第六話 エリルの力
エリルはパ ーティーが終わったあと、気がついたら眠ってしまっていた。何時間というほどは寝てないだろうが、昼寝にしては長い時間だったかとしれない。窓の外を見ると、日はすっかり沈み、代わりに闇夜を照らしている月明かりが見えた。すっかり夜になったらしい。誰も起こしにこなかったのか、それとも気をつかったのかはわからないが、エリルを起こそうとした人はいなかったらしい。少し寝すぎた気分をすっきりさせようと思い、エリルは屋敷の庭に出た。たくさんの花が植えられている花園のような庭で、貴族の家ならよく見かける光景だ。
「今日は確か満月だっな。月読の巫女の誕生日に満月なんて偶然。」
エリルが空を見上げるが、月は雲に隠れていた。少し明るく光っているのですぐに出てくるだろうと思い、そのまま見上げた好きな。すると、少しずつ雲が流れ、月が少しずつ姿を現した。ようやく満月になる、というところで、心臓がドクンと鳴った。風は雲を流し満月を解放した。それを見た瞬間、エリルはその場に崩れ落ちた。目を閉じると、ミニドラマのような映像が頭を流れた。
『アオ!やめて!』
『双子の巫女を殺せ!』
『どうにかならないのか…………』
『アク!どうして!』
時間にしては数十秒。未来らしきものが見えた。血まみれのアオリに叫ぶ自分。巫女である双子の自分たちに向かって叫ぶ異国の人々たち。頭を抱えて苦しそうに呟く男の人。そしてその男の人に
向かって叫ぶ、混乱しているアオリ。その他色んなシーンが一瞬の駒のように現れては消えた。
「これって未来…………?巫女の力?」
目を開くと先程までいた庭にいた。
「能力が目覚めたってこと…?」
エリルは急に走り出した。もちろん目的地はアオリのところまで。
(私に出たならアオにも!)
広い庭をもう少しで抜ける、というところで人影が動いたのが見えた。反射的に立ち止まると、人影は姿を現した。
「月読の巫女…。」
そう呟いたのは見たことのない男性だった。
「誰…………?」
相手は驚いたような顔をした。エリルは男から背を向けて走ろうとしたが、数メートル行ったところで首に衝撃を受けた。エリルは気を失うとその場に倒れた。男性はエリルを大事そうに抱えると、一直線に走り出した。人が通るのかというような道から、道とは呼べない森の中を走った。しばらく走り続けて、男は小さな洞窟に入って行った。男はいまだ気を失っているエリルの肩にに、自分の羽織っていた服をかけた。洞窟の中はひんやりしている。
「ん…………どこ?」
何十分たっただろか。エリルはやっと目を覚ました。見渡すと来たことのない洞窟が広がっている。
「乱暴してすみませんでした。私はアクといいます。」
「アク!?アオの想い人さん!」
エリルがアクを見るのは初めてだった。いつか会いたいとは思っていたが、こんな形で対面するとは思ってもいなかった。
「アオのこと、騙したんですか?」
何故誘拐したのかとは聞かなかった。誘拐の理由よりも、アオリのことが気になった。
「アオ、凄く嬉しそうで楽しそうだったのに…………。アオのこと、好きじゃなかったんですか!」
冷静を保てなくなった。アオが傷つけられるのを黙って見ている訳にはいかない。
「違います!アオリのことは愛してます!」
予想外の反応に一瞬出遅れた。そうだ、と鼻で笑われるかと思った。
「僕の好きになった人が、僕の暗殺候補者かもしれないってだけです。僕は双子の巫女の妹を殺せ、と命令を受けてこの国に来たんです。」
「それで巫女であるアオリに近づいたんですか?」
「最初は暗殺候補者として彼女を見ていました。でも、実際に話してみて好きになったんです。暗殺のためではありません!」
アクの顔は本気だったが、演技かもしれない、とエリルは警戒を解かなかった。
「それで、アオを殺すの?」
「いえ、考えたんです。」
アクは座って真面目に話し始めた。
「僕は双子の名前しか知らなくて、どちらが姉か妹かわからないんです。でも、例えアオリが姉の方で殺さずにすんでも、僕が妹を殺したら、僕はアオリに一生恨まれて嫌われてしまう。どちらも僕にはたえられない。」
「ならば殺さなければいいじゃないですか。」
「僕は元々殺し屋ではないんです。ただ少し武術ができるだけで。でも、ある貴族の御方から命令を受けたんです。月読の巫女を殺せ、と。僕の父はその御方にご恩がありまして、断れませんでした。」
「それでは、どうするおつもりですか?私達を殺しますか。それとも親に恥をかかせますか。」
「その両方を回避したいのです。だから貴方を殺さずに連れてきた。実は先程からつけられていたんです。だから誘拐という形で連れていくと同時に、その人をまいてきました。恐らく、あの御方への報告係でしょう。」
「わかりました。しかし、私はあまり得意ではありません。こういう事はアオのほうがいい案を出してくれます。」
「アオリをどうしましょう…………。」
「アオなら来ます。私と同じように能力が目覚めていれば必ず。私を助けに来てくれます。しかし、あなたをどうするかはわかりません。」
「わかっています…………。」
アクは流れている水を両手ですくった。光の影響で青く光って見える。エリルもその水をすくうと、顔にかけた。
それからまた数十分後、二人の沈黙が破られた。荒い息で洞窟に入って来たのは、もちろんアオリだった。
「エリーを返してくれるかしら、アク。」
怒りを押さえた声と顔は、走ってきたせいで真っ赤だった。
