みやゆうさんといえば、人気の実況者だ。
それはもう人望が厚く、誰からも好かれていると思うし気遣いも出来る人で、甘え上手な人だった。
僕も、何度その甘えに救われたか判らない。
みやゆうさんが家の前まで送ってくれて、その後は一人で部屋の片隅に縮こまっている。黄昏時の退廃した空を思わせるように奇妙な形で窓の外側の世界が色を変えた。部屋の電気は、点けなかった。
「……みやゆうさん」
携帯電話が憎たらしい。言葉を伝えるのなんて難しいじゃないか、顔も見れないのに、勇気も無いのに、どうして伝えようというのだろう。
「……何を、伝えるんだっけ?」
声を聞いて、僕は何を伝えるんだろう。今度の実況のこと、予定していた食事のこと、これからしてみたいこと、そして____もしかすると、貴方が好きかもしれない、こと。それを思うと山座りから勢いよく顔が上がって、熱くなっていく。
『……ピ、prr,prr』
電子音に肩が揺れた。
「わ、あ……あの……」
どれだけ狼狽えた所で音は止まない。
_ポチッ。
『あ、もしもし』
「こん…ばんは……。あの、みやゆうさんなにか……」
『今日さぁ、ポキさん家に泊まらせて貰えない?』
「……」
その言葉にはどんな意図が……。
『あのぉ……駄目?』
「え……駄目とかじゃなくて……普通に大丈夫ですけど」
『よかった。実はね、もう家の前に居るんだ』
「……」
_ピンポーン。
「は、はいっ!?」
『ふふ、今の俺ね』
腰を上げて小走りで玄関へ向かう。
覗き穴から向こうを見て、それでもみやゆうさんの背が高いせいか洋服しか映らなかった。
_ガチャ
『「こんばんは」』
電話の中、そして三次元でも聞こえた声に懐かしみと愛着を覚えてしまった。
「こんばんわ」
面白くなって、今日一番といえる笑顔が溢れた。
「あ、上がってください」
『「うん」』
「ふふっ……面白いですね、それ」
みやゆうさんはハッとして通話を切った。
「あれ、電気点けてなかったの?」
「……点けますね」
カーテンを閉めようとして動くと、みやゆうさんが先に動き出していたようで、カーテンはほとんど閉めきられていた。
ソファの下に腰を下ろすと、お腹減ったと腹を擦っている。
「何か作りますよ? なんにも無いですけど」
「ごめんねぇ」
カレーでも作ればいいのだろうか。というよりこういう時は一体どんな物を出せば良いのだろう。僕料理得意なんです新妻的雰囲気を演出するべきか。でも、料理動画とか上げてるしそれはどうでもいいんだよな。
「サンドイッチ好きですか?」
「うん。ポッキーさんが作ってくれるならなんでも好き」
「……そ、ですか」
「そだよ」
恥ずかしい。嬉しいと思うのに反面でどうしてそんなことを言うのだろうと、少なくとも僕をどう思っているのかは知らないが、はっきりさせて欲しい思いもあり、けれどそうすれば共に過ごし難くなってしまうのでは、という心配が非常に大きい。
「出来ましたよ」
「……早くない?」
「サンドイッチですもん」
「いただきます」とみやゆうさんはサンドイッチを摘まんだ。ハムとキャベツとマヨネーズを塗ってサンドしただけのなんの趣向もないサンドイッチだった。
「美味しい」
「本当ですか、それ」
「うん、普通に美味しい」
自分でも一つ摘まんでみた。まぁ"普通に"美味しい味。でも捻りの無さはきっと伝わっている。
「そういえば、今日はどうして僕の家に?」
「いやぁねぇ、家に友達来てさ。友達って言っても、東京から田舎に引っ越した人で……家追い出されたのね」
「それは……大変でしたね」
「でしょぉ?」
そんなハプニングがとても嬉しかった。
