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満月に祈る巫女


第十二話 本来の力
遠くに見えていた兵士の軍団は、数分のうちに近くまで来ていた。簡単に作戦会議を済ませた双子は、その後ずっと座って手を組み祈るように目を瞑っていた。アクは黙って二人の数メートル前に立っていた。
兵士達は、双子の力の及ぶ範囲まで足を踏み入れた。その瞬間二人は立ち上り、
呪文を唱えた。
「国を荒らす人々からこの国を守りたまえ!」
二人から放たれた光は兵士達へ真っ直ぐに飛び散り、軍団を覆った。
アオリは人差し指と中指を立て、胸の前に備えた。
「悪し過去を見せよ。」
そう唱えたとたん、先ほどまで二人に向かって怒濤を浴びせていた兵士が、次々と片足を着いて唸り声を上げ始めた。
「死する未来を見せよ!」
アオリが取りこぼした数人の兵士にはエリルが未来を見せた。将来、自分が死ぬときの映像だ。彼らも先ほどと同じように苦しそうに膝をついた。
これだけでもかなり精神にはダメージを受けたはずだ。しかし、立ち直るのが早い者もいる。彼らはふらつきながらも、二人の方に向かって剣を突き出し走って来た。
「風よ、害を吹き飛ばせ!」
アオリの一言で起きた突風は兵士を数メートル転がした。
これは王宮に入ってから学んだ技で、大胆に使うのは初めてだった。
アオリはガクッと膝をついた。技を繰り出すのは簡単じゃない。動作こそは大きくないものの、使う力は相当のものだ。
「アオ!前!」
回復してきた兵士どもは、アオリめがけて突進してきた。前で数名を倒していたアクが見ぬ隙に、通り抜けたのだ。
アオリは一応持っていた剣を抜くと、男の肩からざっくりと切り裂いた。
返り血を少し浴びた。しかし、兵士はどんどん襲ってくる。アクもだんだんと後退してきて、エリルが危険になってきた。アオリはエリルの側まで寄った。
「エリー、この地全体に未来を映して。力は使うかもしれないけど、お願い。」
「わかった。」
エリルは手を高く上げると、降り下ろして地面につけた。
地面を七色の光がはしり、辺りを赤く染めた。血の臭いが立ち込め、数人の死体が転がっている。それらを置き去りにしにして、敵に背を向けて敗走する兵士たちが映り出された。
「これがお前らの未来だ!」
怒鳴り上げたアオリの声は静まりかえった広大な土地に響き渡った。
「お前達がここで諦めないとこのようになるぞ!それでも戦うか!?」
兵士達は知らなかったのだ。自分達が殺そうとしているのが普通の人間でないことを。月読の巫女という存在が、雷国を滅ぼす。国王そう言ったと伝えられ、皆はそれを信じたのだ。巫女を殺せば安泰だと信じ込んだ。
ほとんどの者が、逃げるように背を向けて走り出した。
「ちくしょーーっ!」
しかし、恐ろしさに耐えられなくなった一人の男が、やけくそのようにアオリめがけて矢を放った。
矢はヒュゥッ、と音をたてアクの横を通りすぎた。
ブシュッ、と鈍い音をたててその矢はアオリの腹部に刺さった。アオリは血を吹き出しながら倒れた。間一髪でエリルが支えたが、アオリの体に一人で立てるほどの力はなかった。力を使い果たし、体力を使い果たし、さらには体にまで負傷を負ったのだ。
その矢を放った男も含めて、すでに兵団は広大な地から姿を消していた。後ろ姿が霞む目に小さく映ったが、追う力ももはやない。後ろ姿さえ見えなくなったのを確認すると、アオリはそのまま意識を失った。

次が最終話になります。
<2016/06/25 22:59 小日向>消しゴム
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