世界というのは小さな箱で、僕らはその中のルールに沿ってしか行動できない。一番身近に感じるものに言い換えれば、ゲームのようなものだと思う。だからルールを軽く見て破ったり、操作や分岐を間違えれば簡単に死んでしまう。簡単に周囲からの視線が僕を殺していく。
駅前の交差点はどうにも人で栄えていて、考え事をするにはあまり適した場所ではなかったけれど、僕にはそこで考え事をする他選択肢が無い。駅前の交差点には少し離れた路地裏の手前に古ぼけたようなベンチがあって、よく老父が陣取って黄昏ているが彼は一週間程前から姿を見せなくなった。
そこに座ると、世界が別世界のように感じるのだということを知ったのなんてつい最近のことだ。
「……ねぇ」
聞き慣れたような、それでも新鮮に聞こえる彼の人の声に耳を傾けた。今日は来ないと言っていたのに。
「知ってる? 今日は、雨が降るんだよ」
交差した黒と白に施されていく色細工。
スーツや制服を来た人間達が足早に去って、眼には人の姿が映らなくなった。
「降らないかと、思ってたんです」
「一緒に帰ろう」
彼の人はビニール傘を僕に渡した。
けれど、内心思っていたことがあった。
『ビニール傘は、みやゆうさんに使って欲しい』
綺麗なビニール傘だった。所々に雨模様が描かれている。それでも彼の人は紺色の傘を使うから。
顔が見れないんだ。
「思ったんだけど、今日なんかさ……」
「……どうしたんですか?」
「……や、なんでもないよ。ごめんね」
貴方が何を思っているのか、時々解らなくなるの。
