凄い雨だなあ……。
歌恋さんと屯所を抜け出た日から数日。
僕は総司さんのお部屋で雨の音を聞いていた。
…どういう状況でしょうね。僕にもわかりません。
「真雪ちゃんはいるだけで良いの。手ぬぐいが必要なほどでもないし、かといって一人だと暇だし…」
「……話し相手、と?」
僕が聞くと、総司さんは「そ。」と笑った。
時は遡ること今朝。
朝餉を食べ終えた僕は、非番のため何をしようかと考えていた。
すると何故かここ数日熱で寝込んでいる総司さんからのお呼び出しがあり……。
現在に至る。
「真雪ちゃんに伝染しちゃうかな…とも思ったんだけど、今は真雪ちゃんしかいなくて。」
「…そう……ですね。」
そう…かな?
まあ置いておこう。
「あ、お茶を淹れてきましょうか?」
「ん?…ああ、よろしく。」
ニッと笑った総司さんに一つお辞儀をして、僕は部屋から外へ出た。
「〜っ…」
やっぱり、ちょっとくらくらする…。
世界が回るとか、そんな程ではないのだけど…。
微熱があるのかな。はっきりと熱!って訳ではない。はず。
小さく、咳をした。
一回で済ませるはずだったのだけれど止まらなくて、そのまましゃがみこんでしまう。
「あー…」
総司さん、僕に風邪をうつしたのかな…?
でも、流石に期間が短すぎると思う。
えっと…………
「……ずびっ…」
……汚くてごめんなさい。
頭が上手く回らなくなってきた気がする。
とりあえず何とか立ち上がり、厨の方へ歩き出した。
「あれ、真雪君?」
「あ…千鶴ちゃん…」
そっと厨をのぞいてみると、千鶴ちゃんが何やらやっているようだった。
「土方さんにお茶をお出ししようと思ったのだけど、真雪君もいる?」
「うん…じゃあ、総司さんの分もお願いできるかな。」
ホッとした……。
僕がお茶を淹れるとお湯になるからとても助かる。千鶴ちゃんのお茶は美味しいし…。
千鶴ちゃんは何を察したのか、にっこり笑って頷いてくれた。
「……これ、千鶴ちゃんのお茶?」
「えっ?」
何でわかったのか、と目で聞くと、総司さんは少し得意そうに笑みを見せた。
「だって真雪ちゃんのお茶美味しくないもん。」
「う…」
やっぱり美味しくないよね…。
しょんぼりと顔を下に向けると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
「ま、これから頑張れば良いよ。」
「はい…」
慰めているのか慰めていないのか。
でも、確かに千鶴ちゃんのお茶は美味しい。
ほっと息を吐いた。
「……ねえ、真雪ちゃん。」
「はい?」
不意に総司さんの声の様子がおかしくなった気がして、ゆっくりと顔をあげる。
「今から話す、嘘の話…信じちゃう?」
「…………え?」
不穏な空気。
冷や汗がつう、と背中を流れた。
「労咳って知ってる?」
知っているに決まってる。
肺を蝕み、最終的には命までを奪ってしまう死病。その話は、お母さまからも聞かされていた。
「…僕ね、それにかかっているんだ。」
「ふぇっ……?」
世界が、止まった気がした。
僕は何も言えず、二人の間に微妙な沈黙が流れる。
「……それを聞いても、まだ僕の近くにいてくれる?」
…確かに、労咳は近くにいると感染すると言われている、らしい。総司さんは、それを恐れているのだろうか。
「そんなの……いるに決まってます!」
でも、だからといって総司さんから離れるのは嫌だった。
総司さんは少し目を見開いてから、一回口を開いてまた閉じる。
「……そっか。」
「そうですよ。」
何だか試されたみたいで、そっぽを向きながら僕は答える。
「ありがと。」
「別に、当たり前ですもん。」
「拗ねないでよー。」
「拗ねてません。」
「……ふふっ。」
「…お茶のおかわり貰ってきます。」
「いってらっしゃい。」
廊下に出たら、雨は止んでいた。
でも、空は重い雲に覆われていて。
思わず不安げに見上げたのは、僕だけではなかった。
藤色の瞳にうつる黒い雲を睨みつけるように、空を見上げていたその人。
気がつかないまま僕が行ってしまった後も、そのまましばらくそこに立っていた。
