おためし小説投稿

登録一切不要で小説投稿!
文字サイズ変更 
薄桜鬼ー雪光録ー
- 第十九話 油小路の変・弐 -




向こうから凄い勢いで走ってくる姿が見えて、僕たちはつい立ち止まる。
長い髪、西洋の刀、短い袴……
目を凝らして、僕はぽつりと声をもらした。
「………歌恋、さん……?」
お留守番じゃなかったんですか……?



歌恋さんも僕たちに気がついたようで、直ぐに足を止めた。
「あれ、二人とももう終わったんですか?」
「はい。…歌恋さんは、何故ここに?」
「あー…その、嫌な予感がしたというか…」
「嫌な、予感?」
聞き返すと、歌恋さんは小さく頷く。
「何でしょうね、変な胸騒ぎがしたんです。
…で、こっそり出てきたんですが。まさか二人に見つかってしまうとは。」
あちゃー…なんて苦笑する歌恋さん。でも、目にはそんな余裕はないように見えた。
本当に、焦ってるんだ。
何となくそう感じる。
「「…僕(俺)も行きます。」」
あ、かぶった。
でも八十八さんも僕と同じように感じたんだ。
歌恋さんは少し驚いたように目を見開くと、「わかりました」とニッと笑う。
「じゃあ一緒に行きましょう!油小路ってこっちですよね?」
「ちょっと待ってくださいそっちじゃないですって速ぁぁぁあ!?!?
待ってください歌恋さぁぁぁぁぁん!!!!」
近所の皆さん、ごめんなさい……。




「こっち…こっちですから歌恋さん、ついてきてください…」
ぜえぜえ喉を鳴らしながら言うと、歌恋さんはキョロキョロ辺りを見回してから笑った。
「あはは、こっちはあまり来ませんからねえ。」
「そういう問題ですか。」
歌恋さん道を間違う上にものすごく速いからとても大変でした………八十八さんは「俺は良いから先に行け…!」なんて言って脱落しましたし。たぶんそのうち来ます。
と、急に歌恋さんの目の色が変わる。
「……あ。」
向こう側で、何やら知らない人が平助さんの首を掴んでいるように見えたため、だろう。
「嘘…」
歌恋さんが小さく掠れた声を出した。
僕も、ヒュッと息を飲む。
平助さん目掛けて、その男の人の手が…!
間に合わないかもしれない。でも、何もしないよりは…!
僕は夢中で走り、その男の人に向かって思い切り足を蹴り出した。
「平助さんを離せ!!!」
ーガッ…!


僕の蹴りは何とか男の人の腕に当たったけれど、その軌道を変えただけで終わってしまった。
でもわずかに平助さんを掴む力は緩んだようで、何とか平助さんは逃れる。
しかし、男の人の突きからは逃れられなかった。
「がっ…!」
男の人の手は、平助さんの肩を強かに打つ。
プシャッと飛び出た血が、僕の顔にもかかった。
「平ちゃん、真雪ちゃん!!」
風のように飛び込んできた歌恋さんが、男の人をキッと睨んで刀を抜く。
「天霧さん、もちろん一戦交えてくれますよね?」
「貴女は…」
天霧さん、と呼ばれたその人は、歌恋さんを見て驚きの混じった声をだした。
顔見知り…なのかな?
「真雪ちゃん。」
「はい!」
刀を油断なく構えた歌恋さんに呼ばれ、慌てて返事をする。
「平ちゃんを屯所まで運んでもらえますか。」
「歌恋さんは…!」
「大丈夫、直ぐに追いつきますよ。足には自信がありますから。」
「嫌…嫌です…!」
平助さんを軽々持ち上げてしまった人。きっとかなりの力がある。
そんな人を相手に、華奢な歌恋さんだけを置いて行くわけにはいかない。
何より、強くても女の人なんだ。
女の人を守れなくて、新選組一番組隊士の名が泣いてしまうよ。
でも、平助さんが危ないのも間違いない。
この肩…下手したら二度と剣が握れない可能性だってある。
どうすれば良いのかな……?
必死に考えても、良い考えなんてなくて。
焦る額には、汗が浮かんだ。
『…しろ。真雪。』
不意に呼ばれた気がして、ハッと辺りを見回す。
と、急に風が勢いよく吹いて、浅葱色の花が舞い散った。
「え、何…!?」
『驚いたか?』
「ひっ!!」
何ここ……油小路じゃない…?
どこかもわからない風景が続く場所で、どこからともなく聞こえた声に驚いて飛び上がる。
「何ですか…?貴方はいったい…!?」
『俺は…まあ、うん、月色の刀の付喪神みてえなもんだ。』
「付喪神?」
聞き返すと、「んむ」なんて返ってくる。
神様…なのかな。そういった神々しさのようなものは微塵も感じられないけど。
『真雪、お前は怪我の治りが早くないか?』
「早い…と思います。」
唐突に切り出され恐る恐る返した僕に対してか、満足そうな声でその人…?は言った。
『なら良い。』
「何がです…?」
話が全く理解できなくて、声も震えてきた。
そんな僕に楽しそうな笑い声が降りかかる。
『母親は気がかなり強いが、お前は気弱だなあ。
……ま、ここで本題だ。』
お母様が何なのか聞く前に、ガラリと真面目な雰囲気になってしまい、聴きそびれる。
『面倒だから言いたいことだけ言うぞ。
…お前の外傷から出る血は、どんな傷でも治す力がある。』
「……えっ?」
意味がわからない。
間の抜けた声が、嫌に響いた。
『簡単に言やあ特効薬だな。その…肩を怪我してるやつに、お前の血を数滴垂らすんだ。
で、安静にしてれば明日明後日くらいには治ってるんじゃないか?』
本当に、意味がわからない。
僕の血が、平助さんの傷を治す?一晩で?
そんな非現実なこと…
『そんな非現実なことあるわけないってか?』
「っ!?」
心を読まれた!?
つい反応して顔をあげてしまう。
『お前の体は傷が治るのが早いだろう?
…色々言うと長いから簡潔に言うが、お前には特殊な血がほんの少し流れてる。それがどういった形で出るかは人次第だが、お前は他のやつの傷を治す力になった。
信じるか信じないかはお前次第だが……』
次の瞬間、なぜだか声の主はニヤリと笑った気がした。

『…そいつを助けるには、試すのも手じゃないか?』

真雪の血が欲しいです、切実に(訳・最近転びました)
<2017/06/02 22:48 水瀬 玲>消しゴム
Copyright(C) おためし小説投稿 Since2013 All Rights Reserved.