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白紙の物語


第1章 『憂鬱の始まり』
ここはどこだろうか…。わからない。自分が誰か、わからない。自分の体はどこにあるのか、自分の意識はどこにあるのか、自分の存在はどこにあるのか、自分は、自分は、自分は…。
わからない。
彼…朝霧雄斗(あさぎりゆうと)は何もわからなかった。


ピピッ、ピピッと機械的な電子音が寝不足の頭の中に響いた。
いつまでも鳴り響く目覚まし時計を叩きつけ、黙らせた。数秒後、意識が覚醒し体を起き上がらせた。
「夢…だったのか…」
自分の体は濡れていた。寝ている間に汗を掻いていたらしい。
「うわっ、寒っ…」
自分が汗を掻いていたことを意識した途端、急に寒気が襲ってきた。
今日は一月二十二日だ。自室の中にも冷気が漂っていた。
どうしてこの寒い時期に自分が汗を掻いていたのか、わからなかった。
「薬、飲むか…」
独り言のように呟いて、雄斗はリビングへと向かった。


「まずいっ!」
頭痛薬の錠剤をコップに注いだぬるま湯で体内へと流し込んだ。
「はぁ…」
頭が痛い。それも、思わずため息が漏れてしまうくらいに。
雄斗は寝付きの悪い少年だった。形にならない悩み事が多すぎるのだ。中学二年生にもなればたくさんの悩みが出てくるものだ。
それでも、雄斗は人何倍かは我慢することに慣れていた。
「行かなきゃ、な…」
飲み干したコップをテーブルに置き、学校に行く準備を始める。
あらかじめリビングに畳んで置いてあるワイシャツを広げ、腕を通していく。
雄斗にとっては、学校に行くことも憂鬱のひとつだった。理由は簡単。純粋に人付き合いが苦手なのだ。人のことを昔から信用することが出来なかった。信用すると、いつかは裏切られる。いつかは捨てられる。
誰かと関わろうとすると、そんな不安が次々に湧いてくるのだ。
「ん、もうこんな時間か。急がないとな」
誰もいないリビングで独り言を呟き、急いで学校に行く支度を済ませる。

「じゃあ、行ってきます」
誰にも届かない挨拶を残し、雄斗は家を出た。


外は肌を切りつけるような、冷たい風が吹いていた。

雄斗は一人、学校へと向かいながら学校へ行くことの憂鬱さを必死に抑えようとしていた。
雄斗は嫌われているわけでもない。いじめにあったりもしていない。本当にただ、人と関わるのが苦手なのだ。


それは、彼の過去の記憶からのものだった。雄斗の母親は義理だった。それも、二人目ではない。四人目の義理の母親だった。
父親は三度の離婚繰り返し、やっと今の安定した生活を送ることが出来るようになっていた。

それは、虐待だった。彼が人との関わりを嫌うのは、虐待にあったトラウマからだった。
前の母親には連れ子がいた。その母親は、自分と本当に血の繋がりがある自分の娘だけを大切にし、雄斗のことはどこにも写っていなかった。
そんな雄斗には、ひとりの妹がいた。名前は朝霧藍(あさぎりあい)。藍もまた、雄斗と共に母親からの虐待を受けていた。

基本的に朝食は取らせてもらえなかった。連れ子には朝食を与え、雄斗たちは何も食べることなく学校に行かされた。
友達と遊び、時間が遅くなると家に入れてもらえなかった。連れ子に関しては帰りが遅くても家に入れていた。
そんな虐待の数々は約四年にも渡った。

雄斗の意識は現実に戻った。


「また、思い出していたのか…」
過去のトラウマを思い出し、気分が悪くなりながら登校していると、学校は目の前だった。
家から徒歩五分の近い距離にある学校だ。考え事などをしながら歩くと知らないうちに学校に着いていた感覚を何度も味わったことがある。


