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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第二十五話 狂気 -






「ええ…あなたの一族が滅びたあの時の姿ですよ」
「…………え?」
歌恋さんが震えた声を出す。
「ほろ、びた…?歌恋さんの家が…?」
僕も小さく囁いた。
歌恋さんにそんな過去が?
でも歌恋さんは記憶にないようで、ただ困惑の色を目に映すのみ。
「……貴様。その情報はどこから手に入れた」
「手に入れるもなにも。私はその現場にいたのですよ」
現場にいた…って、どういうこと?
歌恋さんは混乱しすぎて話すことすら難しそうだ。
代わりに、僕がそっと聞く。
「何故…滅びたんですか?」
剃髪の人は、歌うように、それはそれは楽しげに答えた。
「人間ですよ。
…まあ、手を下したのは私だがね」
「…っ!」
歌恋さんの瞳が、一気に真っ暗に染まるような錯覚をしてしまう。
それくらい歌恋さんは動揺していて、肩を、膝を、手を、唇を震わせながらしゃがみ込んでしまった。
それでも剃髪の人は構わずに続ける。
「貴女は、両親と姉を目の前で殺された怒りに任せて、その場にいた数百の人間を皆殺しにしたんだ。
それはもう見事な戦いぶり!とても三つとは思えませんでした…!その姿はまるで鬼神のよう」
「やめ…て………」
「歌恋さん…」
苦しげに絞り出す歌恋さんに、僕は思わず駆け寄った。
そっと背中から抱きしめるけれど、震えが止まることはない。
「本当に素晴らしかった!!」
それでも尚続ける剃髪の人に、僕の中の怒りが急に爆発したような感覚になった。
「いい加減にーーー」
「いや……いやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
でもいうより先に、歌恋さんの悲鳴が響き渡った。
頭を搔きむしり、目からは止めどなく涙が溢れ落ち、強く噛み締めていた唇からは血が伝っている。
「月色様、私と手を組みませんか?鬼の世の中を共にーー」
「いい加減にしてください!!!」
初対面だとか、そんなことはどうでもよくて。
ただ、歌恋さんを苦しめるこの人が許せなかった。
勢いのままに抜刀し斬りかかる。
「そんなに……そんなに歌恋さんを苦しめて楽しいですか!?」
睨みつけ、殺気をそのまま出して問いかけると、剃髪の人はニヤリと笑った。
「貴方はその姿を見ていないからそう言えるのです。
あの姿を見れば誰もが興奮し、感動すると思いますよ」
「そういうこと聞いてんじゃないんだよ!!」
「待て、真雪!」
尚も斬りかかろうとした僕に対しての声に、僕はゆっくりと振り返る。
「平助さん?」
「歌恋が…」
言われるがままに歌恋さんの方を見て、そのまま目を見開いた。
「きゃはっ…………きゃははははははははははははははは!!!」
狂ったような笑いと共に、バッと真っ黒な花弁が舞い散る。
「えっ…?」
何故だか僕の周りにもひらひらと舞っていて。
掴もうとしてもそれはフッと消え失せた。
「歌恋…!」
歌恋さんの薄茶色の髪の毛は金色に輝き、落ち着いた水色だった瞳は緋く光る。
背中からは一対の蝙蝠の羽が伸び、刀も霧のようなものをまとっていた。
「真雪、お前も目がっ!」
「え?」
「お前の目が緑になってるんだ!」
「僕の、目が?」
そんなこと言われたって自分の目の色は確かめられなくて、きょろきょろと辺りを見回してしまう。
「これを使え」
金髪の人が差し出した鏡を覗き込むと、
「…っ!」
言われた通り緑色の目に息を飲んだ。
って、そんなことより!
「歌恋さん、どうしたんですか!?歌恋さん!!!」
呼びかけても、反応はない。
声が届いていないように思える。
じわり、じわりと流れ出る気は狂気と憎悪にまみれ、その強さに誰も近づけない。
「ふふっ……早く早く早く早くっ…!!
殺してあげるの……」
囁くように言う声は妖しく、美しく、つい僕は見惚れてしまった。
でも、このままだと皆さんが危ない。
「歌恋さん」
僕は一歩踏み出す。
「……なぁに?邪魔だよ。
……どいて?」
「僕の目を見てくれませんか?」
きっと、僕の目が変わったのは理由があるから。
歌恋さんの目の色と反対の色。もしかしたら歌恋さんの狂気を収めることができるかもしれない。
「……」
歌恋さんは言われるがままに僕の目を見つめる。
「あ……」
カシャン…と歌恋さんの刀が落ちた。
姿はそのまま、狂気だけが薄くなっていくのを感じる。
「私…」
「歌恋さん」
「ま、しろちゃ…ん…」
ぽろり、と歌恋さんの目から涙が落ちた。
「私、私……小さい頃の記憶がなくて、なかったのに、今、今、お父さまが、お母さまが、お姉さまが、みんなが………!!!」
そのまま顔を覆って泣き出してしまった歌恋さんの背中を、そっと撫でる。
「歌恋さん、落ち着いてください。
ゆっくり息を吸って………吐いて。そう。
まだ戦いは終わってないんです。
終わってから存分に悲しんで、泣いて。それまで我慢しましょう?
歌恋さんならできる。ね?」
できる限り声を低くして、落ち着くように。歌恋さんの耳元で、そっと。
歌恋さんが狂ってしまったら、あの状態になってしまったら。元に戻った時に絶対歌恋さんは後悔してしまう。


程なくして、少しずつ歌恋さんの息は落ち着いてきた。
「真雪、ちゃん……すみません、私としたことが。
…もう、大丈夫です…今は」
歌恋さんは言いながら立ち上がる。
まだ金髪に緋色の瞳だけれど、中は普段の歌恋さんになっていた。
「皆さんも、ご迷惑をおかけしました。
さあ、反撃させてもらいますか」
抜いた刀から霧はなくなっていて。
もしかするとあれは歌恋さんの感情が関連しているのかな。なんて場違いに思ってしまった。
「ところで、あの剃髪の方の名は何といいますか」
聞くと、千鶴ちゃんがそっと返す。
「雪村、綱道……私の父だよ」
「綱道さん、ですか」
千鶴ちゃんは向こうに聞こえないようにか、小さな声で早口に言った。
「お願い真雪君、父様を止めてほしいの。
もう……戻ってはくれない。でも、私は父様を止められない。身勝手なことだとはわかってる。わがままなことだっていうこともわかっている。
…お願い、父様を殺して……!!」
悲痛な声。きっと、本当は自分の父に死んでほしくないんだ。苦しくて仕方ないんだ。
でも、周りを想って……。
「……千鶴ちゃん」
「……何?」
「後悔、しない?絶対に?」
「…………うん。一度決めたことだから」
「…苦しくない?」
「苦しい…よ、本当は。
でも、ここで父様を止めないと、皆さんが…」
千鶴ちゃんはなんて優しいんだろう。
自分の父親なのに。
自分の感情を押し隠して、皆のためになるように考えている。
それなら、僕にできることは………。

「新選組一番組隊士、藤堂真雪。これより、貴方の命を頂戴致します。
………雪村綱道、お覚悟」

真雪さんのおかげでとても急展開になってしまいました笑
<2017/08/11 18:20 水瀬 玲>消しゴム
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