おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
長靴を履いた黒猫。
- 中編 -

荷造りをし次の日、家を出た。ミハルが宣言通り買った家に住むことになった。
それからは嵐のように騒がしかった。

「ミハル、お前今度は猪狩ったのか?」
「ええ。はいお金」
「そんな物を軽々と渡すんじゃない!」

「ミハル!またお前宛に恋文が届いたが また女中に手出したのか!? やめろお前!」
「手出してませんよ。あっちから言い寄られてるだけです」
「でも、『楽しい夜』とか書いてあるぞ!」
「ああ、ダンスパーティーで踊ってあげたんですよ。しつこかったんで」
「前、帰るのがやけに遅かった原因はそれか…!」

「ミハル!!お前!! 強盗に殺人を犯した指名手配を捕まえるとか、なんて危ないことをするんだ!」
「えへ、つい。あ、これ賞金です」
「えへ、じゃない! もうこれ俺の手柄じゃないだろ…… 」

「ミハル!!お前ッ!!!」
「ああ、一番下の王女様に会ったんですよ。七歳に惚れられちゃいました」
「ミハルーー!!!」

ミハルはありとあらゆる手柄をナツキのものとしてたてた。いつしか、王宮でも王と気軽に話す信頼された者として一目置かれた存在になっていた。
また、ナツキの胃はキリキリと痛みを伴っていた。



ある日、ナツキは野うさぎを狩る為に罠を仕掛けていた。「俺だけ何もしてないのも」と罠などはナツキ一人でやるように分担していた。
また、ナツキが罠をかけに行っている間はミハルが家で留守をしていた。
ミハルは外で洗濯物を干していた。

「うんうん。風が強くて涼しいね。でも少し曇ってるなあ」
腕を摩りながら呟くと、後ろから声をかけられる。

「よう。長靴を履いた猫」
「ッ誰!? ……あ、貴方は」
「お久しぶりー? 覚えてるか? あのみそっかすナツキの兄でーす」
「何しに来たんですか」
「そりゃあ、ナツキがご主人様なんだろ? 俺はそのご主人様の兄様だ。俺にも尽くすのは当たり前だろ」
「僕はご主人様にしか従いません。目障りです。消えて下さい」
「……生意気な顔してん、な!」
「いった!!」

長男がミハルの端正な顔を思いっきり殴った。

「みそっかすの飼い猫は、やっぱりみそっかすだな」
「兄さーん。どうする。この猫売ろうか?」
長男の後ろから次男がニタニタしながら、倒れたミハルに近づき蹴り転がす。
「いだっ」
「ま、良いんじゃね? 男だから少し殴ったくらいじゃ死なないし、耳も尻尾も高く売れる、見た目も良いからそっちでも高く売れるだろう」
「ッ!」
「ついでにこの家も売り飛ばせば。ナツキのやつ調子乗りすぎ」

ミハルはぐたりと地面に身を預けている。目の前が見えない。

(ご主人様……貴方だけは僕に優しくしてくれた……愛をくれた。貴方に一生涯仕えようと……幸せにするって決めたのに。ごめんなさい……)
目を閉じる。最後に聞こえたのは、誰かが倒れる音と怒声だった。



「……あれ、もう売られたのかな僕」
「起きて最初の一言がそれか」
「あ、あれっ。ご主人様なんでいるんですか!!? あの人達は?」
「殴って家に送ってった」

ミハルがいたのはいつもと変わらない家だった。ナツキの顔や身体を見ると、湿布が貼られていて、目の下も腫れ上がっていた。

「……もしかして、喧嘩したんですか」
「人聞きの悪い。止めただけだ。少し殴ってやっただけだ」
「……なんで」
「大切なやつをそう易々と見捨てれるわけ無いだろ」
「僕、何も出来なかったのにですか」
「それは俺の台詞。お前はいっつも俺の為だとか言って無理して帰ってくる。たまには守らせろ」
「…………僕なんていなくても、っていた! 何するんですか!」

ナツキは無言でミハルの頭に拳骨を食らわせた。
グリグリと頭に拳を当てる。
「痛い痛い!」
「僕なんていなくても、じゃない。俺はお前がいてくれて助かってるんだ」
「!」
「いつも、感謝をしている。お前は俺の家族だ。いなくなったりするな。……主人からの命令だ」
「ご主人様……! 分かりました。その命、受け取ります」

ナツキはプイッと顔を横に向けてしまったが、ミハルは見た。少し、耳が赤く染まっているのを。
その日は、同じベッドで寝た。仲の良い兄弟のように。
しかし、ミハルは眠りにつくことが出来なかった。ナツキの寝言が何度も何度も脳裏に蘇るのだ。
「俺はお前に置いていかれることが、怖い」という言葉が。

「ご主人様。僕は置いていきませんよ。だって、」

置いていくのは、貴方ですから。

ミハルは数日前耳よりな情報を手に入れていた。「王様とその娘の王女様が近くの湖に散歩しに行く」と。
散歩をする日は、明日だ。ミハルは主人であるナツキを幸せにする為にいるのだ。例え愛されなくても必要とされればナツキの願いを叶える。それほどまでに依存しているのだ。ナツキに。ただ一人、自分に温もりをくれたナツキに。
ミハルの狙い通りに行けば、ナツキは幸せになれる。その代わりミハルは置いていかれるのだろう。二人だけの世界から。

それでも、この人の事が──。

ハッとしたようにミハルはその気持ちを振り払うように頭を振る。
そんなことがあって良いはずなど無いのだ。

「僕は、この気持ちを捨てなければならない」

目を閉じる。今度こそ、眠りについたのだった。

中編です。
次回で最後となります。
<2016/10/31 12:59 いか糖>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.