おはようございます、藤堂真雪です。
今日はとてもいい天気みたいですね。障子越しに入ってくる日の光が眩しいです。
……はい。
昨日の戦いのせいか、熱が酷くなりました。
………はあ…………。
時折咳き込みながら、ぼんやりと天井を見上げる。
やることも何もないから、ひたすらに暇だ。
かと言ってなにかお手伝いしようとすると全力で止められるし、そもそもたぶんそんな体力はない。
ただ、昨日のことと、その後に説明されたことを思い返す。
…あの、白髪の人たち……羅刹。どうやら、新選組にもその存在はあるみたいで。いや、むしろ新選組で実験をされていたようなもの…らしい。
なんだか難しくてよくわからなかったけれど、とりあえず事情を知っている人にしか話してはいけない、“新撰組”の秘密。
「はあ…」
知らなかったなあ、僕。他の隊士さんも知らないことだし、当たり前なのかもしれないけれど…なんとなく仲間はずれみたいな感じ。
拗ねても仕方のないことだけど。
「…」
寝よう。少しは体力回復するだろうし、このまま起きていても頭がぐるぐるするだけな気がする。
思った以上に「寝る」という行為は体力回復に良いみたい。
そんな訳で昼餉の後くらいには、熱もだいぶ下がっていた。咳はまだ出るけれど、病が病だから仕方がない。
……珠紀さんの甘味処、行きたいなあ。でも、これで伝染しちゃったら…。
「真雪ちゃん」
「…歌恋さん?」
八番組は、今日は珍しく昼の巡察…とか言っていた気がするけれど。何故歌恋さんの声がするのだろう。聞き間違えかな。
ゆっくりと起き上がって障子を開ける。どうやら聞き間違えではないらしく、廊下に歌恋さんが立っていた。
「巡察はどうしたんですか?」
「今日はもう終わりましたよ。真雪ちゃんの昼餉は遅めでしたから、体内時計が狂っちゃったんですかね」
なるほど。確かに、わざわざ昼餉の時間を同じにしていたら、持ってきてくれる人の昼餉が冷めてしまう。
「で、私これから甘味処に行こうと思うんです。何か食べたいものはありますか?」
「甘味処……珠紀さんのですか?」
「もちろん。……ああ、真雪ちゃんは行っちゃダメですよ。安静に」
何故言いたいことがわかったのか。
僕は小さくため息を吐くと、恨めしげに歌恋さんを睨め付けてみた。
全く効かない。
「そんな顔してもダメなものはダメですー。あまり高いものでなければ好きなもの買ってきてあげますから」
好きな、もの…。僕は甘味なら大抵は好きなんだけどな。
少しの間考えてみても、特にぱっと浮かぶものはない。
…なんでさっき甘味処に行きたいとか思ったんだろう。
「………………珠紀さんがおすすめしてくれたもので」
だいぶ間を空けてから言うと、歌恋さんは軽く目を見張ってからクスクスと笑った。
「わかりました」
「けほ、こほこほっ、けほ、けほっこほっ」
咳って、しすぎると腹筋が痛くなりません?
