「……どったの、お前」
「何よ。なんか文句ある訳?……気分よ、気分」
「気分なんてものでそんなに変えちゃうのかよ……」
学生時代の頃から相変わらずの皮肉じみた言い分。つり目がかった瞳でスーツの女性が、俺を睨みつけた。
「でも、似合ってると思う。鳴海ちゃんの活発な性格にもピッタリだよ〜」
ほわー、とした笑顔で恋鈴ちゃんが鳴海を褒める。随分と伸びた艶やかな髪の毛は、彼女の些細な動きで揺れる。
「ま、悪かねぇな。……でもアイツ、髪とか長い方が好きそうじゃね?女性の理想は貞子だし」
む、とまたもや顔をしかめる鳴海。以前は怒ると波立っていたポニーテールが、今では見当たらない。髪の毛をバッサリと散髪した彼女は、前下がりの横髪を残したベリーショートとなっていた。
「じゃ、主役を迎えに行くとしますか」
大きな鈴がついた車のキーを指に下げ、俺は部屋を出た。
-鳴海視点-
「……高校卒業以来だから、四年振りだっけか。透、何の仕事やってるんだっけ」
「夢叶って翻訳家よ。礼儀正しいところもあるから、通訳もしたりしてるみたい」
昔は日本の怪談をー、なんて話をしていたが、彼は怪談に留まらず、日本の昔ながらの文化を広めているらしい。
逆にイギリスを中心とした文化に感化され、四年前のお土産の量が凄いことになっていた。
「お、出てきた外国人。つまり来るな」
「当たり前のこと一々口に出さないの。どこにいるかな……」
「あ、発見。_________行ってこい」
「わっ」
とん、と背中を押される。振り返って海斗を睨めば、彼は笑顔であった。
その表情にいらついたが、諦める。あれが海斗の性格なのは、高校からの付き合いで充分分かっている。
探している人、透を人混みの中から見つけ出そうとする。
背の高い外人の観光客、出張帰りのような日本人男性、空港のスタッフ。思ったよりも混雑している場所の中で、よくも海斗はすんなり見つけられたものだ。
そんな中で、誰かが捨てたゴミを拾おうと、しゃがむ男性が見えた。
薄い黒縁のフレームの眼鏡に、さっぱりとした短髪。整った容姿は、さながら好青年と思わせる。
ゴミを拾い上げた男性と、目が合う。
「「あ」」
茶色いトレンチコートに身を包んだ青年が、小さく声を上げた。
数秒間目を合わせて、それから彼は立ち上がり、こちらへと歩いてくる。
心臓が脈立つ速度が上がるのがわかる。こんな感覚は数年振り……正確には、四年振りだ。
あと一歩で服が触れるほどに、気づいたら彼は近づいてきていた。
「……背、伸びたわね」
「そうですか?向こうにいると、自分より低い人が全然居ないので……」
随分と久々に会ったから、そう感じただけかもしれない。それでも、目の前に立つ彼は私よりも頭二つほど背が高く、頼もしく見えた。
「鳴海」
一緒に生活していた頃よりも、声は低くなっている。それだけは、自身を持って言える。
知らない声となったはずなのに、どこか懐かしい。
「待っていてくれて、ありがとうございました。色々な事があったけれど、皆との思い出を支えにここまでやって来られたんです」
「……うん」
「また僕は、しばらくしたらイギリスに帰ります。返しきれない恩が皆に……鳴海に、あります。けれど、一つだけ。ワガママを言っても良いですか」
あたしは昔から、自分の感情が周りにバレやすく、単純だ。クラス全員があたしの想い人を知ってもなお、透は気づかなかった。
髪型を変えてみたり、慣れない言葉で彼を褒めてみたり。鈍感すぎる透に、挫折しかけた回数は数え切れない。
それでも尚、彼は私の心を捕まえて離さない。
「鳴海、好きです。……良ければ、僕とお付き合いして頂けますか」
10数年も待ち望んでいた言葉は、思っていたよりもすんなり聞けてしまった。
堅苦しすぎて、笑ってしまいそうになる。もっと自信持っても良いのに。
「……遅いよ」
「え、あ……すみません!嫌、でしたか?それとも他の相手が……」
慌てふためく透を見て、自分が泣いていることに気がついた。何泣いてんだろ、あたし。
「OKよ、馬鹿」
涙を拭って、今できる精一杯の笑顔を彼に向ける。眼鏡のレンズの奥の瞳が揺らぐ。そして、彼は目を細め、昔と変わらぬ笑顔で笑い返す。
私達を見守ってくれていた親友が、祝福するように、小さく鈴を鳴らす音が聞こえた。
