「健康診断?」
「ああ……まだ風邪が抜けきってねぇだろ?お前らも診てもらえよ。」
「「治ってますよ、ねえ?」」
「「……あれっ。」」
突然土方さんに呼ばれて紹介されたのは、松本良順先生という蘭方医さん。
人の良さそうな笑みをたたえている。
「はは、言われた通りの二人だ。よく似ているな。」
松本先生の言葉に、僕と歌恋さんは顔を見合わせた。
また、言われた……。
「「(…真雪ちゃんは(歌恋さんは)私(僕)よりずっと可愛いのに…)」」
このとき、思考までも被っていたとは僕たちは知らない。
「うん、君はもう大丈夫だ。と言っても、まだ風邪は残っているから、あまり無茶はしないように。もう行っていいぞ。」
「はぁい。」
歌恋さんは案外すんなりと返してもらい、松本先生は僕に向き直る。
「さて、君は藤堂真雪君…だったかな。」
「はい。」
「君もだいぶ症状は抜けているみたいだが…何か気になることは?」
そう問われ、少し考える。
気になること…。
「特には…」
「そうか?微熱が続いていたり、咳き込んだり、痰が出たりは?」
「……咳なら、偶にありますが…」
そう言った途端、松本先生は顔色を変えた、ような気がした。
僕の額に手を当て、眉をひそめる。
「寝汗は?」
「あまり…」
「昨日は何回咳き込んだか覚えているか?」
「昨日は…三、四回くらい…」
「痰は?」
「そこまで…」
どんどん眉間のしわを深くさせていく松本先生に、戸惑いながら答えていく。
松本先生は少し考えるような素振りを見せると、土方さんと共に外へ出て行った。
「少し待っていてくれ。」
「あ、はい…」
何だろう…?僕、何かにかかっているのかな…。
「…まだ、はっきりとは言えない。そこまで酷いとも思えないし、様子を見たほうが得策だ。」
「わかった…隊務には出して良いのか?」
「…あまり無理はさせないように。とは言え、憶測程度のものだから通常の隊務には出しても大丈夫だろう。」
「ああ…。」
「にしても、まさかお前さんが気づくとはな。」
「…経験しているからな。何となく感じちまったんだよ。……この予感が、外れりゃ良いんだが…」
「松本先生から言伝だ。
まだ風邪は治りきってないから、体調には気をつけて無理をしないこと。何か気になることがあったら直ぐ知らせること。
……明日からまた巡察に出ろ。良いな。」
土方さんは戻ってくるなり言って、僕を少し複雑な表情で見た。
でもそれよりも、僕は隊務に出れることが嬉しくて。
「〜〜っはい!」
つい満面の笑みを浮かべる。
「お前ってそんな仕事が好きな奴だったか?」
土方さんの怪訝そうな顔に、
「僕は…剣を除くとお料理くらいしか出来ないですから。」
そう返した。
掃除をすると高確率で何かしら壊し、洗濯をするとシワだらけ。お茶を入れたら緑色のお湯と言われる。
僕は、あり得ないくらい不器用なのだ。きっと。
「……そうか。」
土方さんは何かを察してか、妙に優しい顔をする。
「俺の湯のみも何回変えたろうな。」
「い、一回ですよ人聞きの悪い!」
「何だか……だいぶ前と雰囲気が変わりましたね。」
「そうか…?特にはそう思えないが。」
次の日の巡察。
先頭を歩く総司さんのすぐ後ろを八十さんと歩いていたのだけど、どうしても違和感が拭えなかった。
街並みががらっと変わったわけでも、歩く人たちの姿が変わったわけでもないのに。
……何だろう、空気が違う気がする。
「…気のせい、ですかね。」
「…今は気にしなくても良いんじゃないかな。別に僕たちに被害がきてるわけじゃないし。」
総司さんの興味なさげな声に、確かにそうかも…と小さく頷く。
「……あ。」
不意に声を出した八十さんに少し驚きながらも横を向くと、八十さんは妙にすっきりとした顔でこちらを見てきた。
「巡察経路が変わったからじゃないか?」
「………あっ……」
途端に総司さんが笑い出す。
街の人たちは怪訝そうに見ていたけど、総司さんは御構いなし。
「あははははっ、真雪ちゃんってどこか抜けてるよね、本当!はぁーあ面白い!あははははははは!!」
すると、後ろの方からも笑い声が聞こえてきた。
「そういや藤堂が風邪で休んでる間に変わったんだったな!」
「いやーお前可愛いなあ!」
そんな声が次々に聞こえてくる。
は、恥ずかしい…!
つい真っ赤になって俯いた。
「…真雪。気にするな。」
「八十さん…!」
そんな中ちっとも笑わずに僕を覗き込んできた八十さんに感動しながら僕は見返す。
「……間違いは…んぐふっ、誰にでも…ふふっ、あるからな…!」
「いや馬鹿にしてますよね!!!」
八十さんの笑顔なんてそうそう見れないよ!
「……あ、真雪。斎藤組長が買ってこられた団子の店はあそこだぞ。」
そんな僕を少しも気にせずに小さな声で向こうを指す八十さん。
ついそちらを向くと、暖かい雰囲気の賑わったお店があった。
「あそこなんですね……………って何で知っているんですか八十さん!?」
「飴玉を貰ったからな。その時に聞いた。」
…な、何で飴玉…!
……何となく触れないようにして、「へ、へぇ…」なんて僕は返す。
「……明後日は非番だからな。行くか?」
「はい!」
「僕も行きたいなあ…」
「あっ、はい!行きましょう!」
声の大きさを元に戻した途端に前から声が降ってきて、思わず肩をびくんと震わせた。
び、びっくり…。
チラリ、とお店を見ると、優しげな女の子がにこやかに男性と話しているのが見えた。
可愛いなあ…なんてぼうっと見てしまう。
「…?どうかしたか?」
「いえ!何でもないです!」
八十さんの声に慌てて返す僕を、ニヤニヤしながら総司さんが見ていたなんて、その時の僕には少しも考えられていなかった。
