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新・鈴恋!


−鳴海視点−

登校時間が、これほどまでに辛いものだなんて、あたしは初めて知った。
そもそも、あたしは遅刻常習犯であるし、通常の登校時間に通学路を歩く事自体が珍しいのだが。
今日こそは、アイツに謝る。
昨日の海斗の言い分は、少しでもあたしの背中を押したのだろう。
偉そうで内心ムカつくこともあったが、間違ったことは何一つとして口にしていない。
「……あー、緊張してきた」
現在は10月上旬。もう夏の面影は去り、朝や夕方は肌寒く感じる頃となった。
今日は、ニュースでも冷え込むと予報されていた。
しかし、今のあたしは感情が高ぶっている所為か、全然寒く感じなかった。


「おっ、染路。遅刻じゃないなんて、お前にしちゃあ珍しいじゃねえか!」
生活指導担当の先生が、失礼極まりない言葉をかけてきた。
「やれば出来る子、と言ってもらいたいかな」
「偉そうに言ってんなよ遅刻常習犯!」
先生は、盛大に笑いながらあたしの背中をバシン、と叩いた。
「痛いんですけど……あ」
見つけた。
男の割に、筋肉質が感じられない、華奢な身体つき。さらっとした黒髪。
通学鞄には、どこで買ったのかも分からない貞子のラバーストラップをつけている。
後姿だけで、これだけ判断出来るとは、果たして良いことと言えるのか。
あたしが謝らなければならない相手、透がいた。
透は、現在は靴箱で靴から上履きへと履き替えようとしている。
ここで話しかけなかったら、教室できっかけを探すのは難しい。
あたしと透が話さなくなってから、取り巻きの女子達が透の周りにいることが多くなっていたのだ。
軽く走って、靴箱のある場所へと辿り着いた。
正門から靴箱までの距離が短くて助かった。
上履きに履き替え、教室へ向かおうとする透の肩を、あたしは軽く叩いた。
「……透、この前はごめん‼︎」
驚きを隠し切れない表情で、透はあたしを見つめる。
「あたしだって、自分一人の意見で留学の件がなくならないことだって分かってる。どうしようもないことなんだって……‼︎でも、ずっと今まで一緒にいた人が、相談の一つもなく行っちゃうのは、辛いじゃない!」
素直に謝ろうと思っていたのに、言い訳のようになってしまう言葉の羅列。
「あの時、その場の感情だけでアンタを叩いた。それは身勝手で、子供じみたことだって、反省してる。悪いのはどう考えてもあたしだから」
ああ、情けなくて涙が出そうだ。
先ほどから言葉を何一つ発していなかった透が、口を開いた。
あたしは、覚悟するかのようにぎゅっと瞳を閉じる。
許してくれたのか、そうでないのか。
これから発する透の言葉次第で、あたしの過ちがどれほどの物であったのかが、改めて証明される。
「……鳴海、おはようございます。今日は、早かったんですね」
そよ風のように微笑む透から出たのは、予想が完全に的はずれな言葉だった。
「……え?」
「まぁ、早いと言っても、これが普通なんですがね……明日からも、続けてくださいね」
表情を崩さぬまま、透はあたしにそう言った。
そして、軽く会釈をしてから、教室へと向かい始めた。
取り残されたあたしは、返答の意味が理解し切れないまま、呆然と立ち尽くしていた。


鈴恋での季節感が感じられない。物語の中では10月上旬のつもりです。
<2016/12/18 12:28 錯乱咲良>消しゴム
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