雄斗は自身の伸びきった髪の毛に冷気を纏わせながら校舎内を歩いた。
自分の教室は三階にある。そこまでの道のりがひどく長く感じられた。


「おお、おはよう雄斗っ!」
教室に足を踏み入れた瞬間、明るい声が俺の名前を呼んだ。
「うん…」
俺は冷気のように冷たく返した。挨拶をしてきたのは同じクラスの新田拓磨(にったたくま)だ。
「うん、ってなんだよ雄斗!挨拶くらい返せよ!」
朝から拓磨の声はよく頭に響いた。頭痛がひどくなる。
「頭痛いからさ、あんまり話しかけないでくんない?」
俺は冷たく、鋭い目つきで言った。その表情に拓磨は慌てて謝罪を口にした。
「あ、そうなの。ほんとごめん。大丈夫?」
「うん…」
この拓磨は、何故か俺によく話しかけてくる。毎日俺は冷たい態度で返した。それなのに、拓磨は気にする様子もなくいつも話しかけてくる。
本当に変わったやつだ。


今は通学路を歩き、下校中だった。毎日の学校が憂鬱だ。本当に疲れる。
「はぁ…」
またため息を漏らした。ため息をすると、白い息も同時に漏れ出す。
「寒いな…」
雄斗は普段人前ではあまり喋らないが、人がいないと独り言が多かった。
白息を吐き、まだ足元の至る所に残った溶け掛けの雪を踏みしめて歩いた。
ただひたすら、雪を踏む音だけが頭に響いた。


冷気で冷えた自室のドアノブに手をかけ、部屋に入る。
雄斗家族は朝起きるのが遅く、帰りも遅かった。父親は仕事、妹はおそらく下校中寄り道でもしているのだろう。母親は自室で弟と寝ていると思う。
家の中はとにかく静かだった。部屋に入ったらすぐに荷物を床に置き、自室のベッドに飛び込んだ。
「はぁ…疲れたぁ…」
羽毛布団に顔をうずめ、体の疲れを癒すのに務めた。
部屋は異常なくらいに寒かった。そんな寒さも気にせず、ただ体を休めるのに務めた。
そして、ゆっくりと雄斗の意識は遠ざかっていった。


雄斗は眠りについていた。空は日が落ち、金色の月明かりが部屋の窓から雄斗を照らしていた。
「う…ん…。ん…」
声を発していたのは雄斗だ。雄斗は寝言を口にしていた。
「うぅ…。うぅ…。あぁぁ…」
雄斗の表情には闇が写っていた。雄斗は呻いていた。呻いて、喚いて、ひとりの部屋で、ひとりで苦しんでいた。
そして、ぼんやりと瞼の隙間から光が差し込んた。窓から部屋に差し込む月明かりだ。
その光を追い求めるように、雄斗の瞼は開いた。
「はぁ…はぁ…。また、夢か…ぁ…」
雄斗は息が乱れながら目覚めた。現実に戻ってきた。
「着替えなきゃ…な…」
自分がまた汗を掻いていたことに気づいた。上体を起こし、部屋のクローゼットへと向かう。
「これでいいか…」
クローゼットの中から、一着の黒いパーカーを取り出した。それを身にまとい、雄斗は外出の準備を始めた。


手袋にコート、マフラーを巻いた完全防寒装備だ。
「重たいなっ…」
家の庭にある小屋から自転車を取り出していた。外出先は塾だった。
雄斗は昔から頭が悪かった。小学校の頃、ちゃんとした家庭環境で育っておらず、勉強が出来なかったのも理由のひとつだ。
そこで去年の夏休みに夏期講習に行き、親に頼んで入塾させてもらった。それからは、毎週火曜日と木曜日に塾に通っている。
「じゃあ行くか…」
自転車にまたがり、白い息を吐きながら塾へと出発した。


塾で勉強できるのは頭の悪い雄斗にとって、とてもいい事だった。しかし、ここでもひとつだけ問題があった。
雄斗が通っている塾『K学院』は、個別の授業だ。人付き合いが苦手な雄斗にとって、個別の授業は他の人と授業を一緒に受けず、ひとりで受けられるという利点があった。
しかし、個別でも問題があった。それは、席の問題だ。
確かに授業は個別形式だった。それでも、隣には人がいた。それは、この塾が三対一の授業だったからだ。
教師がひとりに対し、生徒が三人。一人の教師が生徒ごとに内容を合わせて三人に授業をするというものだった。
「はぁ…」
塾に関してはそれがいつも憂鬱でしょうがなかった。隣の席に知らな人が座るんだ。そのことを考えると体調が悪くなる感覚に陥る。
雄斗の人間嫌いは普通の人の非ではなかった。
そんな中、自転車を走らせていると肌に冷たい何かが触れた。
その冷たい何かは、月明かりに照らされダイヤモンドのように輝きながら降ってきた。
「降ってきたか…」
空は白銀の雲に覆われ、雪が降り始めていた。
肌にあたる雪の冷たさを感じながら、俺は急いで自転車を走らせた。


