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満月に祈る巫女


第四話 恋の自覚
王宮のパーティーから一夜明け、昨夜約束した「明日」になった。アオリは約束の場所に向かう途中、出店で出ていた踊り餅を買った。踊り餅は月鏡国で定番のおやつで、アオリも小さい頃からよく食べている。アクはこの国の人ではないらしいから、話のネタにいいかもしれない、とできたての踊り餅を手に川辺に向かった。川辺に着くと、アクは座って何かを書いていた。
「アク!」
呼び捨てはどうかとも悩んだが、見つけたらアクと呼んでくれ、と言っていたので呼び捨てにした。名を呼ぶとアクは振り向き、挨拶しながらこっちです、と手招きをした。
「何を書いてたんですか?」
座りながら話のネタにと質問を投げかけた。
「いえ、これはレポートみたいなものです。気にしないでください。」
アクはすぐにレポートらしき物を隠した。これ以上触れてはいけない話題であると感じたアオリは、さっそく買った踊り餅を出した。
「これ、踊り餅っていいます。ひとついかがですか?」
出された踊り餅をアクはポカンと見つめた。
(食事に誘おうと思ったのに……。)
アクは心の中で拗ねた。餅を食べたらご飯など当分入らない。
「ありがとうございます。」
内心ちょっと残念に思いながらも、初めて見る美味しそうな食べ物を断る理由はなかった。
「これはこの国での定番おやつなんですよ。といっても小さい子は危険なので、出され始めるのは七歳くらいからですけど。」
アクはまだ熱い踊り餅を一口で食べた。雷国には餅などないので、もちもち感は新鮮なものだった。いい具合に焦げ目があり、凄く美味しいとアクは思った。
「美味しいですね。もうひとつ頂けますか?」
アオリは袋からもう一本取り出すとアクに渡した。アオリも二本目に入り、買った餅はなくなった。
餅を食べている数分の沈黙の間、アクは色んな事を考えた。
(何か方法がないのか?彼女ももう一人の巫女も殺さずに済む方法は……。)
彼女が妹でなく姉だったら殺さずに済むのではないかと考えた。しかし、例え彼女が姉であり殺さずに済んだとしても、アクは彼女の妹である巫女を殺さねばならない。そんなことをしたら嫌われること間違いない。彼女は双子の妹を殺した犯人を憎み、許さないだろう。考えれば考えるほど悩みは増えた。双子の見分けが自分につくのか。もし、間違えれば大変な事になる。アクが書いていたレポートというのは、自分の悩みをまとめたものだった。たくさん悩み考えたがそれでも、アオリへの思いは変わらなかった。
会ったばかりでバカかもしれないが、会った瞬間からアオリが頭から離れなかった。屋敷に戻りカルトに相談すると、真顔でそれは恋だと言われた。そして納得した。今まで恋とかしたことなかったがこれが恋なのかと。
「どうかしました?」
アオリはアクの顔を覗きこんだ。
「さて、もう帰るます。」
アクはアオリの質問をさらりと無視して 立ち上がった。
「もうですか?会ったばかりなに………」
アクは目をパチクリした。甘えたように聞こえるのも恋のせいだろうか。その瞬間にアクの迷いの一つはふっきれた。
「アオリさん、好きです。」
「えっ…………。」
アオリは頭が真っ白になった。その言葉を理解するのに何秒かかったか。狼狽えてアクに背を向けた。
「昨日会ったばかりですが、あなたのことが頭から離れなかったんです。私はもうすぐ帰ってしまう。その前に言っておきたかったんです。」
「あ…………。」
アオリも思い出した。この人はこの国の人ではなく、いつか自分の前から消えてしまう人なのだと。
「あの、また明日会えますか?」
アオリは震える声を絞り出して聞いた。
「ええ。じゃあ明日、今日と同じ時間に会いましょう。」
アクはアオリに背を向けると、そのまま去って行った。

アオリはアクと別れたあと、ぼんやりした頭のまま屋敷へと戻った。部屋に戻る前にエリルの元へと向かった。
「エリー、今いい?」
「あ、アオ!どうしたの?」
エリルは布団から起き上がると、満面の笑顔をアオリに向けた。アオリはエリルの近くにある座布団の上に正座をして座った。握りこぶしを膝の上に置いてうつむく。
「最近ね、なんか変なの。」
「何が?」
エリルは首を傾げた。それでもアオリが話すまでゆっくり待ってくれる。
「昨日初めて出会った人が頭から離れないのよ。その人と今日会ったら、同じ事を言われた。それで、その…………、好きだって言われた。」
「…………告白されたって事?」
「いっ言わないで、恥ずかしい!」
エリルは照れるアオリを見て微笑んだ。
「それで?アオはなんて答えたの?」
アオリは黙りこんだ。それから察したエリルはふふ、と笑った。
「アオはどう思ってるの?」
「それは……。よくわからない。」
「私にはわかってアオにはわからないことがあるなんて。優秀なくせに鈍いんだから。」
エリルはからかったようにアオリのほっぺたをつついた。アオリは不愉快そうに顔を歪めながらもこらえた。エリルの言う通り、この手に関してはアオリにはわからない。
「もうすっかり好きになってるじゃない。会いたいでしょ?」
なんとなく気づいていたが、気づかない振りをしていた。
「そっか…………。」
エリルの言う事に間違いはない。エリルは自分より女の子だ。
「嬉しい!アオに好きな人なんて!今度会わせてよ!」
エリルは相談モードをやめ、野次馬モードに入った。小さい頃も何度かこんな話をした。エリルのノリはその頃から変わっていない。アオリは尋問から逃れるため、部屋から出ていった。
「はぁ、明日言わなきゃ…………。」
アオリは力の抜けた腰をおろし、床に向かって呟いた。

いつも読んでくださりありがとうございます。
気をつけてはいますが、誤字、脱字があった時は気にせずに読んでいただけるとさいわいです。
<2016/06/11 18:58 小日向>消しゴム
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