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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第二十六話 反撃 -





「………ところで、私って結構邪道なんですよ?」
ーーーーーグギッ
歌恋さんの声とともに鈍い音が響く。
しばし驚いて、僕は動きを止めてしまった。
歌恋さんの足は雪村さんを押し倒す形で雪村さんの首を踏みつけていて、雪村さんの目は驚きに見開かれている。
先ほどまでこっちに居たのに……思い切り飛んでも人の力じゃ向こうにはいけないような気がするけれど。
「なんで……休、戦と………。
嘘を、吐くなんて…」
喉を踏まれているせいで掠れた雪村さんの声を聞いて、歌恋さんは妖しい笑みを浮かべた。
「だって私根っからの武士じゃないですし、平成暮らしも長いですし。
……それに」
そこで一度言葉を切り、ペロリと唇を舐める。
「私、一時がどれくらいなんて言った覚えありませんよ?」
…うわあお。
言葉も浮かばない。ただ、平成…とはどこだろうか。
僕は少しだけ呆然としていたけれど、やらなきゃいけないことがあることに気がついた。
歌恋さんが雪村さんに危害を与えている、となると、白髪の人たちも黙っていないだろう。
歌恋さんを守らなきゃ。
案の定歌恋さんに襲いかかろうとしている白髪の人たちに向かって、僕は刀を向けた。
「貴方らの相手は僕ですよ」



高下駄がこんなところで役に立つとは思わなかった。
私、月色歌恋は、綱道さんを踏みつけながらナイフを取り出す。
「真雪ちゃんの仕事を奪っちゃいますが…」
ちらりと後ろを向くと、羅刹相手に戦っている真雪ちゃんの姿が見えた。もちろん、新選組のみんなも、風間たちも戦っている。
まあとにかく、私が今やるべきことはただ一つ。
この人を、殺す。
「抵抗しないんですね」
「もう…できるとは、思いませんしね……」
喉を踏むだけでこうも動けないものなのかな?正直よくわからない。
けれどもこれがチャンスなのは確かだから、私はナイフを取り出した。
刃の部分が月光に反射して、濡れたように光る。
「じゃあ、真雪ちゃんの言葉を借りて。
………雪村殿、お覚悟」
その言葉を合図に、私はナイフを振り上げた。
ーーードスッ
肉を絶つ感覚。力を込めれば込めるほどそれは強くなり、ナイフは奥へ奥へと沈んでいく。
「カハッ…」
綱道さんの吐いた血が、少しだけ袖についてしまった。まあ正直そんな気にしないけど。
「……ん」
あるところでナイフは進まなくなって、傷口の方を確認してみた。
「うわあ、鍔までいってますよ」
もう聞こえてないかな?
じいっと綱道さんの顔を見つめる。
見れば見るほど憎しみがふつふつと湧いてきて、心臓が握りつぶされるように苦しくて、涙が溢れそうになってきて。
でも、真雪ちゃんに言われたから。今は我慢しなきゃ。
私は一度ナイフをぐりっと動かしてから、思い切りそれを引き抜いた。
血が、スローモーションのように辺りに飛び散る。
不謹慎だけど、綺麗だな…なんて思ってしまった。




あちらは終わったみたいだな。
動かない雪村さんと何故か空をぼおっと見上げる歌恋さんにそう判断する。
気がついたら白髪の人も随分減っていた。
とはいえその分こちら側の疲労の度合いも強く、金髪の人たちも忌々しそうに舌打ちをしている。
僕はさっと平助さんの近くに行って、平助さんに背中を合わせた。
「大丈夫ですか?」
「ん?余裕余裕!
………って言いたいとこなんだけど、正直辛いかも。こいつら多すぎね?」
「ですよね…」
平助さんはニッと笑ってはいるけれど、息切れが激しい。やっぱりそうだよね。
「どうにかならないものですかねえ…」
ぼやいたところで、白髪の人がいなくなるわけじゃないのだけど。
でも、本当にこのままだと新選組のみなさんが危ない。
どうすれば良いんだろう…。
「でもあと少し、ですよ。
ほらもう敵は二十ほど!」
「ヒッ!!」
急に後ろから声が聞こえてきて、変な声が出てしまった。
「か、歌恋さん…」
「なんて声ですか」
クスクス笑う歌恋さんに、僕はほおを膨らませる。
「まあとにかく」
歌恋さんは短刀を三つほど左手に、刀を右手に構えて唇を舐めた。
チラリと見える牙、普段より色が濃い唇。
それが妙に白い肌に映えていて、こんなときでも少しだけ見惚れてしまいそうになる。
「反撃開始といきますか」
歌恋さんの声が辺りに響いたのを合図に、僕たちは飛び出した。





