
アオリはたった今思いついた方法を実践しようとした。最近は術書にかかれたものを実践することが多かったが、新しいことにも挑戦することは大切だ。もちろんアオリがしようとしていることは書物には載っていない。
「我に記憶を見せよ。」
本に手を当てて呟いた。すると本は光を放ち、文字が浮かび上がってはアオリの周りをぐるぐるとまわった。
『巫女、戦にて勝利をおさめる。国は巫女の力により平和に戻らん。しかし、巫女も心ある人である。怨みを受け、愛す者のかわりになりて、敵の刃にて命を落とされる。』
頭の中には、巫女であろう女性と、男性が映っていた。周りを兵士に囲まれ、最後の力を振り絞っていた。巫女は未来や過去を見るだけでなく、力相応の術も身につけることができる。数人を倒したが、力尽きた巫女は、隣で刺されそうになった男性を庇い、地に倒れた。
「巫女様は病で亡くなったのではないのか…………。」
昔から読んできた巫女様の伝説とは違う結末に、アオリはため息をついた。自分たちもこうなるかもしれない、というのは、思っても口にはしたくなかった。
アオリは本を閉じると、大きな庭へと向かった。空はすっかり真っ暗で、三日月が東の空に浮かんでいる。アオリは、力が覚醒してから毎日必ず月に祈りを捧げている。月読の巫女という名の通り、月は大切な存在である。月は力を高める。研究を重ねるうち、伝説の巫女もこれは日課だったと知った。
アオリは庭に小さくある池まで来ると、池に映った月を見た。
ゆっくり目を瞑ると、波長を池に送って小さな波をつくった。波に揺られて月は歪む。
「月鏡をしなくても、私に聞いてくれればいいじゃない。」
ふと後ろから声が聞こえた。振り向くと、エリルが肩に暖かそうな布を羽織って立っていた。もちろん何人か侍女も一緒である。
「エリー、大丈夫なの?」
「大丈夫だから来たのよ。それより、月鏡なんてしないで私に聞いてってば。」
月鏡はただ池に波長を送るだけではなく、未来を知ることができる。もちろん誰でも出来るというわけではない。
「だって、最近調子良くなさそうだったから。」
「はぁー。またそうやって自分ばかり追い込んで。もっと私を頼りなさい!双子なんだから。」
エリルはアオリの隣に立つと、頬っぺたをつまんで引っ張って離した。
「過去が見えるのと未来が見えるのとでは背負うものが違う。」
アオリは珍しくしおらしげに呟いた。アオリは今、未来を見る修行もしている。最近は少しずつ見えるようになってきた。
アオリは月を見上げると、両膝を地につけた。祈るように胸の前で手を組み、目を瞑った。エリルも隣に並び、同じように祈った。
『どうか、この国に幸多からんことを…………。』
アクが国へ帰って数ヶ月。雷国の国王に双子が死んだと報告したのだろう、あれから命を狙われることもなく、アオリとエリルは王宮で平和に過ごしていた。月鏡国の国民は、二人が生きていることを知っていたが、巫女様のためだ、と他国の者には隠し通してくれた。
「あー、難しい。」
巫女として王宮に仕えることになったアオリは、難しい本を片手に悪戦苦闘していた。本来エリルがやってくれる仕事なのだが、エリルは最近体調を崩していて、アオリが代わりに研究をしているのだ。
「そうだ!私なら巫女の力が使えるかも。」
アオリはたった今思いついた方法を実践しようとした。最近は術書にかかれたものを実践することが多かったが、新しいことにも挑戦することは大切だ。もちろんアオリがしようとしていることは書物には載っていない。
「我に記憶を見せよ。」
本に手を当てて呟いた。すると本は光を放ち、文字が浮かび上がってはアオリの周りをぐるぐるとまわった。
『巫女、戦にて勝利をおさめる。国は巫女の力により平和に戻らん。しかし、巫女も心ある人である。怨みを受け、愛す者のかわりになりて、敵の刃にて命を落とされる。』
頭の中には、巫女であろう女性と、男性が映っていた。周りを兵士に囲まれ、最後の力を振り絞っていた。巫女は未来や過去を見るだけでなく、力相応の術も身につけることができる。数人を倒したが、力尽きた巫女は、隣で刺されそうになった男性を庇い、地に倒れた。
「巫女様は病で亡くなったのではないのか…………。」
昔から読んできた巫女様の伝説とは違う結末に、アオリはため息をついた。自分たちもこうなるかもしれない、というのは、思っても口にはしたくなかった。
アオリは本を閉じると、大きな庭へと向かった。空はすっかり真っ暗で、三日月が東の空に浮かんでいる。アオリは、力が覚醒してから毎日必ず月に祈りを捧げている。月読の巫女という名の通り、月は大切な存在である。月は力を高める。研究を重ねるうち、伝説の巫女もこれは日課だったと知った。
アオリは庭に小さくある池まで来ると、池に映った月を見た。
ゆっくり目を瞑ると、波長を池に送って小さな波をつくった。波に揺られて月は歪む。
「月鏡をしなくても、私に聞いてくれればいいじゃない。」
ふと後ろから声が聞こえた。振り向くと、エリルが肩に暖かそうな布を羽織って立っていた。もちろん何人か侍女も一緒である。
「エリー、大丈夫なの?」
「大丈夫だから来たのよ。それより、月鏡なんてしないで私に聞いてってば。」
月鏡はただ池に波長を送るだけではなく、未来を知ることができる。もちろん誰でも出来るというわけではない。
「だって、最近調子良くなさそうだったから。」
「はぁー。またそうやって自分ばかり追い込んで。もっと私を頼りなさい!双子なんだから。」
エリルはアオリの隣に立つと、頬っぺたをつまんで引っ張って離した。
「過去が見えるのと未来が見えるのとでは背負うものが違う。」
アオリは珍しくしおらしげに呟いた。アオリは今、未来を見る修行もしている。最近は少しずつ見えるようになってきた。
アオリは月を見上げると、両膝を地につけた。祈るように胸の前で手を組み、目を瞑った。エリルも隣に並び、同じように祈った。
『どうか、この国に幸多からんことを…………。』
