第十一話 二人で一人の巫女
数日前、月鏡国の王宮に密偵として潜入していた者が雷国に帰って来た。月鏡国への密偵が出ていたことは、ごく一部の者しか知らず、国民も今回がきっかけで知ることになった。もちろんアクもその一人で、知った時はもうすでにいろんな事が動き始めた時だった。国王は密偵からの報告を受けるとすぐに、雷国中に命令を下した。武力に自信のある者は戦に参加せよ、というものだった。月読の巫女を討つことができた者には褒美をやる、と。そうして兵力を集めた国王はすぐに国を発ち、月鏡国に向かった。
アクは月読の巫女を打ち損じた、または報告を偽った、ということで兵力に追われていた。ここに来る途中も何度も襲われたことも話した。
「部下に裏切った者がいるということか…………。」
「陛下、今は犯人をつきとめるより向かって来る兵力をどうにかしなくてはなりません。そこで、どうか私一人にお任せ下さいませんか?」
辺りにいた者がどよめいた。一人で…………などと小さく呟いた者もいる。
「月読の巫女として、最初で最後の力を使わせて下さい。」
「最初で最後…………?」
「人々が築いていく国にこのような力は不要なもの。あると混乱と争いを招いてしまう。人間とは欲深い者ですから。」
そう言うとアオリは立ち上がった。その目にはもう揺らぎがなかった。
「一人でと言うことは、エリルは連れていかないのか?」
そう聞いたのは、王子だった。近い未来、結婚しようと決めた相手を戦になど出したくはないのだろう。
「はい。エリーはいずれ王妃となられるかもしれない御方。そのような御方が戦に出など出るべきではありません。例え王妃にならずとも、私はエリーを戦になど連れては行きません。エリーは心優しいのです。彼女を戦になど連れていけば心を痛めます。私は双子として、彼女に幸せになってもらいたいのです。」
王子、エリルをどうかよろしくお願い致します。そう言うと、アオリは深々と頭を下げて部屋を飛び出した。アクもアオリを追いかけて飛び出した。アオリは扉の後ろに隠れていたエリルに気がつくことはなかった。
二人が飛び出した後の王室は、静まりかえっていた。みな、本当に一人で大丈夫なのかと、不安を抱えていたからだ。そんな沈黙を破ったのは扉に隠れていたエリルだった。
「かっこつけすぎなのよアオは………。」
突然現れたエリルにみな驚いた。エリルの目には涙が溢れんばかりに溜まり、今にもこぼれ落ちそうだった。
「王子、私も行かせてもらいます。」
涙をこらえながら、王子に近づいた。王子は不安を隠しきれない。
「私は死ぬんじゃなくて、生きるために行くのよ。大丈夫、私は月読の巫女よであり、あなたの婚約者なのよ?いずれあなたが国王となった時、あなたと共に守るべき国を今守らなくてはどうするの?」
エリルは王子の手を握って頬に当てると、背を向けて走り出した。誰もその背を追うことも、止めることもしなかった。
アオリは今、アクと共に兵団の最前線に立っていた。鎧も着けず、いつも着ている少し動きやすいドレスのまま、敵を迎えようとしていた。アクはアオリを守るために隣に立っている。
「私を庇って死ぬなんて許さないから!」
と宣言されてはいたが、いざというときはアオリを庇うつもりでいる。
そして、エリルがやって来てアオリの隣に並んだ。
「エリー、なんで………?」
「ばかね…………。月読の巫女として、兵士が来てるって知って黙ってる訳にはいかないじゃない。」
エリルは微笑んだ。
「それに、私達は二人で一人の双子の巫女よ。一人で戦わせたりなんてさせないから。」
それに、私だってアオに幸せになって欲しい。そう呟くとアオリの目から涙が一筋流れた。
「なんだ…………聞いてたの?」
こぼれた涙を手で拭いながら笑った。何かが吹っ切れたように。
向こうの方から、砂ぼこりが舞うのが見えた。そろそろ近づいて来ているようだ。
「じゃ、行きますかエリー!」
「無茶はしないでよ、アオ!」
兵団を遮るように並ぶと、アオリとエリルは戦闘態勢に入り、周囲に結界を張った。
「「封印解除!」」
双子の声は、甲冑を鳴らして歩く兵団には聞こえなかった。
