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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第二十五話 殺気 -



「新選組一番組隊士、藤堂真雪。これより、貴方の命を頂戴致します。
………雪村綱道、お覚悟」
言いながら、僕は雪村さんを見据える。
雪村さんは何も言わずに、ただ微笑を浮かべて僕を見た。
そのまま、あたりは静寂に包まれる。
白髪の人までもが動きを止め、僕たちをじっと見ている…ような気がした。
「…私も助太刀しますよ。
正気になったとはいえ、この人への怒りが収まったわけではないですからねえ」
言いながら隣に来た歌恋さんは、紅い目を光らせた。
ニヤリと笑った口から、鋭い八重歯がのぞく。
「ありがとうございます」
構えた刀に、柔らかな月光が反射したその瞬間。
僕と歌恋さんは同時に動き始めた。
向かってくる白髪の人の心臓を狙い、首を狙い。自分が血塗られようとも関係はない。
「真雪ちゃん、雑魚は私に任せてください。
……貴方は綱道さんを」
「承知しました」
歌恋さんの声色には、たくさんの思いが詰まっているような気がした。
自分が仇を討ちたいだろうに、他の人に託す。僕ならそう簡単にはできないこと。
僕はチラリと歌恋さんを見てから、思いっきり飛んだ。
白髪の人のうち一人の頭を踏み台にし、雪村さんの前に立つ。
「さあ、雪村さん。覚悟はできていますか?」
「貴方が私を殺す?できるのでしょうか」
雪村さんは目を細めて、指を鳴らした。
途端に後ろから殺気が近づいてくるのを感じる。白髪の人のようだ。
「真雪ちゃん、右側だけで良いですよ」
歌恋さんの声に、僕は後ろを見ずにそのまま刀を持ち替えて突いた。
上手く心臓に刺さったようで、人が倒れる音がする。
左側では白髪の人の背中に短刀が何本も刺さっていて、歌恋さんが無造作に、でも計算して投げたのだとわかった。
「歌恋さん、一口借りますよ」
「全部使っても良いんですよ?」
「僕はこれ、苦手ですから」
言うと、歌恋さんは意外そうな声を出す。
「やったことあるんですか?そうそう居ないと思うんですが」
「随分前ですよ」
以前お母様に教えてもらったことがある、気がする。その時は全く思い通りにいかなくて悔しかったはず。
「まあとにかく」
僕は言いながら短刀を引き抜いた。
滴る血を、少しだけ舐めてみる。
「ふぅん…」
思っていたより甘いんだなあ。
ペロリと唇を軽く舐め、僕は再び雪村さんを視界に入れた。
あれだけ僕が話していても何もせずに立っていたようだ。
不思議な人。
でも、殺されたいのかというと違うみたいで、僕が投げた短刀は小さな刃物で払われる。
短刀が地面に突き刺さる音、小さな刃物が衝撃で砕け散る音、歌恋さんたちが戦う音。その全てが混ざり合い、僕の頭の中で響くよう。
その響きが消え、辺りが一瞬静かになったのを合図にするように、僕は雪村さんに向けていくつかの突きを繰り出した。
でも、人とは思えぬ身軽な動作で全て避けられてしまう。
「貴方、本当に人ですか?」
思わず聞いてしまうと、雪村さんは不思議そうに目を見開いた。
「おや、私を人だと思っていたのですか?」
「…………は?」
聞いといて、という感じだけど、流石に僕の反応は間違いでないと思う。
突然目の前の人が自分は人じゃないと言ったら、皆さんはどういう反応をしますか?
「人でない、と?」
攻撃する手を緩めて聞くと、雪村さんはゆっくり頷いた。
「まさか、貴方はお気づきになるかと思っていましたよ。
月光族の血が流れているようですしね」
「………………え??」
月光族の、血?
歌恋さんと同じ血が流れている、ということ?
訳がわからなくて、僕は警戒は解かずに動きを止める。
「僕が、歌恋さんと同じ一族ってこと…ですか?僕は羽も生えていないし、目も紅くないですよ」
「そこが謎なのですよ。
そもそも貴方はおそらく、月光族が滅びた日にはその場に居なかった。自分が月光族だと知らないということは、血を求めて苦しむこともない」
「血を求めて、苦しむ?」
そういえば、前に平助さんが似たようなことを言っていたような。
「…うちの母親は、たまに血を吸うことがあったと記憶しています。
まあ、薄れた曖昧な記憶ですが」
自嘲気味に言うと、雪村さんはおや、と眉を寄せた。
「記憶がない?幼い頃のですか?」
「どうやら家の風習のようなもので、時わたー」
「ちょっとストップ、ですよ」
説明しようと開いた口は、歌恋さんに塞がれてしまった。
すとっぷ…とは、なんだろう。話すなってことなのかな?
「真雪ちゃん、これはやすやすと他人に伝えて良いものではないと思います。
真雪ちゃんはたった数年から数十年とはいえ、未来から来たんですから」
耳元で囁かれ、ハッとなる。
言葉にしていたけれど実感していなかったことが、急に現実として目の前に叩きつけられたような感覚。
僕はこの時代の人間じゃない。場合によっては、僕の言動一つで、僕やたくさんの人々の存在にも関わりかねないんだ。
「……綱道さん」
「なんですか?」
「ここは一時休戦としませんか」
僕の口を塞いだまま歌恋さんが放った言葉に、雪村さんは不思議そうな顔をした。
「………まあ、構いませんが…。
そちらが不利になるだけだと思いますよ。良いんですか?」
「ええ、こちらも準備しますしね」
「へえ?」
雪村さんは目を細め、おかしそうな顔をする。
「千鶴ちゃん、ごめんなさい。お願いのこと、ちょっとだけ待っていてもらいますね」
気にせず歌恋さんが振り向いて言うと、千鶴ちゃんは不安げに頷いた。
「じゃあ、私たちはここで」
言いながら歌恋さんがくるりと後ろを向いた時、僕はふと気づいてしまった。
なるべく抑えているのか、白髪の人たちのものと混じっていて、すぐには気がつかないもの。さりげなく、でも強く歌恋さんから流れ出ているもの。
……殺気。







「………ところで、私って結構邪道なんですよ?」
ーーーーーグギッ




最後の音、流石に聞いたことがないので悩みました笑
<2017/08/22 14:03 水瀬 玲>消しゴム
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