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薄桜鬼ー雪光録ー
- 第三十三話 守る -




「援軍を頼みに?」
僕が聞くと、歌恋さんは「はい」と頷いた。
「私は行かないのですが、淀藩へ井上さんと千鶴ちゃんとともに。
こう…わぁーっ!って感じの戦ではありませんが…頼まれてくれますか?」
「いいですよ」
わぁーっ!ってなんだろう。あ、いやなんとなく意味は通じるけれども。ほかに言い方はなかったのかな。
「今からですか?」
「はい、突然ですみません」
本当は歌恋さんが行く予定だったところなのだが、歌恋さんには用が入ってしまったらしい。
大丈夫です、と笑ってみせると、歌恋さんは安心したような笑みを見せた。
「じゃあ、お願いしますね」
「承知しました。準備が出来次第行きます」





「……ん」
準備の途中、不意に胸の辺りに嫌な予感みたいなものを感じて、僕は眉をひそめた。
辺りに誰もいないといいな。歌恋さん、もう離れているといいな。そんなことを願いつつ、僕は懐紙を口にあてる。
酷い咳。だんだん身体がくの字に曲がっていくのを感じる。
喉が痛くなるほど咳き込んでも、なかなか治ってくれなくて。
不意にじわりと何かが這い上がってくる感覚がして、僕は目を見開いた。
「ーーかはっ…!」
しばし、呆然とした。
懐紙に滲む緋色も、痛む肺も、口の中に広がる味も、信じられない。信じたくない。
「……あっ…」
掠れた声が出る。
視界が潤み、手は震え、顔は歪む。
僕は部屋の真ん中で、ぽろぽろと泣いていた。
苦しいのは肺だけじゃない、と思う。
……いや、しっかりしろ藤堂真雪。やっと役に立てるかもしれない機会が来たというのに、弱気になっている場合じゃない。
僕は強く目をこすり、壁を睨みつけた。
「強く、ならなきゃ」
ただでさえ、役立たずなのだから。





井上さんと千鶴ちゃんと、淀藩に向かって走る。
僕に気遣ってか、いつもより遅い気がした。
申し訳ないな。でも、疲れてきてるのは事実で、少しずつ息が荒くなる。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です」
何度目かの問いに同じ答えを返すと、井上さんは少しだけ微笑んだ。
「ああ。でも、無理はしないんだよ」
「はい」
優しく声をかけられて、こちらまでなんとなく笑顔が出る。
「井上さんて、なんだかお父様みたいですね」
思わずそんなことを言ってしまって、井上さんは少しだけ目を見開いた。
でもすぐ笑顔に戻って、
「似ているのかい?」
と聞いてくる。
「似ては…ないですね。お父様は、ちょっと落ち着きがなくて、おっちょこちょいで、よくお母様に笑われていました。でも、いざという時はとても頼りになったんですよ」
僕が返すと、井上さんと千鶴ちゃんはクスリと小さな笑い声をあげた。
「なんだか、平助君と歌恋ちゃんみたいだね」
「たしかに…そうですね」
僕もつられて笑ってしまう。
と、不意に井上さんが表情を固くさせて、僕たちも井上さんの視線を追うように顔を上げた。
目の前に建つ淀城から、なんだか嫌な空気が感じられてる。
そもそも、城門が閉まっているのだ。
「…おかしいな。閉められている…」
それでも援軍を頼まないわけにはいかないから、井上さんは立ち止まって声を張り上げた。
「我々は幕命を受けて参った!お上に弓引く逆賊を討つため、力をお貸し願いたい!」
けれども、淀城には変化がない。ただ、不気味な静寂があるだけ。
ふと、ピリリと殺気のようなものを感じて、上を向いた。
「あっ……!」
隙間からまっすぐこちらを向く、銃口。
反射的に僕は千鶴ちゃんの手を引く。
「危ないっ!」
ーーパァンッ
この一発を皮切りに、次々と撃ち込まれる。
淀藩が、幕府を見限った…ということ、だよね。
「走れ!」
井上さんの声を合図に、僕は千鶴ちゃんの手を引いたまま走り始めた。
「えっ…?援軍は、援軍はどうするんですか!?」
「無理だよ」
千鶴ちゃんの困惑した声に、僕は囁くように返す。
「無理…?」
「淀藩は幕府を見限った。要するに、今の僕たちからしたら敵なんだよ。援軍なんてくれるわけがない」
「っ!」
千鶴ちゃんの息を飲む声と、井上さんのため息が重なった。
「……トシさんに、負けなんて見せたくないものだがね。何か驚くような策を考えてくれることを祈るしかないか」
僕たちはこくりと頷いて、少しだけ足を早めた。


しばらく走っていると、前方に二つほどの人影が見えてきた。
「誰かいますね」
「土方さんでしょうか?」
僕たちが言うと、井上さんは頷く。
しかし、次の瞬間乾いた音が森に響き渡った。
井上さんが、目の前で膝から崩れ落ちる。
「井上さんっ!?」
井上さんが苦しげな顔で押さえる胸からは血が溢れ出てきて、先ほどの音が銃声なのだと今更理解した。
あの人影は、土方さんじゃなかった。
敵…!
「貴様ら……幕府軍の……!」
苦しげに、絞り出すような声を出す井上さん。
「この隊服、やはり新選組か」
「こいつの首を手土産にすりゃ、薩長も喜んで迎えてくれるかもしれんな」
銃を手にし、近づいてきた男たちは下卑た笑みを浮かべている。
どうしよう、井上さんを放っておくわけにはいかない。でも、ここで何もしないわけには…。
「……雪村君、藤堂君。逃げなさい」
「………え?」
よろよろと立ち上がって言った井上さんに、僕は小さな声を出した。
震える手で刀を握り、男たちの前に出る。
信じられなくて、僕は呆然のその様子を見た。
「トシさんに伝えてくれ。………力不足で申し訳ない。最後まで共にあれなかったことを許してほしいーー」
「……っ!」
死ぬつもりなんだ。僕たちを守るために。
「最後の夢を見させてくれて、感謝してもしきれない………、とね」
千鶴ちゃんもそれは理解したようで、ハッと目を見開いてから弱く首を横に振った。
「どうして…っ、逃げるなら井上さんもいっしょに!」
「そうです…それに、僕だって戦えーー」
「行くんだ!!」
強い調子で言われ、まるでそこから離すように突き飛ばされる。
「藤堂君、雪村君は任せたよ」
井上さんはそう言って優しく微笑むと、ギンっと前を強く睨みつけた。
「うぉぉおおおー!!!!」
気迫のこもった叫びが、辺りに響き渡る。
「嫌っ……井上さん!!!」
千鶴ちゃんの悲痛な声も虚しく、一人の刀が井上さんの胸を貫いた。
僕たちは、ただ、井上さんが滅多刺しになっている様子を見ることしかできない。
涙がとめどなく頬を伝わり落ちる。
千鶴ちゃんは数歩井上さんの方へ歩き、また足を止めて涙を流した。
「……ぁ」
そんな千鶴ちゃんを見ていた僕は、ハッと目を見開く。
千鶴ちゃんに忍び寄ってきた影に、僕は慌てて飛び出した。
「…っ千鶴ちゃんっ!!!!」
ーーーーザシュッ…

薄桜鬼で千鶴ちゃんと井上さんを襲う敵って、三人であってますよね…?←
<2017/11/21 07:08 水瀬 玲>消しゴム
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