「ふう、流石に疲れますね」
あれからどれくらい経ったのだろうか。おそらく半刻は経っているけれど。やっと白髪の人を全滅させたみたいだ。
僕が言いながら振り向くと、肩で息をする皆さんが見えた。
「……大丈夫ですか?」
「逆に真雪はなんでそんな体力あんだよ…」
平助さん、ゼェハァしながら言うから声がすごいことになってます。
辺りを見回すと、もう金髪の人たちはいなくて。いつのまに移動したんだろう。
「……歌恋さん?」
ふと目を止めた先に、しゃがみ込む歌恋さんの姿が見えた。
少しして、先ほど自分が言った言葉を思い出す。
『終わってから存分に悲しんで、泣いて。それまで我慢しましょう?』
言っておいてなんだけど、よく我慢できたな。僕ならきっとできないで、感情を爆発させてしまう。
僕は歌恋さんに駆け寄って、隣でしゃがんだ。
すると聞こえてくる歌恋さんの嗚咽。
「歌恋さん」
「ま、しろちゃん…」
…美しい、と思ってしまった。
緋色の瞳に込められた悲しみも、溢れ出す涙の透明感も。金色のまつげは涙に濡れ、震える小さな唇は紅色で。
「ああ…私、どうしたらいいんでしょう。もう、家族がいないなんて、…もう、二度と会えないなんて。今まで考えてもいなかった。そうだ、私はお姉様に、お父様とお母様に、みんなに守られたんです。みんなに守られて、そのみんなは亡くなって。そんなことも忘れて今まで暮らしてきた。なんて恩知らずなんでしょう」
言ううちに、歌恋さんの見た目は通常に戻っていく。
スゥ…と緋色から空色に変わっていく瞳。
唇の色も薄くなって、髪色も変わったけれど、牙だけは残っていた。
今まで気づいていなかっただけで、普段から牙は生えているみたいだ。
……それよりも、僕は歌恋さんになんて言えばいいのだろう。近づいたはいいけれど、かける言葉が見つからない。
「………歌恋」
隣から聞こえてきた声に、顔を上げた。
息を整えたらしい平助さんだ。返り血まみれのその顔に、優しい笑みを浮かべている。
「お前はもっと甘えていいと思う。
たまには、オレに年上面させてくれよ」
言ってから、そっと歌恋さんを後ろから抱きしめた。
包み込むように、そっと。
平助さんらしくなくて、少し驚く。
「オレにはさ……正直、お前が今どんな気持ちかなんてサッパリわかんない」
嘘でしょ…!?それ言っちゃう!?その言い方だとものすごい嫌な人みたいにならない…!?
「でもさ、辛いんだなってことはわかる。
そんな感情をさ、オレに分けてくれねえか?
どんな感情だかわからなくてもさ、受け止めることはできると思うんだ」
分け、る…。
僕には考えもつかなかったこと。
歌恋さんは驚いたように、視線を平助さんに向けた。
「まあ分ける…って具体的に何をするかわかんないけど。
とにかくオレは、お前の力になりたい」
歌恋さんは、何も言わない。
ただただ平助さんを見つめて、口を僅かに震わせている。
もちろん僕や周りの人が何か言えるわけもなく、辺りに静寂が訪れた。
「……ちゃんの」
「ん?」
不意に歌恋さんが何か呟いて、平助さんは首をかしげる。
「………平ちゃんの、ばかぁ…!」
歌恋さんは絞り出すようにして言った後、またぽろぽろと泣き出してしまった。ぎゅっと平助さんの服を握り、体を震わせて。
…きっと、「平ちゃんのばか」の続きは、「そんなことを言われたら、すがりたくなってしまう」なんだろうな。

歌恋目線って(カタカナとか使える面で)楽ですね…!
<2017/09/07 07:24 水瀬 玲>消しゴム
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