エリルはパ ーティーが終わったあと、気がついたら眠ってしまっていた。何時間というほどは寝てないだろうが、昼寝にしては長い時間だったかとしれない。窓の外を見ると、日はすっかり沈み、代わりに闇夜を照らしている月明かりが見えた。すっかり夜になったらしい。誰も起こしにこなかったのか、それとも気をつかったのかはわからないが、エリルを起こそうとした人はいなかったらしい。少し寝すぎた気分をすっきりさせようと思い、エリルは屋敷の庭に出た。たくさんの花が植えられている花園のような庭で、貴族の家ならよく見かける光景だ。
「今日は確か満月だっな。月読の巫女の誕生日に満月なんて偶然。」
エリルが空を見上げるが、月は雲に隠れていた。少し明るく光っているのですぐに出てくるだろうと思い、そのまま見上げた好きな。すると、少しずつ雲が流れ、月が少しずつ姿を現した。ようやく満月になる、というところで、心臓がドクンと鳴った。風は雲を流し満月を解放した。それを見た瞬間、エリルはその場に崩れ落ちた。目を閉じると、ミニドラマのような映像が頭を流れた。
『アオ!やめて!』
『双子の巫女を殺せ!』
『どうにかならないのか…………』
『アク!どうして!』
時間にしては数十秒。未来らしきものが見えた。血まみれのアオリに叫ぶ自分。巫女である双子の自分たちに向かって叫ぶ異国の人々たち。頭を抱えて苦しそうに呟く男の人。そしてその男の人に
向かって叫ぶ、混乱しているアオリ。その他色んなシーンが一瞬の駒のように現れては消えた。
「これって未来…………?巫女の力?」
目を開くと先程までいた庭にいた。
「能力が目覚めたってこと…?」
エリルは急に走り出した。もちろん目的地はアオリのところまで。
(私に出たならアオにも!)
広い庭をもう少しで抜ける、というところで人影が動いたのが見えた。反射的に立ち止まると、人影は姿を現した。
「月読の巫女…。」
そう呟いたのは見たことのない男性だった。
「誰…………?」
相手は驚いたような顔をした。エリルは男から背を向けて走ろうとしたが、数メートル行ったところで首に衝撃を受けた。エリルは気を失うとその場に倒れた。男性はエリルを大事そうに抱えると、一直線に走り出した。人が通るのかというような道から、道とは呼べない森の中を走った。しばらく走り続けて、男は小さな洞窟に入って行った。男はいまだ気を失っているエリルの肩にに、自分の羽織っていた服をかけた。洞窟の中はひんやりしている。
「ん…………どこ?」
何十分たっただろか。エリルはやっと目を覚ました。見渡すと来たことのない洞窟が広がっている。
「乱暴してすみませんでした。私はアクといいます。」
「アク!?アオの想い人さん!」
エリルがアクを見るのは初めてだった。いつか会いたいとは思っていたが、こんな形で対面するとは思ってもいなかった。
「アオのこと、騙したんですか?」
何故誘拐したのかとは聞かなかった。誘拐の理由よりも、アオリのことが気になった。
「アオ、凄く嬉しそうで楽しそうだったのに…………。アオのこと、好きじゃなかったんですか!」
冷静を保てなくなった。アオが傷つけられるのを黙って見ている訳にはいかない。
「違います!アオリのことは愛してます!」
予想外の反応に一瞬出遅れた。そうだ、と鼻で笑われるかと思った。
「僕の好きになった人が、僕の暗殺候補者かもしれないってだけです。僕は双子の巫女の妹を殺せ、と命令を受けてこの国に来たんです。」
「それで巫女であるアオリに近づいたんですか?」
「最初は暗殺候補者として彼女を見ていました。でも、実際に話してみて好きになったんです。暗殺のためではありません!」
アクの顔は本気だったが、演技かもしれない、とエリルは警戒を解かなかった。
「それで、アオを殺すの?」
「いえ、考えたんです。」
アクは座って真面目に話し始めた。
「僕は双子の名前しか知らなくて、どちらが姉か妹かわからないんです。でも、例えアオリが姉の方で殺さずにすんでも、僕が妹を殺したら、僕はアオリに一生恨まれて嫌われてしまう。どちらも僕にはたえられない。」
「ならば殺さなければいいじゃないですか。」
「僕は元々殺し屋ではないんです。ただ少し武術ができるだけで。でも、ある貴族の御方から命令を受けたんです。月読の巫女を殺せ、と。僕の父はその御方にご恩がありまして、断れませんでした。」
「それでは、どうするおつもりですか?私達を殺しますか。それとも親に恥をかかせますか。」
「その両方を回避したいのです。だから貴方を殺さずに連れてきた。実は先程からつけられていたんです。だから誘拐という形で連れていくと同時に、その人をまいてきました。恐らく、あの御方への報告係でしょう。」
「わかりました。しかし、私はあまり得意ではありません。こういう事はアオのほうがいい案を出してくれます。」
「アオリをどうしましょう…………。」
「アオなら来ます。私と同じように能力が目覚めていれば必ず。私を助けに来てくれます。しかし、あなたをどうするかはわかりません。」
「わかっています…………。」
アクは流れている水を両手ですくった。光の影響で青く光って見える。エリルもその水をすくうと、顔にかけた。
それからまた数十分後、二人の沈黙が破られた。荒い息で洞窟に入って来たのは、もちろんアオリだった。
「エリーを返してくれるかしら、アク。」
怒りを押さえた声と顔は、走ってきたせいで真っ赤だった。
