第二話 王宮のパーティー
自分たちが伝説の巫女だと子供心で知ったあの日から、十年がたった。もう少しで十六歳の誕生日を迎えようとしているが、今までに巫女の力とやらを使ったことは一度もない。姉であるエリル、妹であるアオリ。同じお腹で同じ時を過ごした。ただ先に出てきたのがエリルだったという話だ。ほんの数秒の差でエリルが姉になっただけだ。もしかしたらアオリが姉だったかもしれない。しかし、そんなことはお構い無しに二人の性格には差が現れた。エリルはアオリよりも体が弱いがおしとやかで、いかにも女の子、という感じで周りからはよく誉められる子だ。一方アオリは子供の頃より好奇心旺盛、おてんばでよく傷をつくる。しかし、アオリは運動能力が高く、思考力や瞬発力も野生の勘のように働いた。そんなこんなな性格で今まで生きてきた。
「お嬢様、降りて下さいませ!」
どこからか声がした。
「危ないです!」
声の主はアオリの真下にいた。アオリは今庭にある大木の上にいる。
「はぁい。すぐおりるから。」
アオリはそう言って木から飛び降りた。侍女は目を見開いて叫んだ。そこそこある高さから飛び降りるのを見たら叫びたくもなる。しかしアオリは華麗に飛び降りた。
「お嬢様、やめてくださいませ。お怪我されたらいかがなさいます。アオリ様はお嬢様なのですよ。巫女様なのですよ。」
アオリは途中から耳を塞いだ。聞きあきた、と小さな声で呟くとまた同じことをリピートされる。
「あぁ、わかったから。」
軽く手を振って屋敷の方へ歩き出した。
「お嬢様、数日後のお誕生日会に向けておしたくして下さいませ。そして明日は王家のパーティーに呼ばれておりますよ、エリルお嬢様と一緒に。」
はぁ、と大きなため息をついた。
(王家か……面倒だなぁ)
アオリの住む国、月鏡国は自然豊かな島国だ。名前の由来はその名の通りで、海や島に多く流れている川や湖に月が映るからである。月鏡国と名付けたのは月読の巫女が仕えていた時代の国王だ。この国の基盤はこの国王によってつくられたといえる。巫女が国王に仕えていたと知ったのは最近のことだ。だから自分たちも国王に仕えるのかと思い、国王とは距離をおいてきた。しかし、アオリやエリルは月鏡国で有名な貴族クロエリア家の直系次女である。長女のエリルとともに、王家との交流は免れない。
「わかったよ。ドレス選んどいてくれる?」
アオリはその場を逃げるように部屋に向かった。
そして数日後、アオリとエリルは憂鬱なパーティーに参加するべく王宮に向かった。王宮は月鏡国の中心部に位置し、周辺は多くの人や商人が訪れる賑やかな街が多い。
「いらっしゃいませ。アオリ様、エリル様。ご案内いたします。」
二人はボーイに案内されるまま、大きな会場に足を踏み入れた。すでに多くの人が集まり、雑談をかわしている。
「まあ、もうこんなに来ているのね。」
エリルは初めてのパーティーに戸惑いながらキョロキョロ見回した。体が弱かったエリルはあまりパーティーへの参加は避けてきた。
「てきとうに食べましょうよエリー。」
アオリはお皿をエリルに手渡すと料理をちょっとずつ皿に盛っていく。エリルも見習い料理を盛った。しばらく二人で話していると、国王と王子が会場にやって来た。簡単にパーティーの挨拶をしたあと、お客さんをまわり挨拶してまわる。
「アオ、 口にノリが付いてる。」
エリルはハンカチを取り出してアオリの口元に当てた。
「エリー、子供扱いしないで!」
照れながらもありがたくハンカチは受けとる。国王の前でノリを付けているのは貴族として以前に女性としてあり得ない。口元を拭き終わったころ、国王がやって来た。
「エリル殿、アオリ殿、来てくださりありがとうございます。噂には聞いておりましたがそっくりですね。」
今日は二人の見分けがつくように髪型を変えている。
「本日はお招きありがとうございます。」
アオリは用意してもらった青いドレスを、エリルはピンクのドレスを華麗につまみ、軽く頭を下げた。隣にいた王子は息はぴったりの双子に目を開いた。そして王とは少し雑談したあと別れたが、王子はそのまま残って話を続けた。
「お二人は月読の巫女様……なんですよね。伝説の。」
「ええ、そうらしいです。でも私たちは未だにその力を使ったことはありません。今の世に私たちの力は必要ないと思っております。」
アオリは遠回りに力を否定しようとエリルよりも先に答えた。
「アオの言う通りです。」
エリルも賛成して頷いた。
「私は巫女とか関係なくアオが好きですから。アオがいれば十分です。他には何も望みません。」
突如頬を殴られたかのような衝撃を受けた。小さいころから仲が良くて、今でも変わらない関係。ずっと一緒にいたけど好きだなんてちゃんと聞いたことなかった。その驚きがアオリは隠せなかった。
「わ、私だって、エリーが好きだよ。」
エリルがアオリに微笑んだ。女のアオリだって見とれる可愛い笑顔。エリルは女の子の理想だけど、同じ顔の自分が同じことをしてもこんなに可愛くはならない。アオリは優しく微笑んだ。エリルとは違う微笑み方で。
「エリルさんってお体が弱いと聞いたんですが?」
王子はエリルに話をふった。
(そういえばこの王子、さっきからエリルの事ばかり見てる……。私には興味ないってか。)
アオリはその場にいるのが面倒になった。
「王子、わたくしちょっと風に当たって参ります。」
軽く礼をすると、返事を待たず二人に背を向けた。