家から自転車で十分くらいだろうか。程なくして塾に到着した俺は、駐輪所に自転車を止めていた。
鍵をかけようとするが、手がかじかんでなかなか鍵が入らない。
鍵を入れることに熱中して気づかなかったが、俺の隣には見覚えのある自転車が止まっていた。
「これって…」
見覚えがあるのは当たり前だ。その自転車は、雄斗の自転車と瓜二つだったからだ。違う点をあげるとすれば、色だ。
雄斗の自転車は、暗闇に溶け込む黒。それに対して隣の自転車は明るい桃色だった。
「俺のと同じ自転車なんて珍しいな…」
最後に一言呟き、塾の中へと向かった。


「こんにちは、雄斗君っ!」
塾の重たい扉を開き、中に足を踏み入れると塾長の小泉陽子(こいずみようこ)先生の挨拶に迎え入れられた。
「こんにちは…」
俺は小さな声で挨拶を返した。
「雄斗君は今日三番ブースね!」
小泉先生が俺の授業する場所を指示し、それに従って俺は三番ブースの机に向かった。
三番ブースの机は三つともすべて空いていた。まだ誰も来ていないらしい。俺は真ん中の席に座ると後から来る二人に挟まれることになるので、左端の席に座った。
「おお、こんにちは」
低い男の声が俺にかけられた。三番ブースの方に向かって歩いてくるのは今日の授業担当の鈴木義弘(すずきよしひろ)先生だ。
「こんちは…」
俺は相変わらず覚めた態度で挨拶を返した。
「雄斗君元気ないね。失恋でもした?」
鈴木先生は近くにあった椅子に座り、冗談を含んだ話し方をしてくる。
「いや、ただ少し人生に疲れていただけです」
「えっ…!」
俺も先生に合わせ、冗談で返した。若干本気で言った部分もあるが。
「あ、そうだ。宿題はやってきた?」
まだ三番ブースには俺以外誰も来ていないせいか、やたらと鈴木先生は会話を続けようとした。
「ちゃんとやってきましたよ」
「そっか、優秀だねっ!」
宿題をやってきただけで優秀扱いか。その言葉は俺なんかじゃなく、もっと頭がいい人に言ってあげるべきだと思う。
そんなこんなで授業が始まるまで、鈴木先生と時間を潰していた。そろそろ二十時三十分からの授業が始まる。
「あと一分で始まるのに雄斗君しか来ていないってどうゆう状況だよ!」
時計の針が残り一周もしないうちに始業のベルが鳴るだろう。
その時だった。入口の扉が開かれた。
俺の瞳は、彼女を写していた。人の目を一瞬で奪う雰囲気を宿した少女だった。
なぜだろうか。少女は不思議な魅力を持っていた。少女から目が離せなかった。
「こんにちは佑姫(ゆき)ちゃん。佑姫ちゃんは三番ブースで授業です!」
小泉先生が少女に言った。少女は歩いてきた。こちらに向かって歩いてきた。
「こんにちは佑姫ちゃん!」
「こんにちは~」
鈴木先生の挨拶に少女が返した。落ち着く声だった。どこか昔、聞いたことのあるような、鈴の音のような声だった。
少女は右端の席が空いているにも関わらず俺の隣、真ん中の席に座った。
やばい。本当にやばい。心臓がバクバクと音を立てている。
少女は俺の方、隣を振り向き視線を合わせた。純粋で透き通った綺麗な瞳だった。雫のように透明で、見ていたら吸い込まれてしまいそうだった。
少女は口を開き、言った。
「こんにちは、よろしくねっ!」
その瞬間だった。もう、少女から視線を外すことが出来なかった。完全に目が奪われてしまった。
少女は微笑みながら俺の方を見ていた。
これは完全にダメだ…。雄斗 は人間嫌いだったはずだ。それなのに、どうしてこんなことに…。

どうして、この少女に一目惚れをしてしまったのか…。

えっと、みなさんこんにちは!
小説を投稿させてもらいましたっ!
もしかしたら字のミスなんかもあるかもしれませんが、やさしい気持ちで読んでいただければ幸いです!
<2016/11/06 12:49 K斗>消しゴム
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