「何よ。なんか文句ある訳?……気分よ、気分」
「気分なんてものでそんなに変えちゃうのかよ……」
学生時代の頃から相変わらずの皮肉じみた言い分。つり目がかった瞳でスーツの女性が、俺を睨みつけた。
「でも、似合ってると思う。鳴海ちゃんの活発な性格にもピッタリだよ〜」
ほわー、とした笑顔で恋鈴ちゃんが鳴海を褒める。随分と伸びた艶やかな髪の毛は、彼女の些細な動きで揺れる。
「ま、悪かねぇな。……でもアイツ、髪とか長い方が好きそうじゃね?女性の理想は貞子だし」
む、とまたもや顔をしかめる鳴海。以前は怒ると波立っていたポニーテールが、今では見当たらない。髪の毛をバッサリと散髪した彼女は、前下がりの横髪を残したベリーショートとなっていた。
「じゃ、主役を迎えに行くとしますか」
大きな鈴がついた車のキーを指に下げ、俺は部屋を出た。
-鳴海視点-
「……高校卒業以来だから、四年振りだっけか。透、何の仕事やってるんだっけ」
「夢叶って翻訳家よ。礼儀正しいところもあるから、通訳もしたりしてるみたい」
昔は日本の怪談をー、なんて話をしていたが、彼は怪談に留まらず、日本の昔ながらの文化を広めているらしい。
逆にイギリスを中心とした文化に感化され、四年前のお土産の量が凄いことになっていた。
「お、出てきた外国人。つまり来るな」
「当たり前のこと一々口に出さないの。どこにいるかな……」
「あ、発見。_________行ってこい」
「わっ」
とん、と背中を押される。振り返って海斗を睨めば、彼は笑顔であった。
その表情にいらついたが、諦める。あれが海斗の性格なのは、高校からの付き合いで充分分かっている。
探している人、透を人混みの中から見つけ出そうとする。
背の高い外人の観光客、出張帰りのような日本人男性、空港のスタッフ。思ったよりも混雑している場所の中で、よくも海斗はすんなり見つけられたものだ。
そんな中で、誰かが捨てたゴミを拾おうと、しゃがむ男性が見えた。
薄い黒縁のフレームの眼鏡に、さっぱりとした短髪。整った容姿は、さながら好青年と思わせる。
ゴミを拾い上げた男性と、目が合う。
「「あ」」
茶色いトレンチコートに身を包んだ青年が、小さく声を上げた。
数秒間目を合わせて、それから彼は立ち上がり、こちらへと歩いてくる。
心臓が脈立つ速度が上がるのがわかる。こんな感覚は数年振り……正確には、四年振りだ。
あと一歩で服が触れるほどに、気づいたら彼は近づいてきていた。
「……背、伸びたわね」
「そうですか?向こうにいると、自分より低い人が全然居ないので……」
随分と久々に会ったから、そう感じただけかもしれない。それでも、目の前に立つ彼は私よりも頭二つほど背が高く、頼もしく見えた。
「鳴海」
一緒に生活していた頃よりも、声は低くなっている。それだけは、自身を持って言える。
知らない声となったはずなのに、どこか懐かしい。
「待っていてくれて、ありがとうございました。色々な事があったけれど、皆との思い出を支えにここまでやって来られたんです」
「……うん」
「また僕は、しばらくしたらイギリスに帰ります。返しきれない恩が皆に……鳴海に、あります。けれど、一つだけ。ワガママを言っても良いですか」
あたしは昔から、自分の感情が周りにバレやすく、単純だ。クラス全員があたしの想い人を知ってもなお、透は気づかなかった。
髪型を変えてみたり、慣れない言葉で彼を褒めてみたり。鈍感すぎる透に、挫折しかけた回数は数え切れない。
それでも尚、彼は私の心を捕まえて離さない。
「鳴海、好きです。……良ければ、僕とお付き合いして頂けますか」
10数年も待ち望んでいた言葉は、思っていたよりもすんなり聞けてしまった。
堅苦しすぎて、笑ってしまいそうになる。もっと自信持っても良いのに。
「……遅いよ」
「え、あ……すみません!嫌、でしたか?それとも他の相手が……」
慌てふためく透を見て、自分が泣いていることに気がついた。何泣いてんだろ、あたし。
「OKよ、馬鹿」
涙を拭って、今できる精一杯の笑顔を彼に向ける。眼鏡のレンズの奥の瞳が揺らぐ。そして、彼は目を細め、昔と変わらぬ笑顔で笑い返す。
私達を見守ってくれていた親友が、祝福するように、小さく鈴を鳴らす音が聞こえた。
