「…そういえば、山南さんを最近みかけませんが……」
巡察中、八十さんを見上げて言うと、八十さんは明らかに動揺した。
瞳を揺らがせながら、総司さんの方を向く。
「く、組長…」
「……言っても良いよ。」
何か事情があるのかな。
ちょっと不安になって、目を伏せる。
「…総長は、脱走により切腹した。」
「えっ…?」
どくん、と心臓が大きく高鳴った気がした。
思わず立ち止まってしまい、後ろの人とぶつかる。
「あ、すみません…」
「おう、悪い。」
切腹……切腹って、お腹を切るあれ…?
時代が違うんだ、と強く感じた。
僕がいた時代とは、似て非なる。
それにしても、山南さんが……。
「大丈夫か?」
「…っは、はい…」
「安心しなよ。介錯をしたのは歌恋ちゃんでも一君でも平助でもない。」
「そ、そういう意味では…」
何故か、総司さんの声が酷く冷たく聞こえる。
まさか、総司さんが。
聞きたかったけれど、聞いてはいけない気がして。
開きかけた口をつぐんだ。
重い空気が、流れる。
思わず下を向いて、少しだけ小股になって歩いた。
だからなのか、総司さんが止まったのにも気づかずぶつかってしまった。
「あ、すみません…!」
「ん。」
総司さんは僕の声には気にも止めず前を見据えている。
つられて前を見ると、見覚えのある顔が見えた。
「おやめください!」
珠紀、さん…?
何やら困っているような。
その理由は、少し視線を動かしたら直ぐにわかった。
「あん?ただの女が勤皇の志士様に逆らうってのか!?」
「おやめくださいってば!!」
あっ…。
そう思うよりも、足を動かすよりも、声を出すよりも早く乾いた音が辺りに響く。
周りで見ていた人たちの中にも、どよめきが生まれた。
平手打ちをされた、と気がついた男の人はかぁっと怒りで顔を赤くする。
「てめぇ…!!!」
刀を抜く。
そう気づいた僕は、そちらに行こうとする総司さんを追い抜いて珠紀さんの前に両手を広げて飛び出した。
「何をするおつもりですか?か弱き女性を守るどころか殺そうとして、何が勤皇の志士様ですか!」
しっかりと男の人を見て言い放つ。
再び周りの人たちがどよめいた気がした。
「おお、姉ちゃんやるな!」
「何言ってんだい、男の子だよ!」
「…あ、僕はれっきとした男ですからね。」
念のため、僕は男の人に言っておく。
「…この、ふざけやがって…!」
まあそうなりますよね。
男の人はさらに赤くなった顔で抜刀し、僕に斬りかかってきた。
周りから、悲鳴が聞こえてくる。
……ここで、斬っちゃいけない。さらに新選組の評判が悪くなるし、周りのお店にも迷惑だ……。
少し考えて、刀を上下逆さにした。
峰打ち……壊れやすいからやめたほうが良いって言われていたけど…。
やるしかない。
そう思って、男の人の一太刀を避けてから脇腹に刀を叩き込んだ。
あ、壊れなかった……。
男の人は苦しそうな顔をして倒れこむ。
「威張るわりに大したことないですね。」
刀をおさめながら言うと、小さな拍手が耳に入ってきた。
「やるね、真雪ちゃん。可愛い顔してるくせに格好良かったよ。」
「可愛い顔は余計です!」
「あ、こいつ縛っておいて。」
総司さんはいとも簡単に言いながらこちらに歩いてくる。
そして、僕の頭にぽんと手を置いた。
「偉い偉い。」
「もう、小さい子みたいじゃないですか。」
むくれてみせる。
と、急に帯を控えめにつままれた。
くるりと振り返ると、珠紀さんが申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「申し訳ありません、ありがとうございました…!」
へたり、と腰が抜けているのか座りんでいる。
これは、立てないかな…。
「どういたしまして。
総司さん、先に行っていてもらえますか?僕は珠紀さんをお店に送ります。」
「ふぅん。…ま、良いけど。
じゃあみんな行くよー。」
ぞろぞろと歩いていく一番組を見送ってから、僕は珠紀さんを横抱きにした。
「へっ!?お、重くないですか…?」
「大丈夫、軽いですよ。」
珠紀さんはみるみるうちに顔を赤くしていく。
周りの人たちのどよめきは、いっそう強くなった。
「おお!良いねえ兄ちゃんそのまま連れ込んじまいな!」
「何言ってんだい!!」
…苦笑いが、自然と出てきました。
「よし、ここで良いですかね。」
「はい…!あ、少し待っていてくださいね。」
ゆっくり下ろすと、そのままお店の方に走っていく珠紀さん。
少し経つと、何か持ってすぐに戻ってきた。
「ほんの少しですけど、お礼にどうぞ。」
「えっ、悪いです…」
「いえ、藤堂様がいらっしゃらなかったら、殺されていたかもしれませんし…」
紙に包まれたおまんじゅうは、まだ温かい。
珠紀さんの手と笑顔も、同じくらい温かった。
「…じゃあ、いただきます。」
「はい。ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
深々と頭を下げて言う珠紀さんに、可愛いな…なんて思いが生まれる。
…いやいやいやいや何考えてんの!?
顔が一気に赤くなった。
「じ、じゃあ行きますね。何かあったら是非呼んでください!」
「あ、っありがとうございます!!!」
何故か珠紀さんも顔が真っ赤で、お互いにあわあわしながら僕は歩いていく。
その時、周りの人たちがニヤニヤしながらこちらを見ていたなんて、知る由もなかった。
「あれ、真雪ちゃん総司君たちと一緒じゃなかったんですね。どうしたんです?そのおまんじゅうも。」
「あー、ちょっと女の人を助けて…」
「………ほう?詳しく聞かせてもらいましょうか。」
「ちょっ、何ですかそのニヤニヤした顔!?」
「良いから良いから、減るもんじゃありませんし!」
「それはそうですけどぉぉぉおお!!」