自分たちが伝説の巫女だと子供心で知ったあの日から、十年がたった。もう少しで十六歳の誕生日を迎えようとしているが、今までに巫女の力とやらを使ったことは一度もない。姉であるエリル、妹であるアオリ。同じお腹で同じ時を過ごした。ただ先に出てきたのがエリルだったという話だ。ほんの数秒の差でエリルが姉になっただけだ。もしかしたらアオリが姉だったかもしれない。しかし、そんなことはお構い無しに二人の性格には差が現れた。エリルはアオリよりも体が弱いがおしとやかで、いかにも女の子、という感じで周りからはよく誉められる子だ。一方アオリは子供の頃より好奇心旺盛、おてんばでよく傷をつくる。しかし、アオリは運動能力が高く、思考力や瞬発力も野生の勘のように働いた。そんなこんなな性格で今まで生きてきた。
「お嬢様、降りて下さいませ!」
どこからか声がした。
「危ないです!」
声の主はアオリの真下にいた。アオリは今庭にある大木の上にいる。
「はぁい。すぐおりるから。」
アオリはそう言って木から飛び降りた。侍女は目を見開いて叫んだ。そこそこある高さから飛び降りるのを見たら叫びたくもなる。しかしアオリは華麗に飛び降りた。
「お嬢様、やめてくださいませ。お怪我されたらいかがなさいます。アオリ様はお嬢様なのですよ。巫女様なのですよ。」
アオリは途中から耳を塞いだ。聞きあきた、と小さな声で呟くとまた同じことをリピートされる。
「あぁ、わかったから。」
軽く手を振って屋敷の方へ歩き出した。
「お嬢様、数日後のお誕生日会に向けておしたくして下さいませ。そして明日は王家のパーティーに呼ばれておりますよ、エリルお嬢様と一緒に。」
はぁ、と大きなため息をついた。
(王家か……面倒だなぁ)
アオリの住む国、月鏡国は自然豊かな島国だ。名前の由来はその名の通りで、海や島に多く流れている川や湖に月が映るからである。月鏡国と名付けたのは月読の巫女が仕えていた時代の国王だ。この国の基盤はこの国王によってつくられたといえる。巫女が国王に仕えていたと知ったのは最近のことだ。だから自分たちも国王に仕えるのかと思い、国王とは距離をおいてきた。しかし、アオリやエリルは月鏡国で有名な貴族クロエリア家の直系次女である。長女のエリルとともに、王家との交流は免れない。
「わかったよ。ドレス選んどいてくれる?」
アオリはその場を逃げるように部屋に向かった。
そして数日後、アオリとエリルは憂鬱なパーティーに参加するべく王宮に向かった。王宮は月鏡国の中心部に位置し、周辺は多くの人や商人が訪れる賑やかな街が多い。
「いらっしゃいませ。アオリ様、エリル様。ご案内いたします。」
二人はボーイに案内されるまま、大きな会場に足を踏み入れた。すでに多くの人が集まり、雑談をかわしている。
「まあ、もうこんなに来ているのね。」
エリルは初めてのパーティーに戸惑いながらキョロキョロ見回した。体が弱かったエリルはあまりパーティーへの参加は避けてきた。
「てきとうに食べましょうよエリー。」
アオリはお皿をエリルに手渡すと料理をちょっとずつ皿に盛っていく。エリルも見習い料理を盛った。しばらく二人で話していると、国王と王子が会場にやって来た。簡単にパーティーの挨拶をしたあと、お客さんをまわり挨拶してまわる。
「アオ、 口にノリが付いてる。」
エリルはハンカチを取り出してアオリの口元に当てた。
「エリー、子供扱いしないで!」
照れながらもありがたくハンカチは受けとる。国王の前でノリを付けているのは貴族として以前に女性としてあり得ない。口元を拭き終わったころ、国王がやって来た。
「エリル殿、アオリ殿、来てくださりありがとうございます。噂には聞いておりましたがそっくりですね。」
今日は二人の見分けがつくように髪型を変えている。
「本日はお招きありがとうございます。」
アオリは用意してもらった青いドレスを、エリルはピンクのドレスを華麗につまみ、軽く頭を下げた。隣にいた王子は息はぴったりの双子に目を開いた。そして王とは少し雑談したあと別れたが、王子はそのまま残って話を続けた。
「お二人は月読の巫女様……なんですよね。伝説の。」
「ええ、そうらしいです。でも私たちは未だにその力を使ったことはありません。今の世に私たちの力は必要ないと思っております。」
アオリは遠回りに力を否定しようとエリルよりも先に答えた。
「アオの言う通りです。」
エリルも賛成して頷いた。
「私は巫女とか関係なくアオが好きですから。アオがいれば十分です。他には何も望みません。」
突如頬を殴られたかのような衝撃を受けた。小さいころから仲が良くて、今でも変わらない関係。ずっと一緒にいたけど好きだなんてちゃんと聞いたことなかった。その驚きがアオリは隠せなかった。
「わ、私だって、エリーが好きだよ。」
エリルがアオリに微笑んだ。女のアオリだって見とれる可愛い笑顔。エリルは女の子の理想だけど、同じ顔の自分が同じことをしてもこんなに可愛くはならない。アオリは優しく微笑んだ。エリルとは違う微笑み方で。
「エリルさんってお体が弱いと聞いたんですが?」
王子はエリルに話をふった。
(そういえばこの王子、さっきからエリルの事ばかり見てる……。私には興味ないってか。)
アオリはその場にいるのが面倒になった。
「王子、わたくしちょっと風に当たって参ります。」
軽く礼をすると、返事を待たず二人に背を向けた。
