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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第二十一話 ……………えっ……………? -



夜中。
しいんと辺りは静まり返っている中、嫌に僕の咳の音だけが響く。
最近、よく咳き込むんだよなあ…。
何でだろう。そこまで風邪はひかない体質だと思ってるんだけど。
と、不意に横から布が擦れる音がしてくる。
「またか。…大丈夫か?」
そっと聞こえてきた声。
優しいけれど凛としたその声は、心配の色に染まっていた。
僕は返事ができなくて、ただこくこくと縦に首を振る。
「…」
声の持ち主…一さんは小さくため息を吐いた。
「大丈夫ではないだろう。」
聞いといて何だが、と優しく背中をさすってくれる。
ようやく治ってきて一息吐いた僕は、ゆっくり後ろを振り向いた。
「一さんに迷惑ばっかりかけちゃって…すみません…」
「気にすることはない。」
そうは言ってくれるけど、やはり申し訳ない。
「やっぱり僕、他の隊士さんと同じ部屋の方が…」
「………あんたは俺と共にいるのが不満か?」
「い、いえ!…そういう訳では…」
慌てて両手をぶんぶん振ると、一さんは小さく笑った。
「なら、他の部屋にわざわざ行く必要もないだろう。」
「そう…なるんですかね。」
「ああ。」
そういう問題ではないのだけど、一さんの笑顔があまりにも綺麗で、言葉を失ってしまう。
やっぱり一さんは夜が似合うな、なんて不意に思ってしまった。
「…咳が治ったなら、早く寝たほうが良い。」
「そうですね。」
一さんはそんな僕には気づかず、何故か布団に入らないで僕を見てきた。
「…え?一さん、寝ないのですか?」
「あんたが寝るまで見ている。
…また咳き込んだりしたら、直ぐに対処できるだろう。」
「……」
ね、寝づらい…色々な意味で……。
でもこういう時の一さんは譲らないのはとうの昔に知っているし、ここは大人しく布団に潜り込んでみる。
「…おやすみなさい…」
「ああ。」
「…」
「…」
……………ね、寝づらい………!!!!!





翌朝。
今日はお昼に巡察だっけ…なんて考えながらご飯を食べていると、歌恋さんが急にこちらを向いてきた。
「真雪ちゃん、今日は巡察ですか?」
「…?はい。」
急にどうしたのだろう、と頷きながら返すと、歌恋さんは少し考えるそぶりを見せる。
「…まあ良いか。
ちょっと用があるんですが、手伝ってもら
えます?一番組には言っておきますから。」
「へ?」
用?何だろう。何で僕に?
でも、そう言われて断るのも失礼かな。
「わかりました。」
「ありがとうございます。」
そう言って笑う歌恋さんの笑顔は、心なしか少し悲しげに見えた。




「さ、ここです。」
「ここって…」
歌恋さんに連れられてついた場所は、どう見ても医者…だよ、ね。
何をするのか、と見上げる僕には全く気づかず、歌恋さんは戸を開ける。
「すみませーん。」
「おや、君は…何の用だ?」
「実は…と、真雪ちゃん、少し外で待っててもらえますか?」
「?はい…」
ついてきた意味はあるのだろうか。
つい疑問に思いながら、僕はぼうっと周りを眺めた。
賑やかな街。楽しげな人々の声が響く。
「…あれ、藤堂様?」
不意に聞こえてきた可愛らしい声に、驚いてそちらの方を向いた。
そんな僕に、声の主は「そんな驚かないでくださいよ」と小さく笑う。
「お久しぶりですね、藤堂様。」
「珠紀、さん。」
まさかこんなところで会うとは思わなくて、顔は赤くなるし変な声になっていそうだしでとても恥ずかしい。
「あははっ、不思議な声になってますよ。
今日はどうなさったんですか?」
「歌恋さんが何か用があるらしくて、お手伝いに来たんです。」
「そうなんですね!」
ころころと表情がかわる珠紀さんは、前よりもいっそう綺麗な顔になっているような気がする。
「真雪ちゃーん、もう良いですよ…って、この前言っていた女の子ですか?」
建物から出てきた歌恋さんの声に、ふと珠紀さんが顔をあげる。
「わぁ…!凄い美人さんですね!この方が歌恋さんですか?」
「お、私を知っているんですか?」
「はい!一度お会いしてみたかったんです!沖田様や藤堂様のお話でよく聞くので…!
私は珠紀と申します。」
急に賑やかになった。
ニコニコ笑いながら話している二人の姿は、どう見ても初対面じゃないよ…。
「珠紀さんですね!
私は月色歌恋です。この前お土産でお団子を食べたのですが、とても美味しかったですよー!」
「あっ、ありがとうございます!」
珠紀さん、褒められたからかな…ほおが赤くなってる。
白い肌によく合うなあ…。
「おーい。月色君ー?どうかしたのか?」
「あっやばっ!
すみません!これから用事があるので、今日は失礼しますね。
今度お店にも顔出します!
じゃあ真雪ちゃん、行きますよ?」
「あっ、はい!」
中の方から聞こえてきた男性の声に、歌恋さんはハッとしてからこちらを向く。
珠紀さんはきょとん、とした後、すぐに笑顔を浮かべた。
「はい!お待ちしております。」




「………で。」
建物に入ってから、僕は歌恋さんの方を見る。
「何をするんですか?」
「え?診察ですけど…」
さも当然のように言う歌恋さんに、僕は思わず首を傾げた。
「歌恋さん、どこか悪いんですか?」
「…あれ、言ってませんでした?」
「はい。」
そのまま固まる歌恋さん。
僕もつい足を止めた。
「真雪ちゃんの、ですよ。」
「……………えっ……………?」
えっ………………………?

……………えっ……………?
<2017/07/10 18:01 水瀬 玲>消しゴム
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