今まさに、腹筋が痛いです。
心なしか肺も痛くて、病にかかってしまった自分を呪いたくなる。
総司さん、僕よりもずっと早くにかかっていたんだよね。……ああ、まだ謝れてないなあ。もしこのまま、どちらかが、両方が、死んでしまったら……。
ふと考えてしまったことにぞっとして、頭をぶんぶんと振った。
弱気になっている場合じゃない。絶対に二人で治って、また二人で戦ってやる、くらいには思わないと。
………謝りたいなあ。
今、どこにいるのかな。
そっと立ち上がって、障子を開ける。
目を刺してくるような眩しさに、ぎゅっと目を瞑った。
総司さん、お部屋にいるかな。
いませんでした。
他の隊士さんを捕まえて話を聞いたところ、どうやら散歩に行っているらしい。僕も散歩に行くから何か聞かれたらそう答えてほしいと言ってから、こっそり屯所の外へ出た。
少し歩けば、街の賑わいが聞こえてくる。
けれども、前よりもなんだか変な空気が流れているなあ。戦が近づいているのかも。…そのとき、僕は戦えるのかなあ……。
「…っと」
なんて考え事をしていたからか、前の人とぶつかってしまった。
「すみませ…………」
謝りつつその人に目をやる。
そこで、僕は声を止めてしまった。
だって、その人は……。
「歌恋さん…?」
歌恋さんにとてもよく似ていたのだから。
僕の声にその人はパチクリと目を瞬かせ、そのあと僕の肩をがしっと掴んだ。
つい情けなく、「ひっ…」なんて声が出てしまう。
「歌恋を知っているの!?」
「……へ?」
声まで歌恋さんに似ているけれど、この様子からして歌恋さんではなさそうだ。
「…ああ、失礼。
僕は月姫氷蘭。とある人を探しているのだけれど、君が言った『歌恋さん』は、月色歌恋のこと……かな?」
声は完全に女の人、だけど。
歌恋さんを大人っぽくした…男装した女性、に見える。
「は、はい……そうです」
恐る恐る…といった風に言うと、月姫さんは目を一気に輝かせた。
「是非連れていってもらえる!?私、ずっと探していたの!!」
……うん、この人は女の人みたいだ。
歌恋さんが帰ってきているかは微妙。けれども、この賑わいの中を探すわけにもいかないので、とりあえず屯所にまで来てもらうことにした。
道中話したところ、やっぱり月姫さんは女の人のようで。女の一人旅は危ないから、男装しているらしい。
「…あ、ここです。もう帰ってきてるかな…?」
門のところからきょろきょろと中を見てみるけれど、それっぽい姿はない。というかここからじゃほとんど見えない。
「……何をしているんだ?」
呆れ声が聞こえてきて、そちらに顔を向けた。
「八十さん…」
「部屋で安静にしていろと言われていたのではないのか」
「そうなの?」
「………………………………ハイ」
危うくお説教が始まるところだったけれど、月姫さんがいたおかげでそれは回避された。
八十さんは驚いたように大きな瞳を見開き、月姫さんの方を向く。
「…この方は?」
まあ、そうなりますよね。
八十さんも月姫さんが女の人だと見抜いたみたいだ。流石。
「歌恋さんに用があるみたいなんですが、帰ってきていますか?」
「いや、帰ってきていないと思うぞ」
「私がどうかしましたか?」
「「ひょえっ!!!」」
後ろから聞こえてきた声に、八十さんと僕は揃って変な声を出してしまった。
「んふふっ、面白い反応」
なんて余裕の月姫さんに、二人してじっとりとした視線を送る。
って、そんなことをしてる場合ではなくて。
「月姫さん、この方が歌恋さんですよ!」
慌てすぎて声が裏返ってしまった。
それはともかく月姫さんに言うと、歌恋さんはきょとんと首をかしげた。
「…月姫さん、ですか?」
歌恋さんは不思議そうな声色を出す。
月姫さんは一度目を開いてから、懐かしむような表情を浮かべた。
「……歌恋」
声は、女の人のものになっている。
「…え?」
「ごめんね、待たしちゃって。
月姫…いや、月色氷蘭って、覚えているかしら?」
「えっ…!?」
歌恋さんの声には明らかに困惑の色が滲んでいて。月姫さんはそんな歌恋さんを見て微笑んだ。
「え……っでも、でもお姉様は、もう…」
「もう?」
「…もう、亡くなっ……て…」
歌恋さんは声を絞り出すように言う。
その姿があまりにも苦しげで、見ているこちらまで辛くなってきた。
「…すみません、ちょっと二人で話しても良いかしら?」
月姫さんの真面目な顔に、僕と八十さんはそっと頷いた。