数日前、月鏡国の王宮に密偵として潜入していた者が雷国に帰って来た。月鏡国への密偵が出ていたことは、ごく一部の者しか知らず、国民も今回がきっかけで知ることになった。もちろんアクもその一人で、知った時はもうすでにいろんな事が動き始めた時だった。国王は密偵からの報告を受けるとすぐに、雷国中に命令を下した。武力に自信のある者は戦に参加せよ、というものだった。月読の巫女を討つことができた者には褒美をやる、と。そうして兵力を集めた国王はすぐに国を発ち、月鏡国に向かった。
アクは月読の巫女を打ち損じた、または報告を偽った、ということで兵力に追われていた。ここに来る途中も何度も襲われたことも話した。
「部下に裏切った者がいるということか…………。」
「陛下、今は犯人をつきとめるより向かって来る兵力をどうにかしなくてはなりません。そこで、どうか私一人にお任せ下さいませんか?」
辺りにいた者がどよめいた。一人で…………などと小さく呟いた者もいる。
「月読の巫女として、最初で最後の力を使わせて下さい。」
「最初で最後…………?」
「人々が築いていく国にこのような力は不要なもの。あると混乱と争いを招いてしまう。人間とは欲深い者ですから。」
そう言うとアオリは立ち上がった。その目にはもう揺らぎがなかった。
「一人でと言うことは、エリルは連れていかないのか?」
そう聞いたのは、王子だった。近い未来、結婚しようと決めた相手を戦になど出したくはないのだろう。
「はい。エリーはいずれ王妃となられるかもしれない御方。そのような御方が戦に出など出るべきではありません。例え王妃にならずとも、私はエリーを戦になど連れては行きません。エリーは心優しいのです。彼女を戦になど連れていけば心を痛めます。私は双子として、彼女に幸せになってもらいたいのです。」
王子、エリルをどうかよろしくお願い致します。そう言うと、アオリは深々と頭を下げて部屋を飛び出した。アクもアオリを追いかけて飛び出した。アオリは扉の後ろに隠れていたエリルに気がつくことはなかった。
二人が飛び出した後の王室は、静まりかえっていた。みな、本当に一人で大丈夫なのかと、不安を抱えていたからだ。そんな沈黙を破ったのは扉に隠れていたエリルだった。
「かっこつけすぎなのよアオは………。」
突然現れたエリルにみな驚いた。エリルの目には涙が溢れんばかりに溜まり、今にもこぼれ落ちそうだった。
「王子、私も行かせてもらいます。」
涙をこらえながら、王子に近づいた。王子は不安を隠しきれない。
「私は死ぬんじゃなくて、生きるために行くのよ。大丈夫、私は月読の巫女よであり、あなたの婚約者なのよ?いずれあなたが国王となった時、あなたと共に守るべき国を今守らなくてはどうするの?」
エリルは王子の手を握って頬に当てると、背を向けて走り出した。誰もその背を追うことも、止めることもしなかった。
アオリは今、アクと共に兵団の最前線に立っていた。鎧も着けず、いつも着ている少し動きやすいドレスのまま、敵を迎えようとしていた。アクはアオリを守るために隣に立っている。
「私を庇って死ぬなんて許さないから!」
と宣言されてはいたが、いざというときはアオリを庇うつもりでいる。
そして、エリルがやって来てアオリの隣に並んだ。
「エリー、なんで………?」
「ばかね…………。月読の巫女として、兵士が来てるって知って黙ってる訳にはいかないじゃない。」
エリルは微笑んだ。
「それに、私達は二人で一人の双子の巫女よ。一人で戦わせたりなんてさせないから。」
それに、私だってアオに幸せになって欲しい。そう呟くとアオリの目から涙が一筋流れた。
「なんだ…………聞いてたの?」
こぼれた涙を手で拭いながら笑った。何かが吹っ切れたように。
向こうの方から、砂ぼこりが舞うのが見えた。そろそろ近づいて来ているようだ。
「じゃ、行きますかエリー!」
「無茶はしないでよ、アオ!」
兵団を遮るように並ぶと、アオリとエリルは戦闘態勢に入り、周囲に結界を張った。
「「封印解除!」」
双子の声は、甲冑を鳴らして歩く兵団には聞こえなかった。
